迷宮の矛盾と残された二人 下
文字数少ないですができるだけ頻度up目指します。
シーナは正直、堕ちたのが要や由奈でなく、勇者ではないおまけの少年であったことに安堵していた。少年のステータスを見る力は便利だが、修練を積んだ者ならば気配や気によって相手の力量を図ることもできるし、離れたところにいる敵を察知することも可能だ。二人があれほど目をかけていなければ、シーナは少年と行動を共にする必要はないと思っている。足手まといはいらないのだ。
今回、少年は見事に足を引っ張ってくれた。性格は気に入らないが戦力であるイーズを連れて離脱し、あまつさえそれによって要と由奈の心を乱した。シーナ自身でさえあり得ない迷宮の崩落に呆けてしまった。
城に戻り、足りない人数に顔をこわばらせた上官に報告をするのは億劫だった。迷宮が崩落したと、信じてもらうのが難しいと思っていたからだ。案の定、いぶかし気な目を向けられたが、勇者二人の言葉により上官は事の深刻さを理解した。
それからの動きは迅速であった。急ぎ会議が開かれ、シーナ達博士と、各団の団長と副団長、宰相、王に王女が集い、どのようにして救出するかが話し合われた。しかし、明暗は出ない。皆、迷宮の下に空間があるなど初耳であり、掘ることのできない床をどうして穿とうかと、議題は前進しない。
結局博士含め数名が準備が整い次第迷宮を調査することで話がまとまった。
王女エリスも同行すると聞かなかったが、勇者たちと年の近い彼女を同行させてしまえば、二人を待機させる説得力が薄れるため、王女にはあきらめてもらった。多大な時間を費やしてようやっと呼び出した勇者二人を旅にすら出す前に訳の分からない危険にさらすわけにはいかない。行きたいというだろうが、そこは何としてでも食い止めなければならない。
会議が終わったその足で、ガラクと王女と共に二人の元へ向かう。自室で休むように言ったが、由奈は要の部屋にいるらしい。ノックをすれば、薄暗い部屋にうつむいた二人がいた。ショックが相当なものであったことを再確認し、あの少年に怒りが湧いてくる。あんな普通の少年が、どうしてそこまで二人の中で大きくなっているのだろう。
「準備が整い次第、シーナ、ガラクを含めた精鋭による救出部隊を向かわせます。理斗様は必ず助け出します。幸いイーズが理斗様と共にいるようですので、救出部隊が行くまで理斗様を守ってくれるでしょう。ですので、お二人はわたくしと共に、彼らを信じて待ちましょう」
「わ、私たちも理斗君を助けに行きたい!」
「ああ」
「それはできません」
力強く、王女が否定する。視線を向けられて、シーナとガラクも二人の説得を試みる。何とか納得してもらい、飲み物も何も口にしていないようだったので、急ぎ食事を用意してもらう。少し早い夕食となったが、二人はあまり口にしなかった。
仲間ひとりかけてこれでは、先が思いやられる。
「ユナ、カナメ。厳しいことを言うようだけど、切り替えてもらわないと困るよ。心配もわかる。でも考えてごらん。リトが戻ってきて、憔悴した二人を見て喜ぶかな?」
これから、彼らは戦場へ行く。連れていくのはシーナ達この世界のものだが、彼らは了承した。戦場は人が死ぬ場所。これから親しくなった騎士の死に目に出くわすかもしれない。シーナやガラクが殉職するかもしれない。死に慣れろとは言わない。それでも、辛くとも健康でいる努力をしてもらわなければ困るのだ。
由奈は不満そうな顔をしていたが、要はすぐに頷いた。わかってはいるのかもしれない。ただ、心が追い着かないだけで。
野菜のスープとあっさりとした鶏肉を食べて、二人は自室に戻った。
シーナも自室へいったん戻り、救出へ向かうための準備をする。
それからほどなくして、迷宮の入り口で理斗とイーズは発見された。