4 ルークと聖剣1
SIDEルーク
ルークの前に一本の剣がある。
刀身から柄まですべてが、青。
その刀身は薄桃色の光刃でコーティングされている。
聖剣オーディン。
その所有者となるべく試練に挑みたい、とルークが聖竜騎士団に申請して無事に許可が下りた。
聖剣には精霊のようなものが宿っており、認められなければ所有者にはなれないのだという。
一本目の聖剣アストライアの所有者であるリーザは、精霊に認められた上で聖剣の使い手となったのだ。
ルークも今、同じ道を歩もうとしていた。
「オーディン、聞こえるか? 俺はあんたの使い手になりたい」
聖剣に語りかける。
特に反応はなかった。
「聞こえるか? 話をしたい」
『ほう、随分と若いな』
再度語りかけたとたん、剣から声が響いた。
閃光があふれたかと思うと、前方に一つのシルエットが浮かび上がる。
白髪を長く伸ばし、あごにも見事なヒゲをたくわえた老人だ。
しわだらけの顔からは、荘厳な雰囲気が漂ってくる。
豪奢な玉座に腰掛けた王──。
そんな趣きである。
「あんたが──この聖剣に宿る精霊なのか」
『ほほ。他者にたずねる前に、まず己の名を伝えるのが礼儀ではないかな?』
笑う老人。
「──ミランシア王国聖竜騎士団九番隊隊長ルーク・レグル」
『ほほ。なかなか良い目をしておるな。強い魂の波動を感じるぞ』
老人が満足げに言った。
『名乗られたからには、儂も名乗り返さねばなるまい。我が名はオーディン。この聖剣に宿りし精霊。そして聖剣の使い手を定める審判者でもある──』
告げるオーディン。
「使い手を定める……」
『左様。聖剣の使い手は生半可な者では務まらぬ。魔神王すら滅する力を秘めた剣──いわば【光】の精髄だ』
「なら、俺を試してくれ」
ルークが進み出た。
「俺はもっと強くなりたい。そのために聖剣の力が欲しい」
『ほほ。ならば見せてもらおう。君の魂を』
一瞬の後、ルークの視界は切り替わっていた。
「ここは……?」
つぶやいたつもりだが、口からがゴボゴボッと泡が立つのみ。
どうやら全身を液体につけられているようだ。
薄緑色のそれは──馴染みが深いものだった。
(研究所の……培養液か? 俺は生物兵器用のカプセル内にいる……?)
ウィィ……ン。
突然カプセルが開いた。
培養液がすべて床に漏れ出す。
ルークはカプセルから出て、濡れた床に降り立った。
「今から選抜試験を始めるわ」
目の前には白衣の女がいた。
研究所の女主任だ。
「レグルシリーズの中でより戦闘力の高い者を選ぶための。そして我らの手駒として、より優れた者を選ぶための」
「これは──俺の、過去の記憶……!?」
ルークの周囲には、同じようにカプセルから出た少年少女が何人もいる。
男女の差はあれ、いずれもルークによく似た顔立ちだ。
「とりあえず服を着なさい」
と、動きやすい衣服が運ばれ、ルークたちはそれぞれ着替える。
服の右袖に数字が書かれていた。
識別番号代わりだろうか。
ルークの数字は「1」である。
「次は武器ね」
と、長剣を渡される。
どくん、と心臓が高鳴る。
この後の言葉を、ルークはすでに知っている。
「さあ、殺し合え」
女主任の声が冷徹に響いた──。