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十七話 異世界の生物と新瑞清十朗の真価発揮

 その日のうちの太陽が高くなりはじめてくるという時間帯、四人は陽が金斑のようになって透ける薄明るい山林の中に入った。

 山道はところどころ石が埋まり、でこぼことしているなど言うまでもなく舗装されておらず、また木々もあるため、四人はさすがに走ってはいないが、それでも道とも言えない悪路の山道をするすると流れるように登り歩いていく。その上、履物は変装のため履き慣れぬ靴だ。にもかかわらずその早歩きの速度は常人が大道を走るのとあまり変わらないものがあった。柔膳などはよほどその歩みに余裕があるのか、山林に入ってからしばらくすると刀に結んだ着物による袋からパンを取り出して食べ始めた。結界前のテントからくすねてきたものである。


「これを初めて食うたときから思っていたが、こりゃつくづく米よりも我ら忍者に向いた食い物だなぁ。米と違って炊かずに済むから煙を見られる恐れがない。さらに日持ちがするし、ある程度硬くて形が変わっても崩れないから持ち運ぶにもよろしいぞ。おい、これはぜひ他に先んじて伊賀でも取り入れるべきではないか?」

「お前、江戸に住んでいるくせに知らんか。いや、江戸に住んでいるからこそ知らんか。これと似た食い物はすでにあるぞ。わしも前に一度だけ食うたことがある」

 と、誰に向けて放たれたとも知れぬ柔膳の言葉に猛蔵が答えた。


「なに? 聞かんなぁ。何故俺が耳にするほどに出回らんのだろう。なかなか悪くない食い物だと思うが」

「そうは言っても南蛮人が持ちこんだ食い物だからなぁ。近く切支丹たちによる一揆も島原であったことだし、その辺り色々あるのかもしらん」

「ははぁ、なるほど」と柔膳は何事か得心がいったのかニヤリと笑った。「ただそのような事情でこういうものを取り込まぬというのは馬鹿げてもおるな」

「そうかもしれぬが、さりとて、わしが前に食うたものはちと不味かったぞ。あまり我らの口に合うものではなかった。そういうわけで広まらんというのもあるのだろうな。だが前に食ったものと比べてくすねてきたそれは確かに美味い。皮はほどよく硬いが中は柔いし、噛めば塩味のある油みたいなものが出てくるし、その上いつまでも温かいしの。ただそれもそろそろのうなってきて、持ちこんだ食料も少なくなってきた。この森で狩りをしてもいいが、どうせならばただの獣よりもそいつのようにこの土地ならではの物が食いたいな。四季右衛門、金はあるのだろう?」

「ある。上様より此度の任務のために署名も刻印もない二分金を八枚いただいておる」

「つまり、我ら四人、割ると一人二枚ずつで一人頭一両分か。なんだか此度のような大仕事をやる俺たちの軍資金として、いささか少なくはないか?」


 と柔膳が言った。返して猛蔵が、


「お前、上様批判か」

「やっ、別にケチくさいとは言っておらん。だからこそ大事に使わなければならんと言いたかったのだ」

「嘘をつけ。ともかく四季右衛門。ではどこか村か何かを探して立ち寄ろうではないか」

「ただ、たかが農村などに立ち寄ったとして両替屋がおるとは思えんぞ。自前の銭は置いてきたし、あってもこの土地で使えるわけもなかろうし」

「使えぬどころか鐚銭だろうと寛永通宝だろうと、文字が書かれているものを見せれば我らの正体をさらすようなものだな」


 鐚銭とは公的に造られた銭ではなく私鋳や舶載による質の悪い銭のことで、寛永通宝とは丸い銭貨のことだ。後者は中央に四角く開いた穴の四方に漢字で「寛、永、通、ほう」と刻印されている。


「そういうわけだ。もっとも、どこか村に寄りたいというのは私も同じだ。というのも、この山道に道を変えたために王都までの道のりにちと不安があるからだ。誰かに道を尋ねたい」

