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第10章 一大決戦

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13 十二番隊の死闘3

「うう……」


 ウェンディは呆然と立ち尽くしていた。


 隊長格二人が瞬殺とは──。


 強い。

 強すぎる。


 正直に言って、人間が立ち向かえる相手とはとても思えなかった。


 恐怖で足がすくむ。

 震えが止まらない。


「嫌だ……怖いよ……」


 ガチガチと歯の根が鳴っていた。

 恐ろしくて涙がこぼれ落ちる。


 逃げたい。

 逃げたい。

 逃げたい──。


「それでも……っ!」


 ひとりでに後ずさろうとする両足を、ありったけの意思の力で止める。



(お願い、隊長。ボクに戦う意思を……与えてください!)


 立ち向かう勇気が欲しかった。


 必死で祈る。

 必死で願う。


 と、そのときだった。


「ここはあたしがやる──」


 サーシャが飛び出した。


「待って! 一人じゃ駄目だよ、サーシャちゃん!」

「黙って殺されるわけにはいかないでしょ! それに──こうやって誰かが戦う勇気を示せば、きっと続く者が現れる!」


 剣を手に凛々しく叫ぶサーシャ。


「【ソニックムーブ】!」


 高速移動スキルで駆け出す。


「サーシャちゃん……」


 戦乙女といった様相の彼女に、ウェンディは見とれた。


 彼女は、すごい。


 自分などは怖くてたまらないのに。


 以前に、王都で魔剣使いと戦ったときも、ひたすらに怖かった。

 なんとかその恐怖を克服して敵に立ち向かったが──。

 眼前の魔神は、その比ではない。


 立ち向かうなど、とても無理だと思える。

 なのにサーシャは──おそらく彼女とて怖いはずなのに、真っ向から魔神に向かっていこうとしている。


「ボクも……ボクだって! 【ラピッドムーブ】!」


 ウェンディは高速移動スキルで彼女を追いかけた。

 サーシャがわずかに速度を緩め、ウェンディと並走状態になる。


「……いくよ。あたしたちで」

「了解!」


 二人は騎士養成機関の同期である。

 訓練で、実戦で、何度となく連携してきた。



 視線一つで相手の意図を汲み取り、ともに加速する。

 走行ラインを交差したり、縦列に並んだり、とフェイントを重ねながら、魔神に肉薄する。


「へっ、輪をかけて脆そうな連中が来たな! 俺は男だろうが女だろうがいっさい容赦しねーぜ!」


 ヴァイツが吠えた。


「砕けろ──」

「【アローブレード】!」


 魔神が大剣を振りかぶった瞬間、攻撃スキルがその腕に命中した。

 後方から、ジュードが援護を放ってくれたらしい。


「っ……!?」


 ヴァイツの動きが一瞬止まる。


 そこをめがけて、ウェンディとサーシャが同時に剣を繰り出した。


「【パワーブレード】!」


 剛力の剣術スキルを魔神の胸元に叩きこむ。

 鮮血が、しぶいた。


「てめえら……!」


 ヴァイツが怒りに目を吊り上げた。



「人間ごときが、この俺の体に傷を! 絶対に許さんぞぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「──!?」


 ウェンディの視界が鮮烈な赤に染まる。


 それは魔人の全身から放出された、赤色のエネルギーだった。


 闘気(プラナ)

 攻撃スキルを使う際にも使用する精神エネルギー。


 それが信じられないほど膨大な奔流となって、周囲にあふれ返る。

 ヴァイツの全身から炎のごとく揺らめく闘気が立ちのぼる。

 さらに、


 ぼこっ、ぼこっ、ぼこぉぉぉっ……!


 魔神の体の各部が盛り上がり、ねじ曲がり、肥大化する。


「な、何、これは──」


 赤いオーラに包まれたヴァイツが、異形へと変わっていく──。

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