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第2章 第14話


 残った一人も魔導で気絶させたレージは、三人とも土の魔導で作った手錠と足枷で自由を奪い、傍の樹木に固定して繋いでおくことにした。

 そこまで強烈な魔導を炸裂させたわけではないし、この世界には治癒の魔導も存在するので、後遺症をもたらしてしまったりこのまま失命してしまうようなことにはならないだろう。

 たとえ不埒な悪行に手を染めた輩とはいえ、自らの手で殺生を行うことには未だ抵抗がある。


 そもそもレージには、他者の生命を天秤にかけ思い通りに始末する権限はない。

 レージに許された殺生は、ダンジョンに侵入してきた生命知らずに制裁を加えることだけだ。最もレージは最後まで、その権利を行使することは無かったが。


「それよりも……」


 気を失った悪党たちを監視しているアリシアを一瞥してから、レージはこの場にいる、もう一人の女子に視線を馳せた。


 喉元にナイフを突き付けられつつも気丈に振る舞っていた彼女は、張り詰めていた神経が安堵のために一気に緩んだのか、腰を抜かしたようにペタリと座り込んでしまっていた。


 背中まで届く軽くウェーブのかかった長い髪は、木漏れ日に照らされ、鮮やかな桃の色に輝いている。

 レージが昔生成した(作った)メイドにも、ピンク髪の者は存在したが。それより発色良く美麗なそれに見えるのは、生まれ持った天然の髪色故か、それとも太陽に照らされた明るい場所で眺めているからだろうか。

 艶のあるその綺麗な髪は、見ているだけで心をくすぐり、鼓動を速めてしまう。


「ご無事でしょうか、ピンク髪のお嬢さん」


 居住まいを正し、紳士的な態度で言葉を紡ぐレージ。そのあからさまな態度の変わりように、悪党たちを見張っているアリシアが半眼になっていたが、ピンク髪の女に夢中になっているレージは、そんなことには気が付かない。


 恐怖のためか閉じられていた双眸が、ゆっくりと開かれる。髪色と同じ桃色の瞳が、睫毛越しに姿を現した。


 揺らめいた瞳がゆっくりと上目遣いになり、視線が絡み合う。

 柔らかい視線で見つめられ、レージは思わず背筋をピンと伸ばしてしまう。


 垂れ目気味な眦からは気怠げな雰囲気を感じさせ、非常に魅惑的だ。花が咲くようにすぼめられた唇から、「ふぅ」と扇情的な吐息が漏れる。

 香るはずのない――たとえ香ったとしても届くはずのない甘美な匂いが、目の前で弾けたように錯覚してしまう。


 胸の奥から広がるじんわりとした温もりに、頬が緩み紳士的だったはずの表情が崩れてしまった。


「お兄さん、強いのね。ドキドキしちゃった」


 甘い吐息と類似した、くすぐったげな声音が耳を撫でる。離れた場所から継がれた声なのに、耳朶に直接息を吹きかけられたような、そんな感覚を得る。

 堪らず身体を強張らせると、ピンク髪の女は何がおかしいのかクスクスと愛らしい声で笑ってみせた。


 細めた双眸で、上目遣いにレージを見やる彼女。肩を揺らし科を作るようにしながら、色香たっぷりに身体をくねらせる。

 局所を隠すだけの、下着同然の姿を晒しながらの所作。眩しい肌色が日光に照らされ、白く玲瓏に煌めいている。


 四肢を上手に使って、何も着ていないように見せる彼女。豊満な膨らみが、レージの視線を問答無用で釘付けにさせる。

 扇情的というよりか、むしろ挑発的な服装と称す方が的確だろう。

 単に布地を少なくしただけの、下品な服装をしているわけでは無さそうだった。


「お怪我はありませんでしたか?」

「ええ。少し頬を切られちゃったけど、治癒の魔導を施して貰ったから問題ないわ。――助けてくれて、ありがとね」


 女の子座りをしたまま両手の平を地面に着き、前のめりになって片目を瞑るピンク髪の女。逐一動作があざとく見えるのは、レージの気のせいだろうか。


「ご無事で何よりです。それより――そのような格好で外を歩いていれば、今のような下卑げびな男たちに襲われてしまいますよ」


 下心満載で助けに入ったレージの発言に説得力はないが。自分のことは棚に上げるのがレージ流だ。


 緩みきった口元を引き締め、気品たっぷりに紡いだつもりだったのだが。ピンク髪の彼女はきょとんとした顔でレージを見やり、またしてもくすぐったい声音でコロコロと笑ってみせた。