「おお。だが――尋ねるとは言ってもこの土地の者とは言葉が通じぬだろう。翻訳の魔法とやらがあれば別のようだが、それを使える者はどこにいる、と身振り手振りで尋ねるのも不自然だ。お前たちは何故この土地の言葉が使えんと不審に思われる」

「いや、その点は心配ない。お前が清十朗たちを迎えに伊賀へ行く間、例のペーチャーに御教えをいただいてここの言葉を覚えておいた。懸念は無用だ」


 四季右衛門は御教えをいただいて、と言ったが、これは体のいい換言とも呼べる冗談であり、実際は陰口快弁により無理やり教材に仕立て上げたのだ。彼はそれによってペーチャーにアスファイヤ語の単語とその意味に相当する日本語を交互に吐かせ、文法もまた吐かせてアスファイヤ語を習得した。なるほど、現地人から直接言語を習うのだから発音なども完璧で学習効果は高かろうが、しかしこれは世にも奇っ怪な音声教材であった。


「ほぉ、言葉を覚えていたのか。流石だな四季右衛門。ところで、そこには柔膳もいただろう。お前も覚えたのか?」


 と猛蔵が聞くと柔膳は鼻をうごめかし、それから苦笑した。


「わざわざ俺に話を向けるなよ。……覚えとらん。覚えられるかあんなもの」

「お前、頭の方は柔らかくないな」

「やかましい。全く聞き慣れぬ言葉などまさに呪文の如し、だ。お前とてまず覚えられんぞ。このごく短い間に覚えた四季右衛門とあの伊豆どのがおかしいのだ」

「ふふ、たしかに私はともかく、伊豆守さまは凄まじいな。私が苦労したものを易々と覚えていかれた。知恵伊豆と評されるその片鱗、しかと見たぞ。――ところで、柔膳が覚えぬのはまだいいとしても、清十朗、お前には是が非でも覚えてもらうことになる」

「え?」先頭を歩いていた清十朗が足を止めて振り返った。

「お前は聖女と相対する役目があるからな。ペーチャーに聞く限り、聖女は翻訳の魔法とやらを習得しているらしいが、それでも覚えて損はない」

「うぅん、それは承知しましたが、しかし拙者覚えられるでしょうか?」

「無理だ」と後ろから柔膳が声を上げた。続けて、「無理であってくれ。四季右衛門と伊豆どの以外の者がそう易々と覚えてしまったら、覚えられなかった俺の頭の程が疑われるではないか。ふっふっふっふっふ」と冗談めかして言ってそれに自分でくつくつと笑った。四季右衛門は立ち止まる清十朗の隣まで追い付くとその背に手を添えて歩みを促しながら言った。

「柔膳の冗談はともかく……熟達とはいかずともよいから少しなりとも覚えてもらうぞ。お前は聖女に受け入れられねばならないのだ。そのためには、己が国の言葉を多少でも使えるか、少なくとも使おうと努力している者の方が印象が良かろうが。私がしかと教えてやる」

「はっ、お願いいたします」


 頷いた清十朗は倒木を飛び越えて前へと飛び出した。その様子を眺めていた猛蔵が、

「そういえば、道を尋ねるという件が可能なことはわかったが、けっきょく食料の調達はどうする? ああ……とは言うても金が使えぬ以上、買い物はできんのか……。となればつまり、狩りでもするしかないというわけになるなぁ。……。おい、みんな何か食えそうなものを探せ」

 と言った。


それに答えたのは先頭に立った清十朗であった。


「そのことですが、どうやらそれも先を越されたようで」


 彼は首を曲げて横を向き、山道の斜面の下の方に何かを見ていた。あとの三人もその方に目を向けると、やや離れたところに木々を縫うように駆ける二頭の動物がいた。


「あれは……犬か? 狼か?」


 猛蔵の言うようにその一方はまさに橙色の毛をした犬か狼のような獣であった。その獣が口を半開きにし息を乱しながら前方にいるウサギみたいな動物を追っている。双方、木々を避けながら時に斜面をはせ登り、時に横に駆け、稲妻を描くように器用に走っていた。


