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陰った世界の勇者様~男で女な神の使徒~  作者: 紅紐カイナ
プロローグ
1/16

古の記憶

少し遅れた流行りもの。

書いてみたかったのです。


2017/12/31 全話改稿しています。

 巨大な黒龍の骸の前で、今まさに世界を救ったと喜んだ面々は絶望していた。突如として現れた彼は骸の上中空に陣取り、立ち上がることさえままならない勇者らに目を細めた。満身創痍になってまで倒した魔王たる黒龍よりも強いだろう彼は、覇気と圧倒的強者の余裕をにじませた面持ちでそこに降り立った。


「君らが善とされる光の神の希望であるようだ。ならば、君らの芽を摘み取るとしよう」


 勇者面々は息をのむ。それは明らかなる布告。戦う気力も、意思さえ奪われた勇者たちにとっては、覆せない死を意味した。が、彼は楽しそうに笑い声をあげると、そう急くな、と言葉を続ける。


「徐々にむしばむ呪いを与えよう。希望は少なからずあるのだと思わせた方が、舞台は面白くなる。君たちは己の少ない生を生き、後世に受け継がれる。そして我に抗いに来る」

「自分を倒しに来る存在を、あえて作るなんて、酔狂ね」


 一団の中でもひときわ目を引く赤い髪の少女が言い返す。震え、掠れた声だったが、自らの威圧に耐え、あまつさえ言葉を発した少女に、彼は愉快そうな視線を向けた。さながら、新たな玩具を見つけたような、そんな期待を含んだ瞳。


「敵対してこそ脚本だ。君は良い英雄になれるだろう。現世でも来世でも」


 一行が聞き取れたのはそこまでだった。下から吹き抜けた黒い靄のような風が勇者一行を飲み込んだ。気が付いた時には乗り込んだはずの魔王の居城の外、鬱蒼と茂る森の入り口だった。呆然とする彼らの左手甲には、勇者の証を打ち消すかのように、黒色の髑髏が描かれていた。



 赤髪の少女、二代目勇者リア・シアーナとその仲間は、魔王を討伐するも呪いを受けて帰還する。

しかし、それは人々の耳には入らない。

 帰還した彼らは、魔王を討伐したという報告も早々に、神霊の森奥深くに身を潜め、人と関わろうとはしなかった。民衆は心を砕き彼らを案じ、権力者は手の届かないところにいる強大な力を恐れた。

 そんな事とはつゆ知らず、否、そんなことは勇者一行にとってはどうでもいいことであった。

 彼らは呪いの効力を恐れた。生命力を奪う呪い。呪いは受けたもののみならず、周囲にまで影響を及ぼした。故に、神霊の森にすむ動物たちでさえ、彼らの小屋には近づこうとしなかった。

 そうして、とうとう呪いはそのさらに上の段階へ進む。

 初めに呪いに飲み込まれたのは弓使いだった。

 生命力を奪われ、とうとう自我さえも奪われた弓使いは、命ある限り暴れ続ける。小屋と森の一部を吹き飛ばす弓使い。このままではいずれ町まで及んでしまう。リア・シアーナ達勇者一行は涙を流し、弓使いを討った。

 呪いは自分たちの自我をもいつか飲み込むだろう。残された4人は意を決し、笑い合う。

 彼らは自ら命を絶つことにした。

 暴虐の限りを尽くす魔とかすくらいならば、その前に。

 4人は見つめ合い、刃を自身に向け、もう一方の手を合わせる。

 世界一の剣士と言われた男、年端もゆかぬ怪力の少女、種族一の秘術の使い手、そして勇者であり聖女であった少女。人のために尽くした彼らにとって、その死はなんと寂しく、悲しいものだろうか。

 

 一斉に貫く。倒れ行く仲間を最後に、リア・シアーナの意識は闇に沈む。



『君は良い英雄になれるだろう。現世でも来世でも』



 少年は夢の中で、少女の一生を知る。幼い時分の憧れ、自身の運命への驚愕と不安、相対する敵への恐怖、志を共にする仲間、愛おしい人。刹那の激情やその時々の会話まで。

 全てを知った少年は、ゆっくりと目を覚ます。


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