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フブキの戦争  作者: nasuda(植木原 裕司)
6/7

突撃と突入と

フブキはついに航空宇宙自衛隊の最新兵器と対峙する。

フブキは、空自のヘッジホッグの上方に進出して向こうの出方を伺う。

 アクティブセンサーと原子炉を止めて、見つからない様にしてはいるが、相手の性能からすると一時的な気休めにしかならないだろう。

 とは言え、一時的にでも優位な立場に立てたのは大きい。

 無人攻撃機は、操縦者との間に距離がある分どうしても素早い反応が取れなくなる。フブキみたいに古い艦はそのギャップを突く戦術を取るのがセオリーだ。

 じりじりと近寄ってくるヘッジホッグは、いまや背中に搭載した爆雷の数さえ数えられる距離まで近寄ってきている。

 こちらもレーザー砲の照準をヘッジホッグにぴったり合わせておかしな動きをしたら一発かませるように準備しておく。

 もっとも、まだ射程内じゃないけど。

 端末には、ヘッジホッグの射程内到達の予想時間が表示されている。

「三十分か……」

 現在の状態での会敵予想は、三十分後。

 その間もフブキのあらゆるセクションで戦闘に向けた準備が続けられている。

「推進器は、どうやっても七割程度になりそうだ」

 部下の報告を受けて機関長は、深刻な顔で告げた。

「アレから逃げるんだったら、その程度でも十分じゃない?」

 艦長が気楽に答える。

「連中の鼻先を掠めるならそれでも構いませんがね一戦交えるつもりなら、ちょっとキツいですよ」

 機関長が、器用に気密服の肩をすくめた。

「艦長は一戦カマしてやる気なんでしょ?」

「一戦カマされる方、あたし達が」

 艦長も器用に肩をすくめる。

「あっちが手出ししたら、即反撃」

「しかし、上手くいきますかね? いくら爆雷を使えない高度とは言え、的としてはこっちの方がでかい分、我々が不利な事は変わりないですよ」 砲術長が、当然と言えば当然の疑問を口にする。

「そこは、まあ、何とかするよ」

 暢気に艦長は請け負う。

 ピピピ、と端末から警告音が響く。

「αより熱源反応、爆雷の分離と思われます」

 砲術長が報告する。

「レーダー投射、状況を把握する」

 この位置で爆雷を使うとは、後で問題になるのに。

「爆雷の到達時間、約十五分と推定」

 砲術長が冷静に状況を報告する。

「了解、防雷ネット展開準備」

「了解、防雷ネットの準備を始めます」

 形状記憶型の防雷ネットは、普段は艦首に折り畳まれている。

 爆雷の自身の爆発により高速の破片をばらまき、敵にダメージを与える。

 これに対抗するため、防雷ネットは広い範囲に広がり、緩やかに破片を包み込みそのまま大気圏まで持って行く。金属で編まれた巨大な投網だと思うと、イメージしやすい。

「逃げます?」

 あたしは艦長を見る。向こうが禁じ手を使えても、こちらも禁じ手を使う・・・・・・と言う訳には行かない。

 無人とは言え、最新鋭の平気にフブキが勝てる見込みは望みが薄い。

「ちょっと気になるんだよねー」

 声は暢気だが、気密服の向こうにある艦長がどんな顔をしているかは見えない。

「空自が嫌がらせで攻撃するはずはないよね」

 日本が、国連機を攻撃する理由はない。邪魔なら、地上にいる大佐に抗議すればいい。

「防雷ネット展開、対機雷戦準備」

 艦長の下した結論は、想定外ではないけどけっこうヤバい。

「了解、防雷ネット射出、展開を確認」

「対機雷戦準備、戦闘旗信号発信します」

 砲術長の号令に続けて、あたしが先任士官として戦闘準備を告げる。

 まずは、敵味方識別信号を国連機待機から、国連機ワレ戦闘中に変更する。

「戦闘旗よし、地上にも聞こえますよ、コレ」

「いーよ、極秘じゃないし。大丈夫、大丈夫」

 いやそうじゃないでしょ、と心の中で艦長にツッコミを入れながら続ける。

「マウイコントロールに、司令部に報告します?」

「おーけー! やっちゃって!」

 司令部に連絡を入れると、自動的に戦闘経過が記録されて指揮官に転送される。

 つまり、大佐に連絡が行って。

「公式に戦闘になりますよ」

「戦闘旗掲揚したのに、やーめたはないよ。いっちゃって」

 艦長が気楽に手を振る。

「了解しました」

 気密服の向こう側で、どんな顔をしているのか想像する事しかできない。

 脳天気に、笑っているのだろうか?

