11 十二番隊の死闘1
SIDE ウェンディ
「マリウス隊長が──消えた!?」
ウェンディは前方を呆然と見つめる。
先ほどまで魔神と思しき二体の敵と交戦していたマリウスが、突然消えてしまったのだ。
「そんな……」
「落ち着いて、ウェンディ」
サーシャが言った。
さすがに彼女は冷静だ。
「たぶん空間操作系のスキルで、どこかに移動させられたんだと思う」
「確かに──かすかですが、マリウス隊長の気配を感じます」
説明したのは、【探知】系のスキルに長けた少女騎士ニーナだった。
「場所までは特定できませんが……」
「とにかく、隊長が戦場から消えたことは確かだ」
クルスが言った。
「ここからは隊長抜きでの戦いになる」
「早く戻ってきてくれるといいんだけどな。俺たちだけじゃ荷が重い」
「そんな弱気でどうする! 他の部隊に、俺たち十二番隊の強さを見せつけてやる!」
「勇ましいねぇ」
「他人事のような口調で言うな! お前もやるんだ!」
「はいはい」
軽口を叩きつつジュードが剣を抜く。
「……確かに、隊長が戻ってくるまで戦線を持ちこたえないといけませんね」
ウェンディも気持ちを引き締めた。
マリウス隊長は必ず戻ってくる──。
そう自分自身に言い聞かせて。
「それまでは、ボクたちががんばる番だねっ」
「そうね。あたしも全力で──」
「では、近接戦闘系のスキル持ちは前に! 中距離や遠距離スキルが得意な者は支援をお願いします!」
ジィドが朗々たる声で告げた。
マリウスが離脱した今、十二番隊の最高位は彼である。
当然、指揮権も彼にある。
「では、他の隊と連携し、魔神に対抗しましょう。まずは──」
「ぐあっ!」
ジィドが言いかけたところで、前方から苦鳴が上がった。
先んじて魔神に仕掛けた他の騎士団の部隊が、ガラードとジゼルグの攻撃に合い、吹き飛ばされていく。
近接攻撃はやすやすといなされ、反撃を受けて騎士たちが殺されていく。
遠距離攻撃は、先ほどは虚を衝くことができたが、二度目はもう通用しない。
降り注ぐスキルを意にも介さず、自分たちの射程距離内にいる騎士たちを次々に殺していく。
一方的な、虐殺だ。
「さきほどの男さえ消えれば──我らに敵はありません」
中年紳士風の魔神がステッキを掲げた。
「【魔の雷撃】!」
紫色の稲妻が周囲にまき散らされる。
「【リアクトヴェール】!」
ウェンディは慌てて防御スキルを発動した。
他の騎士たちもそれぞれ防御系のスキルを使っている。
が、そういったスキルを持たない者のうち、何割かは稲妻の嵐に巻きこまれた。
「ぐあっ!」
「ぎゃぁっ!」
短い苦鳴を上げ、倒れる騎士たち。
小さく痙攣した後、まったく動かなくなる。
「強い──」
ウェンディは戦慄した。
「単独で仕掛けることだけは避けてください」
ジィドが十二番隊全員を見回す。
と──、
「おいおい、お前らだけで楽しそうじゃねーか! 俺も混ぜろよ!」
野卑な大声が響いた。
「えっ……!?」
ウェンディは驚いて振り返った。
後方数十メートル地点に、大柄な男のシルエットが見える。
頭頂部の角と背の翼。
「まさか──」
ゾッとなる。
「三体目の、魔神……!?」




