1.訪問者
「はーい席について。この間の漢字テスト返しまーす。呼ばれた人、取りに来てー」
20分休みの時間でガヤガヤとうるさかった教室に佐久間先生の声が響いた。チャイムはまだ鳴っていない。
「なんでいまー。」
「先生ひどいよ。」
「あと2分も休み時間残ってるじゃん!」
「ハイハイ、ごめんね。でもどうせ外にも出られないんだから2分くらいいいでしょ」
「えーっ!ふざけんなよ!!」
お調子者のリオくんが大きい声で文句を言った。先生はわかってない。その2分が子どもには大切なのに。今週は雨のせいで、ずっと校庭で遊べていない。今日体育館に行けるのは5年生以上だ。4年生以下は教室の日。おまけにテストが返ってくるなんてついてないにもほどがある。
「今日返さなくたっていいのにね。先生わかってない」
一緒に折り紙してたかなちゃんがポソッと言いながら自分の席に帰っていった。あたしが考えていたのとおんなじこと言うから、なんか面白くなってしまった。やっぱかなちゃんとは気が合うな。
「めんどくせー」
「うぜー」
みんなはまだしゃべりながらダラダラと席にもどる。
≪ガガッ、ガッ≫
「そこー、イスは引きずらない」
「へーい」
タクマくんが面倒くさそうに引きずっていたイスを持ち上げる。
「あれ、これバツだ。なんで…」
「どれ?」
「これ」
「天は二物を与える、って」
「おまえそれ与えずだよ。与えてどうするよ」
しょうくんが言ってドッと笑い声があがる。
「えーそうなの?」
ずっと与えるだと思っていたあたしはちょっと納得がいかない。だって、天は与えるのだ。2個も3個も。1個持っている人は他のも持ってる。初めからなんにもない人はずっとなんにもない。
≪与える、って、あたしも思ってた≫
かなちゃんから手紙が回ってきた。うん、やっぱりかなちゃんとは気が合う。
§
「ただいまー」
って言ったって返事は返ってこない。自分で鍵を開けたんだから誰もいるはずはない。わかってるけどいつも言っちゃう。クセだから仕方ない。
「おかえり」
靴を脱いでたら中から声がした。だれ?出てきたのは男の人。あたしはこの人を知らない。