 戦闘の緊張でひきつっているのだろうか?

 あたしは後者、何度やっても戦闘には慣れない。

「この仕事、向いてないのかなー」

 ぼそりとつぶやくと、司令部に向けての通信文を作成する。

「艦長、準備できました」

 ほぼ定型の通信文を、艦長の端末に転送する。

「おーけー、送って」

「了解、送信開始、受信を確認」

 『我、該当区域にて攻撃に遭遇せり』。攻撃の主体と現在の座標を送信する。

「主砲拡散モードで照射準備よし」

 砲術長が、準備完了を報告する。

「防雷ネット通過後に主砲発射」

「了解、対象空域との距離確認」

 防雷ネットで防げなかった細かい破片は、主砲のレーザー照射で排除する。その際に闇雲に打っても意味がないので、破片が移動するであろう未来位置を予測する。

 このあたりの運用は、砲術長の腕の見せ所。

「目標上方を保ちつつ、本艦を乱数加速させて位置を変える」

「了解、航路算定。送ります」

 止まって待っているだけでは的になるので相手との距離を保ちながら、フブキの位置を変える。

 その航路算定は、航海長の・・・・・・あたしの腕の腕の見せ所。

「この軌道で行く、三十秒後に加速開始」

「了解、セットカウントダウン開始します」

 いくつかの航路案から、艦長が指示した航路をセットして加速に備える。急に重力が戻るから、気を付けないと意識を持って行かれる。

「観測員よりブリッジ、海上の目標地点に動きあり」

「加速まて」

「了解、加速中止。加速中止」

 突然、本来の任務である日本海の監視を継続している観測員から連絡が入る。

「爆雷の到達まで残りどれくらい?」

 加速を待つように命令を下しながら、艦長は爆雷の破片の到達時間を確認する。

「十分を切りました」

 砲術長が冷静に告げる。

「甲板長、観測にどれくらいかかる?」

「五分……いや、三分下さい」

 観測員を指揮する甲板長の声には、微かに焦りが滲む。艦長のそれより幾分か軽いが、自分の判断が艦を危険に晒す可能性がある。

 その反面、あっさりと逃げ出しては今までの努力が無駄になる。

「いーよー、しっかり見てね」

 努めて能天気にしているのが、気密服の向こう側からでも伝わってくる。

 長い付き合いだから、他の誰も気づかなくても、あたしには分かる。

「航海長、五分後に加速した場合の回避コースを」

「了解、コースを検討します」

 最大限待てて五分、艦長はそう判断したのだろう。しかし、三分でも長いのに五分は無謀だよ。

「対象の爆散円が今の程度なら、逆に正面から突破した方が安全です」

 端末に、シュミレーションの結果を表示する。

「追加で爆雷を投下された場合は?」

「本館の加速では爆散円の外周をすり抜けるのは不可能です、反転しても追いつかれます」

「つまり?」

 艦長は先を促す。

「目標が爆雷を追加で投入した場合、本艦は直ちに退避ルートを取るべきです」

「甲板長、あとどれくらい?」

「……確実なことは言えませんが……二分は必要です」

 甲板長の声には、明らかに焦りがある。

「中央を突っ切る。航海長、二分後に加速」

「了解、軌道を設定します」

 艦長の指示に、あたしは目標と衝突ギリギリの軌道を設定する。

「突入一分前にに防雷ネット射出、ネットを可能な限り加速させて破片を最大限排除。突入と同時に主砲斉射。破片とαを叩く」

「了解、ネット射出を一分後にセット。一番砲塔を拡散モードで十秒照射。二番砲塔をαに自動追尾モードで照射」

砲術長がの冷静な声が、気密服のなかに響く。

「原子炉出力安定、推進器二番、四番出力全開へ」

「αを通過後に三番四番も点火」

「了解、定格の七割ですが?」

「早く帰りたいしね」

 緊張感を微塵も感じさせない冗談めいた声で機関長に艦長は答える。

「一分前」

 あたしは、突入のカウントダウンを始める。

「ネット射出しました、展開を確認」

 予定どおり、防雷ネットが射出される。

 巨大な帆の様に広がると、四隅についたロケットモーターが点火、加速してフブキの露払いとして機雷の破片を集める。

「観測員よりブリッジ、目標を確認。目標を確認」

 ホッとしたような観測員の声が、ブリッジに響く。

「映像と電磁波パターンを紹介、中華人民共和国人民解放軍の海軍の潜水艦です」

 甲板長がうわずった様な声で照会結果を報告する。

