らぶあんどゆーす・8
その後の授業もテロリストが教室を占拠したりすることなく順調に終わっていき、今は待ちに待った昼休みである。
早速僕のクラスへやってきたユナと小走りしながら食堂に向かう。つい先程ユナに対して廊下を走るなと言ったばかりだが、これに関しては例外として大目に見てもらいたい。小走りだからセーフってことで。
谷川はそれを見て、「お前ら、どんだけ楽しみなんだよ」なんて笑っていた。
しかし仕方ないことだろう? ユナは元からこういう気質の持ち主だし、僕にしてもどうしても気分が昂ぶってしまう。
なんと言っても、狩りの現場にこの足で立っていたのだからな。
「んっふっふー、まことが捕まえてきたイノシシなら、きっとすんごい美味しいに決まってるね!」
まぁ、僕は見ていただけなんだけど。それでもそんな言い方をされたら、自分が狩ってきた獲物だなんて思ってしまって、より一層唾液が増してくるのを感じた。
「一緒に行った人の話だと、メスで柔らかそうな獲物だったらしいぞ」
無意識に胸を張ってしまう。それにユナも目を輝かせて、
「おお! さすがまことだね!」
と賞賛を送ってきた。
「いや、今の話で瀬川がすごかったところ無かっただろ」
谷川が水を差すように正しい分析をする。うるさいよ。
かくして食堂まですったったーと辿り着いたところで、いつも並んでいる正面とは違い、厨房へと続く裏口から入っていく。
『ああ、そうだったわ。話は通しておいてあげるから、明日食堂に行ったら裏から入って名前を言いなさいね、それで分かるから』、それが昨日の帰りがけに渡瀬さんから言われたことだった。
「すみませーん」
ドアを開けて中の人に呼びかけると、おばちゃんが顔を見せて「なんだい?」と声をかけてきた。
「あの、昨日ゲーム部の人から話がいってるはずなんですが、名前は瀬川です」
そう確認を取ると、おばちゃんは「ああ、はいはい」と頷いて表情を柔和なものにした。
「あんたがイノシシの子かい、話は聞いてるよ」
いや、その言い方だと僕が半人半獣の子供みたいじゃないか? 僕は至ってノーマルなヒューマンでアニマルな遺伝子はナッシングのはずなのだが。
「まことってイノシシの子だったの? わたし、ずっと人間の子だと思ってたー」
ユナが意外そうな目をしてくる。流石、うちのユナは素直な受け取り方の出来る良い子だなぁ。
「うん、実はそうなんだよ。だから人間の街にはまだ慣れなくてねぇ」
素直な良い子を見ると、ついからかってしまうのは悪い癖だろうか? 僕としては仕方ないことだと思うんだけどなぁ。
ユナは真剣な顔で「……んー、じゃあ山奥に引越しして方が良いのかなぁ? むむむ」と考え込んでいる。うーん、素直だ。
「お前ら、なんの話してんだよ」
谷川が横からツッコんできた、僕達をアホを見るような目で見てくるんじゃない。
「なんの話だっけかね」
と言って、ユナにも「冗談だから」と訂正しておいた。
「むきー! まこと、ユナたんをからかったね!?」
ぺしって頭をはたかれて、口を尖らせるユナに謝る。
すぐに気を直してくれたユナに今度は頭を撫でられて「いたいのいたいの飛んでけー」をしてもらった。軌道方向から見て谷川にでも不時着するんじゃないだろうか。
「なぁ、あんた達、もう良いかい? アタシも仕事があるからさ」
そう言われて、おばちゃんが冷めた視線を送っていることに気がついた。
仕事の手を止めてしまったことを申し訳なく思いながら、「すみません」と頭を下げる。そして、本題のイノシシについて話をすることにした。
「あの、それで、まず裏の方に行くように言われてたんですけど」
「そうさね、特別メニューだからね。こっちに直接来てもらった方が順番待ちしなくてなくて良いだろう?」
「それは確かに、そうですね」
特別メニューか、その響きだけでご飯のオカズになりそうだ。
「そっちのドアから出てテーブルで待っててくれたら、直ぐに調理して持っていくからね」
なるほど、最初から注文が決まっているから列から外れて入ってきて良いという配慮なのか。少しVIP待遇みたいで気分が良いな。
「分かりました」
そう言って客席の方へ出ていこうとすると、
「はいよー! イノシシメニュー三人分の子達が来たよ、準備にかかりな!」
おばちゃんが威勢よく厨房中に声を響かせた。
――って、あれ? 三人分? 渡瀬さんに頼んだのは僕とユナの分だったはずなのだが。
「なんだい? 瀬川って子が三人組みで来るって聞いてるよ?」
不思議に思って立ち止まっていると、そう説明された。どうやら谷川も頭数に入っているらしい。渡瀬さんが気を利かせてくれたのだろう。
「あ、はい、合ってます。すみません」
おばちゃんに頷いて、今度こそ厨房の外に出た。
「瀬川、俺の分も頼んでおいてくれたのか?」
テーブル席に座ると、谷川が訊ねてきたので首を振って否定する。
「いや、僕も知らなかった。多分いつも一緒だから気を回してくれたんじゃないか?」
「なるほど……へへ、優しいなぁ、あいつ」
やたらと嬉しそうに頭を掻いて、きょろきょろと食堂を見渡していた。
ユナの前ということで名前は出さないようにしているが、渡瀬さんに惚れ直しているのだろう。
渡瀬さんにしても自分の取り分があることだし、この場に居るはずだったが僕達の席からはその姿を確認することは出来ない。どうも離れたところに座っているようだ。
もしかしたら、まだ来ていないだけかもしれないけれど。
「ってか谷川、お前、自分の分が無かったらどうするつもりだったんだ?」
その場合、一緒に厨房に来ていたら注文出来ないだろうと、今さらになって気がついことを訊ねた。
「そのときはお前達の分から分けてもらおうと思ってさ、俺も食べたかったし」
へっへっへ、と笑いながらそんなことを言う。
分けてもらえなかったらどうしたんだろう? そう考えて、その場合ひもじそうにする谷川が気になって僕の方が味に集中出来ないのだろうな、と結論付けた。
グッジョブ渡瀬さん、ありがとう渡瀬さん。
イノシシまだかなー。




