人を好きになる理由
人はなぜ人を好きになるのか?
その理由を考えていて何となく思い付いて書いてしまいました…
人を好きになるってどういう気持ちなのだろうか…
苦しくて…苦しくて…切なくて…
自分ではどうしようもないほど息苦しくて…
自分の力では立っていられないほどの重力を感じるという
そんな苦しくて辛い思いをしてまでなぜ人を好きにならなければならないのだろうか?
私はそれが不思議でしょうがなかった
…どうやら、私は『恋』というものを知らないらしい
そんな私が唐突に見知らぬ男子から告白された
彼はトマトのように顔を真っ赤に染め上げながらこう告げてきた
「1年生の頃からずっと好きでしたっ!!!」
真っ直ぐな瞳で私の目をジッと見つめてくる
私は彼の真っ直ぐな気持ちに何と応えれば良いか、わからなかった
私が戸惑っていると彼は次第に表情を暗くさせていった
どうやら私が何も返事をせず、沈黙していることに不安を感じているようだった
私は彼の思いに応えられなかった
「…なんで?何で私のことを好きになったの?」
とりあえず、私は彼に私の何を好きになったのかを聞くことにした
「僕は…僕は君のその可愛らしい顔が好きなんだっ」
彼は渾身の思いで私への気持ちを叫ぶと熱い眼差しを向けながら私の瞳を一心に見つめてきた
私は疑問に思った
彼は私のこの顔が好きなのだと…
もし、私がゴリラのような厳つい顔をしていたならば、彼は私のことを好きにはならなかったのだろう
「…ごめんなさい」
私は大きく頭を下げると彼に謝った
彼は涙ぐみながらその場を立ち去っていった
時間が経てば人はいやでも醜くなる
今の美しさを永遠に保ち続けることなど到底不可能なことだった
そんな理由では『恋』という苦しい思いをする気にはなれなかった
それから別の日、再び別の男子から告白された
私は前回と同様に私を好きになった理由について訊ねてみた
「君の性格が好きだから…」
彼は照れ臭そうに頬を朱色に染めると私から視線をそらしながらそう呟いた
私は疑問に思った
彼は私のこの面倒臭い性格を好きなのだと…
もし、私が我が儘で傲慢な性格だったならば、彼は私のことを好きにはならなかったのだろう
「…ごめんなさい」
私は大きく頭を下げると彼に謝った
彼は苦笑いを浮かべると肩を落としながらその場を後にした
人の性格は必ずしも不変なものとは限らない
人との出会いや歩んだ環境でいくらでも変わってしまう
彼が今の私の性格が好きだというのであれば、私は彼のために一生この性格を維持し続けなければならない
そんな理由では『恋』という苦しい思いをする気にはなれなかった
それから数日後、私は3度目の告白を受ける
どうやら私は人から告白される要素をたくさん持っているようだった
「お前のその豊満な身体が好きだっ!だから、一発やらせてくれ!!!」
男はウネウネと気持ち悪く手を動かしながら恥ずかし気もなく私に迫ってきた
「…死ねっ」
私は近づいてくる男を2言で切り捨てると力任せに男の頬っぺたを引っ叩いた
男は私の不意打ちを食らって横へと転がっていった
全くふざけた告白である
ここまでくると告白というよりは脅迫だ
私の肉体も永遠ではない
老いれば何時かはただの脂肪の塊になるだろう
そんなものが好きだなんてとんだ好き者野郎だ
そんな奴のために『恋』という苦しい思いをするなんて到底ありえなかった
その後も私への告白は続いた…
「頭が良いから」
「金持ちだから」
「目立つ存在だから」
「優しくされたから」
そんな言葉を並び立てながら男達は私に言い寄ってきたが、どれもこれも私の納得させるだけの理由にはならなかった
私は何時しか人に恋をすることに辟易とするようになっていた
私の求める答えを誰も教えてくれない
私が恋をすることは一生ないのかもしれない…
そう思い始めた矢先のこと
性懲りもなく私のことを好きだという男が現れた
(これで最後にしよう…)
私は目の前にいる男子の告白を最後にすることを密かに決めた
「それで…あなたはどうして私のことを好きになったの?」
私は何時ものように告白してきた理由について訊ねてみた
「…わからない」
彼の答えは全く意外なものだった
(わからない?私を好きになった理由もわからないのに告白してくるなんて…)
私は彼の無責任な返答に何だか腹が立ってしまった
「そんないい加減な理由で私に告白してくるなんて…ふざけているの?」
「ふざけてなんかいないっ!僕は君のことが好きなんだっ!」
彼は真剣な眼差しで私の瞳を真っ直ぐ見つめていた
(嘘は吐いていない…それなら彼は何で私のことなんかを好きだと言うのだろうか?)
