13 十二番隊の死闘3
「うう……」
ウェンディは呆然と立ち尽くしていた。
隊長格二人が瞬殺とは──。
強い。
強すぎる。
正直に言って、人間が立ち向かえる相手とはとても思えなかった。
恐怖で足がすくむ。
震えが止まらない。
「嫌だ……怖いよ……」
ガチガチと歯の根が鳴っていた。
恐ろしくて涙がこぼれ落ちる。
逃げたい。
逃げたい。
逃げたい──。
「それでも……っ!」
ひとりでに後ずさろうとする両足を、ありったけの意思の力で止める。
(お願い、隊長。ボクに戦う意思を……与えてください!)
立ち向かう勇気が欲しかった。
必死で祈る。
必死で願う。
と、そのときだった。
「ここはあたしがやる──」
サーシャが飛び出した。
「待って! 一人じゃ駄目だよ、サーシャちゃん!」
「黙って殺されるわけにはいかないでしょ! それに──こうやって誰かが戦う勇気を示せば、きっと続く者が現れる!」
剣を手に凛々しく叫ぶサーシャ。
「【ソニックムーブ】!」
高速移動スキルで駆け出す。
「サーシャちゃん……」
戦乙女といった様相の彼女に、ウェンディは見とれた。
彼女は、すごい。
自分などは怖くてたまらないのに。
以前に、王都で魔剣使いと戦ったときも、ひたすらに怖かった。
なんとかその恐怖を克服して敵に立ち向かったが──。
眼前の魔神は、その比ではない。
立ち向かうなど、とても無理だと思える。
なのにサーシャは──おそらく彼女とて怖いはずなのに、真っ向から魔神に向かっていこうとしている。
「ボクも……ボクだって! 【ラピッドムーブ】!」
ウェンディは高速移動スキルで彼女を追いかけた。
サーシャがわずかに速度を緩め、ウェンディと並走状態になる。
「……いくよ。あたしたちで」
「了解!」
二人は騎士養成機関の同期である。
訓練で、実戦で、何度となく連携してきた。
視線一つで相手の意図を汲み取り、ともに加速する。
走行ラインを交差したり、縦列に並んだり、とフェイントを重ねながら、魔神に肉薄する。
「へっ、輪をかけて脆そうな連中が来たな! 俺は男だろうが女だろうがいっさい容赦しねーぜ!」
ヴァイツが吠えた。
「砕けろ──」
「【アローブレード】!」
魔神が大剣を振りかぶった瞬間、攻撃スキルがその腕に命中した。
後方から、ジュードが援護を放ってくれたらしい。
「っ……!?」
ヴァイツの動きが一瞬止まる。
そこをめがけて、ウェンディとサーシャが同時に剣を繰り出した。
「【パワーブレード】!」
剛力の剣術スキルを魔神の胸元に叩きこむ。
鮮血が、しぶいた。
「てめえら……!」
ヴァイツが怒りに目を吊り上げた。
「人間ごときが、この俺の体に傷を! 絶対に許さんぞぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「──!?」
ウェンディの視界が鮮烈な赤に染まる。
それは魔人の全身から放出された、赤色のエネルギーだった。
闘気。
攻撃スキルを使う際にも使用する精神エネルギー。
それが信じられないほど膨大な奔流となって、周囲にあふれ返る。
ヴァイツの全身から炎のごとく揺らめく闘気が立ちのぼる。
さらに、
ぼこっ、ぼこっ、ぼこぉぉぉっ……!
魔神の体の各部が盛り上がり、ねじ曲がり、肥大化する。
「な、何、これは──」
赤いオーラに包まれたヴァイツが、異形へと変わっていく──。