「山犬の狩りか。ただ、あれでは逃げられるな」


 たしかにこの木々の林立する山の中、有利なのは身体の小さなウサギであると見えて、歩幅の差にも負けずぐいぐいと獣を引き離していく。しかし、二頭が清十朗たちの横を上り過ぎていったころ、狩りは失敗すると思っていた猛蔵が「おっ」と目を見張ったようなことを獣がやった。その口の中に収まった黒い舌がぴんと突き出され、しかも何とそれが自分の体長よりも長く伸びたのである。伸びた舌は木々を避けて曲がりくねり、ウサギを追い打った。そして獲物に追いついた舌はウサギの足を掬い払うとすかさずガッとその身体を掴んだ。黒い舌はただ伸びるだけでなく、その先端が人の手のような形をしていたのである。手の形をした伸びる舌を操る橙色の獣――これをベローチェと言った。


 ウサギを地面に押さえつけながら、木々の間を通り抜けて巻きとられるようにその場に小走りに向かってゆくベローチェを見て、

「こりゃ驚いた。派手な毛で目を引いておいて、黒い舌を影の如く伸ばし敵を仕留める。この土地は人も大概おかしいが、獣にも奇態な奴がおるなぁ。おっ、よく見るとそのために上の前歯がないようだ。だが、それ故あれは本来夜行性の獣と見た。ということはあの山犬には忍者に一脈通じるところがあるぞ」

 とさも面白そうな顔をして猛蔵が言った。続けて、

「おい、柔膳」

 とからかうような語調の言葉をかけると、苦笑する柔膳はその声を打ち払うように彼へ向かって手を振った。その様子に笑い声を漏らしながら猛蔵は今度は「そうだ。おい、清十朗」と声をかけた。


「ここで一つお前の手裏剣術を見せてくれ。ここからあの二頭を狙えるか?」

「むっ? つまり、獲物を横取りせよと仰せですか?」

「そうなるの。狩りを遂げたあの山犬には悪いが――これも自然の習い、お前の手並みを見るためと手間を省くためにあのウサギは我らが頂こう。それで、できるか?」


 清十郎は猛蔵からその方にスッと目を戻した。自分から左ななめ――斜面の上部に送った彼の目にはウサギと、それからその少し離れたところにいるベローチェの姿が映っている。ただそれは間にある木々に身体の大部分を遮られているし、木の枝も生えているし、ベローチェに至っては今も小走りをしているし、ここから手裏剣で狙うなど針穴を通すような至難の技だ。が、清十朗は刀につけた着物の袋から棒手裏剣を抜き出すや否や、特に狙い定める様子も見せずにビュっと投げた。一瞬手元できらめいた棒手裏剣は木々の幹や枝の隙間をすり抜けるように飛ぶと、見事ウサギの身体に突き刺さった。


 自分の獲物に横合いから突如何かが刺さったのを見たベローチェは「ワウッ」と驚いて舌を戻し、身体を反転して清十郎たちの方に首を向けた。しかしその瞬間、足元にもう一本の棒手裏剣が突き立つとこの獣が脱兎の如く逃げ出した。


「……今の手裏剣、わざと外したな?」

 四季右衛門が目を光らせてそう言うと、清十朗が、

「あの山犬に罪はない。獲物を横取りするのはよしとしても、必要もないのにあれを害してしまえばむしろこちらの罪になると思いまして」

 と答えた。これに、

「……なるほど。いや、お前の心はわかった。未だ善悪を捨ててはおらぬということがな」

 と四季右衛門が困ったような曖昧な笑顔でひとり呟いていると、猛蔵が、

「何にせよ見事だ! お前の手裏剣術、さすがの手並みだな」

 と声を上げた。


「こればかりは……」


 清十朗は猛蔵の賛辞に微笑すると、ちょっと昂然として跳ねるようにウサギの下へ小走りに向かった。途中、地面に刺さった手裏剣を抜いて、ウサギのところへたどり着くと、しゃがみ込んではその身体から手裏剣を抜いた。抜くとウサギの身体からピューっと血が噴き出した。そして、しゃがみ込んだ清十朗が棒手裏剣についた血を地面の草でせっせとぬぐっていると、その姿を見て待っていた三人がふいにピンっと耳を立てた。