私は彼に興味を持ち始めていた
『もし、彼が私を好きだという理由がわかれば私の答えを導けるかもしれない』
そんな気がしていた
「あなたはどうして私に声を掛けようと思ったの?」
「それは…君を一目見た瞬間に僕の身体の中に何かが駆け巡ったんだ」
どうやら彼は『一目惚れ』というものをしてしまったようだった
「そして…気が付いたら何時も君のことが頭の中に浮かんでいたんだ」
彼は口許を緩めると恥ずかしそうにはにかんでいた
「私を見て?…ということは私の見た目に惹かれたということ?」
「それは違う…」
彼は首を横に振ると私の答えを否定した
「見た目じゃない?それなら…私の性格?」
「それも違う…」
彼は再び顔を横に振った
「それじゃ…私の身体がほしいの?」
私は大きな脂肪の塊を前後に揺らすと軽く腰をくねらせた
「断じてそんなことはないっ」
彼はムッと表情を険しくさせると強く否定してきた
「私の頭が良いから?金持ちだから?それとも目立つ存在だから?」
私はこれまで告白されてきた理由を並べ立てると彼の返答を求めた
「全て違う…そんなんじゃないんだ」
彼は首を横に振ると私の回答を全て否定した
「それならなんで…」
私は煮え切らない彼の態度に困惑していた
「本当にわからないんだ…君のことを考えるだけで胸が締め付けられるような衝動が駆け巡るんだ」
彼は苦しそうに胸を押さえると表情を歪めた
「君のことが好きでっ!好きでっ!仕方がないんだっ!!!」
私は彼の言葉に衝撃を受けていた
どんな男に言い寄られても動かなかった心が揺り動かされていくようだった
「そんな感情が込み上げてきて僕は自分自身を押さえられなくなっている」
「そんなに私のことが好きなの?」
「…好きだっ!」
彼は再び私に熱い眼差しを向けてきた
私は心の奥底から込み上げてくる何かを感じていた
「それなら…どうして私のことがそんなに好きなのか…教えてくれる?」
私は再び問題を掘り起こした
私はどうしても人を好きになる理由が知りたかった
こんな気持ちにさせてくれる彼ならばその答えを導いてくれる気がしていた
「そんなに大事なことなのか?人を好きになる理由なんて…」
彼は反対に質問してきた
「それは…」
私は彼の質問に答えられなかった
なぜならば、私もその答えがわからなかったからである
「人を好きになる理由なんて人それぞれだし…そんな曖昧なものに拘る必要はないんじゃないか?」
彼は真剣な表情で戸惑う私の顔を見つめていた
「確かに…」
私は彼の言葉に納得させられてしまっていた
人を好きになる切っ掛けなんて所詮は単なる通過点にすぎない
大切なのはそこからの歩みよりなのだ
私は後ろばかりを気にして前を見ようとしていなかった
その事に気づかされると人を好きになる理由に捕らわれていた自分が馬鹿馬鹿しく思えた
「どうして…あなたはそんなに私のことを好きでいられるの?」
私は好きになった理由ではなく彼の気持ちを確認した
「それは…僕が君を好きだという気持ちにこれ以上嘘を吐きたくないからだっ!」
彼は臆面もなく自らの気持ちを晒け出してきた
私はその言葉に心を射抜かれた
(あぁ…これが人を好きになる気持ちなんだ…)
私は何とも表現し難い高揚感に包まれていた
完全に私の敗北だった
「好きです…私と付き合ってください」
私は勇気を振り絞ると目の前の彼に告白した
「…もちろんっ!喜んでっ!」
彼は2つ返事で私の想いに応えてくれた
最後まで読んでくれた方、ありがとございました。
色々と納得のいかなかった人もいるでしょうが、私は「人を好きになる理由なんて必要ない」という結論にいきつきました。
この作品を読んで「こういう考え方もありだな」と思ってもらえたなら幸いです。