巨大なツボ(ビッグポット)が見ている
静止軌道から日本海域を監視する『フブキ』、待ちくたびれる北上少佐達の前に意外なお客が現れる
焦るあたし達を嘲笑う様に、数日が過ぎてもお客さんの気配すら捕まえることが出来ない。
さしもの艦長も、ここ二、三日日はかじりつく様に端末に向かう。そして思い出した様に、ふよふよと浮かびながら、観測員の席まで行って背後から覗き込む様に状況を確認する。
いくら薬で色々な欲望を低下させているとは言え、妙齢の艦長にくっつかれるのは、気の毒な気分になる。
艦長も、そういうの気をつけてくれないかなあ。
見ていてあたしがハラハラする。
人の気を知ってか知らずか、あちこちふよふよと動き回りながら艦長は指示を出す。
「このあたり、ここだけ海の色がちょっと違う気がするんだ。ここのあたりを重点的にウォッチするのはどうかな?」
通常の偵察であれば、人工衛星を動かす方がはるかに楽だしコストもかからない。
しかし、衛星の軌道は簡単に追えるし、融通がきかないので裏をかくのも簡単にできる。
有人観測であれば、リアルタイムに分析も可能だし、その気になれば軌道も変えられる。
ただし国連宇宙軍の定期的な全点スキャンに、その行動は補足され全世界に通知される。
これは、作戦行動中の航宙艦船にも適応される。あたし達も例外ではない。
それでも、迅速な行動に移れる分、有人観測の方が有利だ。
もっとも、コストも無人衛星と比べると格段に跳ね上がる。
あたし達のお給料だけではなく、補給・消耗品などあらゆる面でお金がかかるのだ。
「赤外線反応あり」
砲術長が鋭く伝える。
人工の航宙物体が加速すると、推進器からの噴射炎で赤外線が観測される。
「カタログと照会、日本の自衛隊所属の無人機です」
あたしはこの宙域付近を飛んでいる人工物が登録されたデータベースから、該当する物体を抽出する。
「スパイ衛星?」
「いえ、ドローンか何かです、詳細は非公開」
さすがに軍用の何かとなれば、軌道要素以外のスペックは公開されない。
それでも、およその大きさと軌道を見ると目的が朧気ながらも見えてくる。
該当する人工物は、対地観測に向かないかなり高い高度で地球を周回しており、そしてなりよりかなり小さい。
そのほとんどが、太陽光パネルと通信アンテナに当てられていると思われる。
「この大きさであれば、おそらくは航空自衛隊の『ハリネズミ(ヘッジホッグ)』ですね」
あたしは、カタログデータ上から推測される人工物を予想する。
航空自衛隊の無人攻撃機、通称『ハリネズミ』。二十世紀に開発された、対潜水艦爆雷を同じ名前を持つ小型無人兵器だ。
小型で、高機動の機体は人工衛星だけで無く航宙艦にとっても脅威となる。
「これは、お客さんかなあ」
艦長があたしの後ろから、ディスプレーを覗き込む。
だから近いって!