「む? 何ぞ来るな」

 と猛蔵が呟くうちに清十朗も何か感付いたことがあるのか、ウサギを抱いてその場にすっくと立ち上がった。途端に――「おっ」と焦りの声を漏らした清十朗が背後にあった木をグルリと半周して身を隠した。猛蔵たちの対角に位置する方から、獣の群れが斜面を駆け下って来ていたのである。やや遠くから草をかき分けて向かってくるのは三十ばかりとも見えるベローチェの群れであった。


 ベローチェは別に一匹狼的な生物ではなかったのである。派手な体毛に目を引きつけてから黒い舌で不意を打つ、というのはたしかにエサを獲る際には効果があるかもしれないが、敵から身を隠すためには不都合だ。そのために彼らはこうして群れを作って身を守っているのであった。先ほどのベローチェはこの群れを引き連れて戻ってきた。群れを作って備えているとはいえ、この辺り一帯の強者の地位にある彼らならでは怒りと積極性の警戒心からであった。


 ベローチェの群れが先ほど手裏剣が突き立った問題の場所付近にたどり着いた。彼らが近辺を見回しながら、水の広がるようにゆっくりと散開を始める。そのすぐ側の木にじっと隠れている清十朗を眺めつつ、猛蔵が、

「まさか戻ってくるとはなぁ。あれでは逃げられまい。一丁斬り込んで助けに行ってやろう」

 と小声であとの二人に声をかけた。


 しかし足を踏み出しかけた彼を他ならぬ清十朗自身が手を差し出すことで止めた。当人に止められて前にのめった身体をぴたりと止めた猛蔵は首を捻った。息を荒らげていかにも興奮しているベローチェたちは清十朗――というより怪しげな者を見つけたら即座に牙を剥いて襲いかかることだろう。五、六頭なら軽いものであろうが、三十にも及ぶ数が一斉に襲いかかってきては流石に荒修行を積んだ清十朗でも手を焼くはずである。しかも彼の周辺にはベローチェたちが広がりはじめ、今にも見つかりそうな塩梅だ。にもかかわらず救援を断って、新瑞清十朗は果たして一体どうするつもりか?


 猛蔵たちに見守られる清十朗はウサギと刀を片腕に抱えたまま木の葉が舞い上がるように軽やかに木を登った。そして木の枝を次々と跳んで三人の下へ戻ってくる。

「木を伝って逃れてくるつもりか」

 と猛蔵が言った。


 なるほど、地上が取り包まれようとしているのだから逃げるならば木の上を行くしかない。だが、これはそれほど賢い方法とは思われない。ベローチェたちも当然前しか見ないということはないから、三十ばかりの頭数のいずれかがその姿を見つけてしまうに決まっているからだ。猛蔵が刀を抜くために柄を覆うように結んだ着物袋を外そうとした。しかし清十朗とベローチェたちを見上げ見下ろしていた彼は不意に「おうっ」と小さくうなってはすぐにその手を離してしまった。そうなるとしか思われないのに、結果としてそうはならなかったからだ。鋭い目で周囲を見回すベローチェたちは何故か上を見上げようとはしない。これは偶然であろうか? その答えは木の上から飛び降りてきた清十朗を目の前にした猛蔵が言った。


