12 十二番隊の死闘2
「あんたも来たのかい、ヴァイツ」
ジゼルグがふんと鼻を鳴らした。
「真打ちは最後に登場って決まってんだよ」
「あたしより弱いくせに粋がらないで、って前に言わなかったっけ?」
「ふん、だったら確かめてみるか」
大男の魔神──ヴァイツがジゼルグとにらみ合う。
「まあまあ。戦場で我らがいがみ合うこともありますまい」
ガラードが仲裁する。
「……へっ、まあいい。俺はここで暴れさせてもらうぜ。お前らはさっきまで遊んでたんだから、譲ってくれてもいいよな?」
「承知いたしました。では、私は右を、ジゼルグさんは左でどうでしょう?」
「ま、いっか。他のところにも面白い連中がいるかもしれないしね」
「そうそう。中央はこの俺に任せな」
言いつつ、ヴァイツと呼ばれた魔神が丸太のような両腕を振り回す。
それだけで竜巻が発生した。
「ぐがぁぁぁぁぁぁっ……!」
近くにいた騎士たちが巻きこまれ、いずれも鎧ごと体をねじ切られる。
鮮血と無数の肉片が雨となって降り注いだ。
「ははははははははは! 脆いなぁ、人間ってのはよ!」
爆笑するヴァイツ。
他の二体はそれぞれ右翼と左翼に飛び去っていく。
「敵が一体に減って助かった──なんてわけないよね」
「だけど、手ごわいのは魔神だけ。あたしたち全員で抑えよう」
サーシャが隣に並んだ。
「俺が思いっきり闘気をチャージした一撃をぶちこむ。お前たちは時間を稼げ」
クルスが言った。
「この戦法ってワンパターンだよな」
ジュードが軽口を叩く。
「うるさい。この中でもっともスキルの威力が高いのは、俺だ! 文句は言わせん!」
「はいはい、仰せの通りに、っと」
「確かに、理にかなってますね」
「ボクも時間稼ぎならなんとか」
サーシャの言葉にうなずくウェンディ。
「魔神め!」
「何体出てきても、こっちは撃ちまくるだけだ!」
聖竜騎士団の他の部隊や、他の騎士団から遠距離攻撃スキルが次々と飛んできた。
斬撃を飛ばすものや矢の威力を倍加するもの、投石、闘気弾、魔力弾など──。
「へっ、温いぜ」
ヴァイツは雨あられと降り注ぐスキルの中を平然と歩いてきた。
回避はもちろん防御すらしていない。
何発食らっても、魔神の体には傷一つつかなかった。
異常なまでの頑強さである。
「生半可な攻撃は効果が薄い! 近接戦闘組で倒すぞ!」
誰かが叫んだ。
「近接攻撃スキルが得意なものは、俺たちに続け!」
「ひるむなよ、みんな! 私たちがまず仕掛ける!」
と、二人の騎士が飛び出してくる。
「あれは──」
巨大な斧を背に担いだ、二メートルを優に超える巨漢。
がっしりした長身で両手にハンマーを備えた中年騎士。
聖竜騎士団六番隊隊長のガエルと八番隊隊長のレガストーンだ。
「ほう。二人そろって、なかなかの体格だな」
魔神がニヤリと笑った。
「人間にしては楽しめそうだぜ」
「悪いな。楽しむことはできん」
ガエルが斧を振り上げた。
「その前に──貴様は死ぬ! 【パワースラッシュ】!」
強烈な斧の一撃がヴァイツを襲う──。
「なんだこりゃ? これで全力か?」
その一撃を、ヴァイツは指一本で止めていた。
「なっ……!?」
「まだまだぁっ!」
今度は側面からレガストーンが左右の腕でそれぞれハンマーを繰り出す。
がいんっ、と金属音に似た響きとともに、二本のハンマーはヴァイツの脇腹に当たってはじき返された。
「こいつの体──硬すぎる!?」
「温い攻撃だ」
ヴァイツはため息交じりに振り返った。
左手の指先を突き出す。
「がはっ……」
ずぶり、と胸元を貫かれ、レガストーンが倒れた。
さらに前蹴りを繰り出し、ガエルを吹き飛ばす。
「ぐあっ……」
胸部が大きく陥没し、地面に叩きつけられてガエルは動かなくなった。
二人とも即死だ。
「なんだ、脆いな」
ヴァイツは動かなくなった二人の騎士を見やり、ため息をついた。
足下に転がるレガストーンの死体を踏みつけると、ウェンディたちに向き直る。
「次はお前らか?」