1話 『疑問』
前回のあらすじ。高いところから男が飛び降りました。
死んだ。
結論から言えば飛び降り自殺。
まだ誰も出勤していないであろう早朝の朝に俺は会社に忍び込んだ。
非常階段を全力でかけ登り、行き着いた先には屋上へと通ずるドアが待ち構えていた。
さあ入れ。
と言わんばかりにドアを簡単に開くことが出来たのは昨日、押し付け残業を終えて社内をでるついでに鍵をぶち壊して来たからだ。
屋上へと通ずるドアは非常時用に設備されたものだったからか、滅多に人が来ることはないため、鍵を壊すのはやはり簡単だった。
そして、今日だ。そのドアを潜り抜け、俺は屋上へと踏み出した。後は世界に別れを告げて。
最後は勤める会社の迷惑になるよう、屋上から飛び降りた。
あとは地面に叩き付けられた末、ただ大の字になって死んだ。
正直、自分が勤め先で死んで、家族に迷惑をかけてしまうかもしれないこと以外の後悔はない。
その一点を除けば、スッキリだ。
実に開放的。最高な気分だと言ってもいい、先程までの激痛も嘘のように消えてしまっている。
死んでしまえば人間関係に苦しむ必要もないからな。
それに死んだ後の暗闇というのは……なんというか。
眠っているときの暗闇とも違って、死後の暗闇はなんだか本当に心地がよい。
正直予想していたものより、ずっと待遇がいい。
しかし一つだけ府につかないことが残るな。
やっぱり死んだ後の俺にとって、藤井尊――自身の意識は邪魔だと思った。
俺は、本当に死ねたのだろうか――――?
疑問が、一つ増えてしまった。