「ほお、今のは忍法風隠り(かざごもり)。お前、習得しておったのか」


 忍法風隠り。これは吐息や体臭、動作に伴うべき音などを吹く風を察知し同化させ気配を消すという、歩行術または在り方の術だ。人間はあまり自然に感応していないため、この術は人に対しては効能が薄いが、他方動物に対してなら素晴らしい効果を発揮する。事実、清十朗が間近に落着し、さらに跳んだにもかかわらず、木の枝に止まっていた小鳥たちは飛び立つどころか微動だにしなかった。逃げるに鋭敏な鳥で気付けぬならばベローチェたちでは尚のことである。


「はい。しばし前に習得しておりました」

「やるな。苦労したろう。あれは私も習得するに苦労した。それにお前の風隠り、ただできるというだけでなく中々大した手並みであったぞ」


 四季右衛門にこう言われて、彼の方を見た清十朗が無言のうちにじんわりと頬を上げニコと笑った。四季右衛門がその顔にやわく微笑み返して言った。


「よし。いつまでもここにおっても仕方がない。山犬に見つからぬよう我々も風隠りを意識しつつ、早う山を越えよう」


 忍法風隠り――その作用によって風に入り込み、ベローチェたちを尻目にまさに風のようにスルスルと山林を進んでその場を離れた四人はやがて木々の切れ目に行き当たった。先頭を進んでいた四季右衛門が足を止めると背後の三人もまた彼の隣に並んでは立ち止まり、木に手をつきながらその切れ目を覗きこんだ。その切れ目とは下層に渓流の流れる深い断崖であった。


「行き止まりか。先はあれども道がない」

 猛蔵の言うとおり、顔を上げてみれば渓流の流れる谷を挟んでそこにはまた木々の広がる山林があった。


 しかしその対岸までは二百メートルほどはある。これを足を以って飛び越えることはさしもの忍者たちでもちょっと無理だ。となれば繰り出すべきは伊賀忍法しかあるまいが、

「柔膳、どう思う?」と聞いた猛蔵と、「ううむ……ここを渡るには俺とお前で手を貸しあわねばならんだろう。ただ、二人であれば渡るのはそう難儀でもないが、四季右衛門と清十郎を連れて渡るにはやや遠いな。途中で落とすかもしれぬ」と答えた柔膳はこのように少々心許ない問答を交わした。


 それを傍で聞いていた清十朗は断崖の下に目を戻した。落とすかもしれぬ、と言ったが落とされては困る。眼下を勢いよく流れる渓流は清涼な水音を発しているが、それが高い岩壁を響板として圧倒的な響きと化すほどの谷であった。崖には慣れているはずの清十朗が吹きあがってくる涼音に伴いふと冷感が背筋を這いのぼるを感じて、顔を上げた。顔を上げた清十朗は何か道はないのかと左右を見回した。すると――、

「おおっ、あそこに何やら橋のようなものが見えます」

 と声を上げた。


「橋?」


 確かに彼らの左手には遠方に薄っすらと見える空中を伸びるものがあった。四人は木々を抜けてそこに向かった。その場所にあったのは木板を並べて綱で吊った吊り橋であった。


「おお、真に橋であったな。こちらの方には道らしきものもある」


 猛蔵が見ている山林には木々を開いて土も少し均された細い道があった。


「こんな道があったのならこれまでわしらが悪路を登って来たのは何だったのだ?」

「ふふ……すまぬな。知らなかったもので苦労をさせた」


 苦笑する四季右衛門が前に出て橋を検めはじめた。屈みこんで木板を小突き、綱を扱き、橋を揺らしてみる。


「うん。本職の大工が手がけたのであろう、頑丈な作りの吊り橋だ。その上、手入れも時折なされているようだな」

「あっ! とはつまり?」


 なにかに気がついたらしい清十朗の問いかけに顔を振り向けた四季右衛門が頷いた。


「近くに村でもあるのだろう。探してみよう」

 吊り橋を揺らしもせずにスルスルと歩み渡った四人は再び山道に入った。先ほど細い道があったように、対岸のこちらにもその道はあった。その道を手繰るように進み、しばらく早足に歩んでは山を下りきるとそれはあった。


 見えたのは彼らにとってオッと息をのむべき異世界人の村であった。



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