2.秘密基地
「よぉ」
ヒョイと頭を下げて、リオくんが入ってきた。
「おまえ、また、ここにいたの?」
「うるさいな。あたしの勝手でしょ」
リオくんの言葉はいつもあたしをイラつかせる。本当は怒鳴りたいけど、そういうわけにいかないよね。だってここは秘密基地。あたしがここにいるって外のオトナに知られたくない。
「あんたこそ、なにしに来たわけ?邪魔なんだけど」
「別に。オレの勝手だろ」
思いっ切り不機嫌な声で言ったのにリオくんは平気な顔してて…。ああ、なんか、余計にイラつくじゃん。
「あんた、マジ、ムカつく」
あたしから少し離れたところに座って、ぷいと横を向いたリオくんの顔を見て、『帰れ』って言うのはやめた。
「どうしたの、それ」
「転んだ」
「ふーん、バッカみたい」
「…おまえこそ、どうしたの、それ」
「あたしも転んだ」
「ふーん」
人の口まねばっかしてて死ぬほどムカつくリオくんは、あたしに『バッカみたい』っては言わなかった。
「オトナって勝手だよな」
「…なに、わかった風なこと言っちゃってんの」
茶化したら、つい声が大きくなって、慌てて自分の口を両手でふさぐ。リオくん、それ、あたしが言いたかったことだよ。なんで、あんたが言っちゃうの?あんたは、フツーの家の子のくせに。
「明日、学校、ちゃんと来いよ」
「……リオくん、左目の下が青赤くなってるよ」
リオくんと話してるとドンドン頭にくる。だから。わざと。
「新しいお父さんに、殴られたんだ?」
リオくんが傷つくことをわざと言った。
「バッカみたい」
リオくんは言わなかったのに。
「明日、学校、ちゃんと行けないのはあんたの方じゃん!」
半分青赤いリオくんの顔が下を向く。
「さっさと、帰れよ!」
バッカみたい。バッカみたい。リオくんも、ここへ逃げてきたのに。バッカみたい。あたしは言っちゃいけないことを言った。
「…おまえも、早く、帰れよ」
下を向いたまんまリオくんは小さい声で言って秘密基地を出て行った。
ムカつく。ムカつく。ムカつく。帰れるあんたと、あたしは違う。そんなことも知らないくせにムカつく。
リオくんを傷つけられてスッとしてるあたしと、そんなあたしにムカつくあたしが、あたしの中で喧嘩してるから、ムカつきすぎて涙が出てきた。
………明日、学校行って、ゴメンねって言おう。