迷宮の矛盾と残された二人 上
たいへんお久しぶりです
「理斗くん!」
伸ばした手は指先をかすめることもなく、由奈は呆けた表情で落下する友人の名を叫んだ。のりだしたその身を慌ててシーナが抑える。
それは刹那の出来事だった。一行は呆然として、瞬く間にふさがった穴のあった場所を見つめた。先に我に返ったのは経験豊富な博士たちで、ガラクとシーナはほぼ同時に周囲を見回し、目を合わせた。
「イーズも一緒に落ちたか」
「本当に、真面目な男だわ」
蹲る由奈の肩を抱き、シーナは立ち尽くす要を振り返る。
表情には出なかったが、要も由奈と同じくらい動揺していた。呼吸さえ忘れるほどに。
「落ち着け!」
「うっ、げほっ」
要はガラクに思い切り背をたたかれて、やっと息を吐いた。そうして自身が暫く呼吸をしていなかったことに気が付くと、一通りむせた後に大きく深呼吸をした。
「理斗は……」
「イーズが一緒に落ちているから大丈夫でしょう、それより」
「さがって!」
ガラクが鋭い声で言ったのと、地面がせりあがり壁を形成したのはほぼ同時だった。続いてゴゥンと何かがぶつかったような低い音。
それは進むはずだった後方、先の道のりの方であった。
先には確か、理斗の感知したストーンゴーレムがいるはずだ。それが襲ってきた。要と由奈は動転して鈍くなった思考で何とか状況を把握した。既にガラクとシーナは臨戦態勢で、ガラクが防御しつつ次の手を用意し、由奈を抱いたままのシーナも真直ぐに敵のいるだろう場所を見据えている。
要は由奈を見た。女性特有の座り方で、両手を地面に着き涙を流す由奈は、敵が来たことを理解はしているようだが、まだ戦いに参加できる状態ではなさそうだ。
要は大きく息を吸う。先ほどまで振っていた剣を握り直し、ガラクの後ろで構える。大丈夫か、というような視線を受け、頷く。
石壁にひびが入る。広がり、割れた向こうに赤茶色の岩がいた。赤茶色の胴体に、少し色の薄い円形の岩を繋げたような腕と足。手や足に指はなく、平たな岩がくっついている。岩には小さな穴が二つ並んで開いており、その向こうに鈍い赤色に光る眼があった。
戦闘は一瞬だった。状況を加味して全くの手加減をせずに博士二人が魔法を放ったのだ。剣を構えた要だったが、結局出る幕はなく、シーナの水魔法数発でストーンゴーレムは倒れた。
「戻りましょう。ボスであるゴーレムも倒したし、二人を探すにしても私たちだけでは心もとないわ」
由奈を立ち上がらせて、シーナは言った。