「突入三十秒前」

 ほぼ同時に、あたしは残り時間を告げる。

「ギリギリ、滑り込んだねえ」

 流石の艦長も肝を冷やしたらしい、安堵した感じがありありの声になる。

「α付近で赤外反応、一、二……さん、や違う。四機の機雷分離を確認」

 砲術長の緊張した声が響く。一気に四つも機雷を投入すると敵だけでなく、自機の航宙にも影響影響が出る。

 普通なら、こんな危険なことはしない。敵も、相当追い詰められている。

「機雷、加速してこちらに向かいます」

 あたしは端末に目を落とすと、すごい勢いで突っ込んでくる四つの赤い点を見る。

 どうやらフブキのすぐ近くで爆発してダメージを与えるつもりのようだ。

「防雷ネット射出、緊急加速準備」

「了解、緊急加速……、待ってください! 機雷爆発を確認、本艦の進路上で爆発……!」

 あたしは悲鳴をようやく飲み込む、目標との突入コース上で機雷が破裂して進路を塞ぐ様に破片の壁が築かれる。

「αに向けて緊急加速、防雷ネット連続射出続けて主砲を掃海モードで全力斉射」

「さ、沙奈、本気? そんなギリギリじゃ……」

 破片の中に突っ込みかねない決断をした沙奈の、艦長の名前を思わず呼んでしまう。

「うるさい、(ふね)では名前で呼ぶなって言ってるでしょ」

 いつになく固い声で沙奈が、艦長が答える。

「りょ、了解しました二番目の破片群の未来予測値出ました、本艦の加速能力で回避可能」

「よしよし。花奈、大丈夫だよ」

 艦長の声に誰かが口笛を吹く、馬鹿あんたこそ名前で呼ばないでよ。

「……十秒後に緊急加速、開始します」

 若干、顔が熱くなる。

 緊急加速と言っても、無重力下でいきなり加速すると場合によってはクルーの大怪我につながる。そのため、予告してから開始する。

 とは言え、緊急なので十秒ほどの間だが。

「主砲一番、二番掃海モードでの斉射準備完了、防雷ネットを緊急モードで射出、展開を完了」

「推進器、全機出力前回へ、α通過後に7割で全機再起動」

「緊急加速開始」

 ぐん、と体に重みが戻る。徐々に重みが増すので無くいきなり重みが加わるので少しでも気を抜くと意識を持っていかれる。

「ネット射出、展開と加速を確認」

 続けてネットが射出され、機雷の破片群を包み込む。そのままネットは大気圏方向に加速し、大気圏で燃え尽きる。

「主砲斉射開始」

 砲術長が冷静声で、主砲が唸りをあげた事を告げる。と言ってもレーザーだから無音だけど。

 昔の大砲と違って、レーザーなので電力が続く限り目標にダメージを与え続けられる。

 端末の赤外線モニターには、残った破片が主砲に照射されて熱されていく様子が表示される。

 みるみる破片が青から緑をへて黄色になり、真っ赤になる。まあ実際に『赤くなってる』ワケではなく、蒸発寸前までレーザーで熱されているのだが。

 掃海モードは広範囲に照射しているので、エネルギーは拡散して小さくなるがその代わりに広い範囲を熱する事が出来る。

「前方の啓開ほぼ完了」

 モニターの赤い塊が、次々と消えて障害物が無くなる。

「敵の分離した機雷、すべて爆発しました」

 続けて新たな破片の塊が現れる。

 広がり切る前に逃げ切らないと、流破片群に突っ込むとただではすまない。

「一番主砲、収束モードに移行、目標をαへ」

 艦長が広がり切る前に逃げ切れると踏んで、目標の変更を指示する。

 モニターの中のαがみるみる赤くなると、爆発して細かい塊になる。

「αの破壊を確認」

 砲術長が報告する。

 その間も、フブキは加速してαがいたあたりを通過する。

 ごおん、ごおんと小さな破片がフブキの機体にぶつかり、ハンマーで殴られた様に大きな音を立てる。

「目標宙域を通過、前方に障害物なし」

 前方を警戒するセンサーから、障害物の表示がすべて消える。

 それはフブキがヘッジホッグをたおして、安全に逃げ切ったことを意味する。

「広報警戒を継続、戦闘態勢を解除」

 艦長が戦闘の終了を宣言する。

「航海長帰投コースへ、ほら、なんとかなったじゃん?」

 気密服向こうからでも、笑顔だと分かる声で艦長が告げる。

 ギリギリじゃん、あたしは気密服の中頬を膨らませる。

 まったく、もう!

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