「職業柄、このような衣装を纏うことが多いの。強くて頼もしいお兄さんは、このお洋服、見たことないかしら?」


 見て見て、とでも言うように、色っぽい仕草を見せるピンク髪の女。伸びやかな肢体が、しなやかに晒される。それにしても良い肉体からだだ。ほど良く筋肉も付いている。踊り子か何かだろうか。


 枝に引っかかっていた衣服――薄布一枚だが――を返すのも忘れ、レージはその色めかしい動きに見惚れていた。

 誰かに腰の辺りを突かれているが、気が付かない振りをした。


「失礼ですが、ご職業は?」

「あら、ご存知なかったかしら? ……私の知名度もまだまだね」


 誰だか分かってて助けてくれたのかと思ったのにと、ピンク髪の女は紡ぎ――そのままゆらりと立ち上がると、腕を伸ばし、そっとレージの頬を撫でた。


「アルカディア商会のローズ・プリムヴェラって言えば、分かるかな? 私とお手合わせしたことはなくても、名前くらいは聞いたことあるんじゃない?」

「……いえ、存じ上げませんけど」


 唐突に頬を舐めたこそばゆい感覚に、レージは素の自分を出してしまう。

 唇の端を指でなぞり、自信満々に自己紹介するピンク髪の女ことローズ・プリムヴェラ。返答に困りアリシアの方を見やったが、彼女も聞き覚えがないらしく、目を伏せ小さく首を左右に振った。


 薄布に局部をガードするだけの衣装を纏った女人なら、昨日この町に来た時にも二、三回見かけたが。結局あの格好が流行のファッションなのか、何らかの職業で定められた衣服なのか分からずじまいだった。


 彼女の言葉を信じるなら、この肉感的な服装は、職業故に決められたものという解釈で正しかったようだが。


「ええーっ……。この町の男の子で、アルカディア商会はともかくローズ・プリムヴェラの名前も聞いたことないなんて、ちょぉっと信じられないなぁ」


 ジトッとした目付きで、ジロジロとレージを上から下まで舐めるように見るローズ・プリムヴェラ。

 不味いことを言ったかなと、レージは今更ながら自身の行いを後悔する。

 もしかすると彼女はこの町の権力者の娘とかで、有名な方だったのかもしれない。先の悪党たちも身体目当てというよりかは、誘拐めいたことを企んでいたようだったし。

 資産家の娘だったり――もしくは彼女本人が、一代で財を成した才女だったりするのだろうか。


「旅の者でして、この町のことは詳しくないのです。失礼がございましたら、お詫び致します」

「なぁんだ、そうだったの。別に失礼とかそういうのは大丈夫よ。気にしないで」


 畏まったレージを前にして、ローズ・プリムヴェラはひらひらと手を振って一笑に付す。

 確かに、こんな肌色全開――裸同然の格好で外出するような娘が、金持ちや権力者の親類だとは考えにくい。

 前世で言うところの、アイドルとかそういうやつだろうか。町の入り口に誰もいない見張り台があったが、もしかして強い魔物が現れた時、彼女があそこに立って士気を高める歌を歌ったりするのだろうか。

 中学か高校の頃、そんな作品を勧めてきた友人がいたなと、レージは思い出した。


 もしアイドルなら、この世界ではそういった立場の人間を何と呼ぶのだろうと、思考が脱線し始めたところで、不意にローズ・プリムヴェラはレージの腕を掴み、ぐっと顔を肉薄させた。


「良いわ。お礼するから付いてきて。さっきのこと、オーナーにも話さなくちゃいけないし。貴方の事も紹介したいわ」

「え、いやでも――」

「良いから、遠慮しないで。旅の思い出に、私とのお手合わせも綴じ込んでくれたら嬉しいわ」


 遠慮ではない。レージが拒むのは、他に人がいたら、如何わしいお願いが出来ないではないか――と、下衆思考かつふしだらな理由が要因だ。


 ともあれ今助けたばかりの女の手を振り解けるほど、元魔王レージ・クラウディアは外道に成りきれていない。

 腕を掴まれたまま、ローズに連行されるレージ。視界に広がる――覆うもののない、しなやかな背中が眩しい。

 有無を言わさず、レージは彼女の職場へ行くことを余儀なくされたのだった。



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