閑話
「ねぇ、わたしのこと好き?」
それは以前にもされたことのある質問だった。気恥ずかしくて、つい意味も無く聞き返してしまう。
「え……好きって?」
「そのまんま、きみはわたしのことが好きかってことだよ」
「うーん、わかんないよ。そりゃもちろんキライじゃないけど」
「自分の気持ちのことだよ?」
「だってそういうのって難しいもん」
「あはは、きみは子供だもんね」
「自分だってそうじゃないか」
ぼくと変わらないくらいのくせして、この少女はことあるごとにぼくを子供扱いしてくる。クラスの女子からバカにされるみたいで、こういうところは少しムッとしてしまう。
「わたしはきみのこと好きだよ」
「………………」
「んへへー、赤くなったね。やっぱりお子様だ」
「…………うるさいなぁ」
「ねぇねぇ、もし――――もしもずーっと一緒にいられたら、そばに居てくれる?」
「ずっとって?」
「そのまんま、ずーっとだよ」
「こうやって、たまにここで会うのとは違うってこと?」
「そうだよ。そしたらそばに居てくれる?」
毎日じゃなく毎週でもない、ぼくの気持ちに関わらずたまにこの場所で少女と話をしているけれど、それがイヤだと思ったことはなかった。少女ともっと別の場所で遊んでみたいとも思っていたし、一緒に学校に行きたいとも話したこともある。
だから少女の言葉はぼくにとっても好ましいと言えた。
「うん、そしたら一緒に学校に行きたいね」
「学校かぁ、そうだね」
少女はどこか遠くを見つめるように、静かに言う。
「じゃあ、そうなれるようにちょっと頑張っちゃおうかなー」
「頑張るって、なにを?」
「んー? わたしときみが一緒に居られるのを許してもらえるようにだよ」
一体誰の許可が必要なんだろう? やっぱり神様だろうか?
「あ、でも」
「なに?」
「学校に行っても、きみはわたし以外見ちゃダメだよ?」
「どうして?」
「だって嫌だもん、そんなの浮気だよ浮気!」
「浮気って………………」
うちの父さんも浮気って言って怒られてたけど、別にぼく達は夫婦でもないのに…………。
「でも、そんなの無理だよ」
「なんで?」
今度は少女の方が聞き返してくる。それに対して「男友達の前で女子とばっかり仲良くしてるのは恥ずかしいもん」と答えた。なんとなく、『男の付き合いってのがあるんだよ』と弁解していた父さんのことを思い出してしまった。
「ふーん、人間って変だね」納得いかない、という風に口を尖らせている。
「じゃあ、もう一回聞くけどわたしのこと好き? 素直に言ってくれたら考えてあげよーう」
「それ、卑怯じゃない?」
「卑怯なんかじゃないもん、ちゃんと聞きたいだけだよ」
「………………たぶん、好き………………かも」
「なーにそれ、はっきりしないなぁ」
「だって、恥ずかしいし」
「恥ずかしいことばっかりなんだね」
そうなのかもしれない、と思った。人って生きてる中で無駄に恥ずかしがって自分に素直になれないこと多いよなぁ、この少女はそういう面倒なものから外れているように感じる。それが彼女の魅力なのかもしれない。
「でも仕方ないから許してあげる。でも、わたし以外の女の子と仲良くしたら怒るからね?」
「どうして?」
「うーわきだからー!」
「…………わかったよ」
思い返せば一目惚れだったのかもしれない。胸の中をぶちまけるなら、もうずいぶん前から彼女のことが好きだったように思える。
だから――――なのかはわからないけれど、少女の言葉に黙って頷いておいた。
「あと、男の子相手でも浮気しちゃダメだからね」
「…………そんなの、するわけないじゃん」
「んひひ、きみと一緒に居られるように、わたし頑張ってみるからね」




