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陰った世界の勇者様~男で女な神の使徒~  作者: 紅紐カイナ
第一章 「古の聖女」
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神殿の迷宮

 渡された重たい鉄の剣をやっとこさ持って薄暗い道を進む。俺の前には俺と同じ鉄製だが、二回りは大きな剣を背にさして悠々と歩く要と、鈍器としても使えるロッドを両手で握りしめる由奈がいる。その少し後ろに守るように居るのは俺たちを召喚した魔術博士二人組で、それぞれ同性で固まって何やら指導したり、世間話をしたりして初迷宮の緊張を解きほぐしていた。

 俺がともに同行することを認められたのは、百歩譲って戦闘要員ではなく、相手の戦力を把握する特異な能力故だ。とはいえ、まったく戦闘訓練をしないわけにはいかないと、あの謁見の翌日から要たちと共にトレーニングを始めたが、闇の女神の加護と召喚の加護との差は開くばかり。召喚の加護は女神(今回は闇の女神だが通常は光の女神らしい)の加護に加え、術者の念がこもるために力が増すという。つまるところ、要たちと俺の成長速度には差が出るというわけで、現状、似たようなトレーニングを行ったにもかかわらずレベル差が2に膨らんでいる。

 このレベルというのはゲームのように敵を倒して経験値を得るだけではなく、トレーニングを通して上がった筋力や精神力も反映される。むしろ、ただ倒すだけよりもトレーニングなどの方が上がりやすいらしく。今まで実践に出たことがなかった俺たちだが、日々のトレーニングや対人での戦闘訓練などでレベルが上がったらしい。対人は剣道と似ていたからそれほど臆することなくできたが、初めての生物との戦闘。心配したが、意外にも由奈と要は始めこそびくついたものの、すぐに慣れてしまっている。こいつらやっぱ俺いなくても大丈夫だと思う。


 話を戻そう。


 謁見から7日。そんな感じでトレーニングを積んだ俺たちは、今、王族の管理する迷宮にいる。ヴィルガルド王国王都ヴィルゴートの王宮北隣に位置する、光の女神を祭る神殿の地下。青白く光る神秘的な鉱石が混ぜられた煉瓦でつくられた地下道が、通称神殿迷宮。女神が初めに課す試練と言われている。王国の兵士たちが捕らえてきた魔物が放たれ、勇者を試すのである。

 かくいう俺の前世リア・シアーナもこの迷宮を踏破して先へ進んだ。細かいところは覚えていないが、それほど苦労した覚えもないので、リアにとっては雑魚だらけだったのだろう。リアは初めから、ある程度の強さがあった。リアの強さは少し、特殊であったから。


「気分はどうですか、稲目殿」


 ふと、後ろからかけられた堅い声音に没頭していた意識を戻す。振り向けば、訓練時から俺に付けられた指導役の青年がきつい眼で俺を見ていた。


「平気ですよ」

「そうですか、きつくなったら言ってください。そしてできれば周りに注意を払う練習をしてください。本物の戦場はこれほど和やかではありません」


 きつい眼がそのまま前の四人に向けられる。彼はまじめだから、遠足に来ているような魔術博士達の雰囲気が許せないのだろう。

 彼、イーズ・セレスティアは齢25ながら王国騎士部隊の副隊長を務める期待の新星だそうだ。これから騎士として隊の中で地位を高めていくはずであったのに、俺が行くことになって俺付の指導者に選ばれてしまったものだから、彼としては納得がいっていないのだろう。左遷ではないか、とささやかれているのは情報に疎くなりがちな異界の勇者勢も知っている。しかし、そんなことで下された命をおろそかにしないからこそ若くして地位を手に入れたのだろう。彼は俺に的確な指導をしている。基本、無愛想だが。

 まあ、魔術博士らのように必要以上になれなれしくするつもりは俺にもない。

 ピクニックな雰囲気もウザったくなってきたころ合いに、丁度良く俺の視界に生物反応がうつる。ステータスは使ってみると広く応用が利くようで、今は周囲300メートルにわたって動く生物に対してステータスを表示するよう設定している。表示する項目も名前、レベル、HPのみにして視界を確保。


「ほら、敵が来るぞ。バーフリー、ビラッド、それぞれ数1。距離100」


 切り替えの早さは流石と言うほかない。ピクニック気分はどこへやら、俺の声に反応してすぐさま魔術博士二人が前に出る。

 緑の三角帽子、ガラクの土魔法が発動し床に小さな盛り上がりができて現れた魔物を転がす。いたちのような姿の魔物ビラッドは足をとられバランスを崩す。そこを難なく切り裂いた要に、由奈とシーナが歓声をあげた。

 うん、勇者って感じ。

 対して緋色の三角帽子をかぶるシーナは風の壁を作って蝶のような魔物バーフリーの鱗粉を押し返す。由奈が魔法を詠唱する時間を稼いでいるのだろう。詠唱を終えた由奈が水の弾丸を放出すると、バーフリーは呆気なく散った。


「お見事」


 そういって要の肩をたたく。要は複雑な表情で、手の感触を確かめるように剣を握りなおした。


「抵抗感も薄れてきた、慣れって怖いな」

「私はまだ怖いけど、大きい虫って感じだったし」


 大きい虫ほど気持ちの悪いものはないと思うのだが、由奈は俺が悲鳴を上げるような虫でも声も上げずに対処する精神の持ち主である。


「ユナは虫平気なのね~、あたしは魔物より虫のが無理だわ~」

「見つけると焼くんですよこの人、火魔法は不得意なくせに」

「咄嗟に出ちゃうのよ!」


 魔術博士は仲がいい。こんなコントじみた会話をするくらいには。なんでも幼馴染らしい。

 同じ村の出身で、共に魔法適正が高く、魔術師団に入隊してからというもの切磋琢磨しながら上を目指し、今では二人そろって魔術師団隊長である。それぞれの得意分野を生かし、シーナは風魔術隊隊長、ガラクは火魔術隊隊長の座についている。が、勇者の指導役となってからは副隊長にその座を仮に明け渡し、勇者付き指導魔術師として召喚した責任を取っている。そう、召喚したのはこの二人なのだ。謁見の際にMPが少なかったのは召喚時に使用した分が回復していなかったかららしい。ステータス開示スキルを楯に聞いてみたら嫌そうな顔をしながら教えてくれた。俺はあまり二人に好かれていない。

 ちなみに、なぜ二人の指導者は魔術師団で俺の指導者が騎士団かといえば、単純に俺に魔法適正がないからである。

 一つ、ため息をつく。

 俺も魔法使いたかった。まあ、ステータスってちょっと索敵魔法っぽいところあるから面白いんだけどね。リアの武器も魔法とはちょっと違うからなあ、憧れてたんだけど。


「前方300、なんかでっかい反応あるよ」

「でかい?」


 要が表情をこわばらせる。


「ストーンゴーレム、レベル15」

「ああ、ボスだね、このまま進もう」


 ガラクがこともなげに述べて、先を促す。

 名前からして、とても想像しやすいボスでありがたいね。

 石の塊が歩いている様を想像しながら、前の二人に続いて一歩踏み出す。

 が、踏み出した先にあるはずの感触を感じない。


「へ?」


 突然、踏みしめるべき床石が消失する。何もない空に投げ出された足が、俺の身体をそのまま引き込んだ。


「あ?」

「ん?」

「……理斗くん!?」


 底知れぬ穴に落下しながら、俺は由奈の声を聴いた。


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