2 決戦前夜2
「昔は全然女っ気がなかったのに……王都に来てからモテ期が来てない?」
「モテ期って……」
そんなことはないと思うが。
「おじさんが気づいてないだけだよ。もうっ」
なぜか怒ったような表情のメル。
「十二番隊の女の子からもけっこう慕われてるみたいだし、さっきの隊長さんとか他の女隊長さんとか……あ、それに娼館にもときどき行ってるでしょ!」
「い、いや、ちょっと待て。お前、俺のプライベートをどこまで知ってるんだ……!?」
さすがに焦ってたじたじとなる俺。
敵と戦うときより、メルにこうして迫られるときのほうがよっぽど緊張するな……。
「むー」
メルはあいかわらず子どもっぽく口を尖らせ、拗ねたように俺をにらんでいる。
「何に怒っているのか分からないが、とにかく機嫌を直してくれ」
「むむむ……リーザさんと仲良さそうにしてたから」
「リーザとは訓練でよく付き合うし、隊長の中では一番話しやすいんだ。俺が隊長になる前から、同じ隊だったからな」
「それだけ?」
「えっ」
「それ以上の感情、持ってない?」
メルにじろりとにらまれる。
「やけにこだわるな……それだけだよ。リーザに対して抱いているのは仲間意識だ」
「んー……まあ、そういうことにしてあげる」
メルはまだ納得していない様子だったが、矛を収めてくれたようだ。
「じゃあ、ちょっとだけ夜のデートしよ」
「夜のデート?」
「あたしと一緒にお散歩」
なんで急に?
と思ったが、メルはにっこりと笑っている。
あいかわらず甘えん坊なところがあるな。
そういう部分は生前と変わらない。
メルそのものだ。
「ああ、いいぞ」
俺は笑みを返した。
「ねえ、腕組みたい」
「分かったよ」
俺は苦笑交じりにメルと腕を組んだ。
恋人のように寄り添い、歩き出す。
すでに時刻は夜だ。
歓楽街の方はこれからが本番だが、この辺りは商店街で、すでに閉まっている店が多かった。
「あたしが人間なら、おじさんと一緒にお食事したりできたんだけどねー」
メルがため息をつく。
「実体化しても、食事したりは無理か……」
いくらメルと同じ姿、思考や記憶を持っているとはいえ、彼女はメルそのものじゃない。
あくまでも俺の記憶をもとに生み出された、メルの写し身なのだ。
「……だね」
一瞬寂しげな顔になった後、メルはふたたび微笑んだ。
「でも、こうして触れ合えるだけでも嬉しい。おじさんの体の温もりを感じられるから……幸せだよ」
ぎゅっと俺の腕にしがみついてくる。
人けが少なくなった通りを、俺たちはそうやって歩いていく。
しばらく進むと、小さな公園にたどり着いた。
俺たちは並んでベンチに腰掛ける。
周囲には誰もいなかった。
「ねえ、おじさん」
メルが俺を見つめる。
「ここにいるあたしはなんなのかな」
「どういう……意味だ?」
突然の質問に、俺は意図が分からず戸惑った。
「いつも思うの。あたしという存在は何なのか。あなたのスキルの一部? あなたの思い出の具現化? それとも、メルという存在……?」
「……お前はメルだよ」
俺にはそれしか言えなかった。
目の前の彼女があまりにも寂しげだったから。
先ほどにも増して──あまりにも、寂しげだったから。
なんて声をかけていいか、分からなかった、
「あたしはおじさんにとって大切な存在?」
「当たり前だろ」
俺はメルを抱きしめた。
「えへへ」
嬉しそうな笑みを浮かべるメル。
「今のあたしは思念体じゃない。生身の体を持っている。おじさんと触れ合うことだってできる。もう姪と叔父じゃないから、もっと──」
メルが背伸びをした。
顔が近づいてくる。
「メル……?」
「おじさん──」
ほとんど唇が触れ合わんばかりの距離で、俺とメルは見つめ合っていた。
「……少し、顔が近すぎないか?」
「そうだね。もうちょっとでキスできそう…………したいな」
「何を言ってる」
俺は苦笑交じりにメルの体を少しだけ遠ざけた。
「あはは、ごめんごめん」
頬をかすかに染めて、メルが悪戯っぽく舌を出した。
「どんな形になっても、あたしはこうしておじさんと再会できて、お話して、触れ合えて──幸せだよ」




