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№09 推測、修行、再会

 巨岩の隙間から現れたタイガを確認すると、クインは安堵し大きく息をついた。

 外で待っている間、微かに戦闘音が聞こえる度に、兄の時の事を思い出してしまい、洞窟に入りたい衝動に駆られたが堪えなければならなかったのだ。

 そうなってしまうのは当然だろう。


「無事で良かった」

「すまない。心配を掛けたな」


 今にも泣きそうな顔でクインが言うものだから、タイガは狼狽し素直に謝る事しか出来なかった。

 だがタイガにはクインにしっかりと伝えるべき事がある。


 魔方陣から緑巨竜が現われた後、タイガは戦闘する事は無かった。

 洞窟の開けた場所の天井部分が急に光り、緑巨竜は消えたのだ。


 その事からタイガは、この洞窟の魔方陣は蠱毒に似た目的があるんじゃないかと考えていた。

 蠱毒とは簡単に言えば、狭い空間で互いを殺し合わせ、最後に生き残った最も強力なものを利用する呪術だ。

 洞窟の魔方陣は洞窟内で死んだものを贄に強力な何かを召喚し、最終的に残った一体をどこかに転移させる。

 転移させるのは天井に巧妙に隠されていた魔方陣で、人種は転移されない様に出来ているのだろう。

 憶測ではあるが、タイガは自身が転移されなかった事からそこまで考えていた。

 そして、それらの事からクインの兄の行方もタイガは推察していた。


「現場に来て経験して、色々と分かった。話を聞いただけじゃ分かってなかった部分もあった。いや、これは言い訳かもしれないな。とにかく聞いてくれ。これはあくまでも憶測に過ぎないけど――――」


 タイガはクインに自分の考えを伝えた。

 クインの兄は首刈巨猿の王級種と戦闘時、闘士団の死んだ仲間達を贄に新たな敵が出現するのを察知した。

 そして、その敵を首刈巨猿の王級種よりも先に倒した事により、首刈巨猿の王級種が最後の一体となったと判断した魔方陣が天井の魔方陣を起動した。

 だけど、天井の転移させる魔方陣の方は完全獣化しているクインの兄を首刈巨猿と同じ様に獣と認識し転移させた。

 首刈巨猿の王級種によってクインの兄が殺されてしまった可能性も否定できないと考えたタイガだったが、その場合は洞窟の特性上、クインの兄の死体が残ると予想できるので、転移させられた可能性が高いと見越していた。


「そうか」

「ああ」

「仮に転移させられたとしたら、兄はどこに居ると思う?」

「残念だけど、分からない。それに、これは言い難いんだが……」

「なんだ? 全部言ってくれ」

「もし転移させられたのだとしても、転移先でのクインの兄さんの生死は予測出来ない」

「やはりそうか」

「すまない。首刈巨猿の王級種が生きていたのだから、クインの兄さんも生きている可能性は高いと思ったのだが、短慮だった」

「いや、まだ兄が生きている可能性が潰えた訳では無い。それよりも色々と考えてくれて感謝している。タイガは魔法は詳しくないと言ったが、私に比べたら遥かに詳しいと思うぞ」


 暗くなってしまった雰囲気を変える為に、わざと明るく言うクインにタイガは感謝しながら自身も明るく話す。

 雷神流闘法の使い手としては魔法の知識も必要になるからと、魔法に関する教えも受けていた事。

 また、その時に同じ弟子のハッシュという男が魔法に関して詳しいからと勝ち誇って悔しかった事などを面白可笑しくクインに話す。

 そこから、弟子仲間であるアネタや白の話や師匠であるライの話、厳しかった修行の話をした。


「そうだ。修行と言えば、クインの修行に洞窟内の魔方陣を使おうと思う」

「どういう事だ?」

「洞窟内に誰かが侵入した時にモンスターを呼ぶ魔方陣はまだ生きているから、再度侵入すれば、また呼ばれるだろう。そいつらをクインに倒して貰う」

「そんな事をすれば、それを贄に更に強い敵が出現してしまうのではないか?」

「それはそれで、こっちの狙い通りだ」

「そうなのか? むしろ、ここに魔方陣を設置した者の思う壺ではないのか?」

「いや、そうはならない。洞窟内の魔方陣の仕組みと、これを造った奴の意図は大体分かったからな」


 タイガは洞窟のシステムを造った何者かの狙いは、強力な手駒の確保にあると見ていた。

 それならば、転移魔方陣を起動しない様にする事によって転移させない様にし、強い個体の怪物達を利用させて貰おうと考えた。

 そこでタイガは緑巨竜が転移させられた後、その魔方陣を探し破壊しておいた。

 最初はどうなるか分からないから警戒する必要があるが、上手くいけばクインの強さは飛躍的に伸びるだろうと予測していた。

 そして、その予測は見事に的中する。


 十数日後、洞窟内。

 タイガが見守る中、クインが首刈巨猿二体と戦っていた。

 タイガに師事する前のクインであれば、勝てなくはないが手こずる相手だった首刈巨猿と二体同時に戦っても余裕の笑みを浮かべている。

 首刈巨猿の不規則で多彩な攻撃を楽しげに躱したり捌いたりするクイン。

 そこまでの力の差が有れば、野生の獣であるならば逃げられる時に逃げるはずだが、この洞窟内に召喚された獣や怪物は相手が格上であろうと死ぬまで挑んでくるので、修行には最適だ。

 そんな風に簡単に相手取るクインだったが、最初はこうはいかなかったと十数日前を思い出す。


「タイガ、この数の敵を私一人で倒せと言うのか?」

「そうだけど、お膳立てはするから」

「お膳立て?」

「ちょっと待ってな」


 洞窟内、魔方陣のある場所までの侵入を二度繰り返す事によって、多くの敵が召喚されていた。

 その数を確認したクインは自身にとってこいつらとの戦闘は死と隣り合わせのものになるだろうと思った。

 なのに、それを気軽にやれと言われたクインの顔は引き攣ってしまう。

 だが、そんなクインに笑顔で待つように言うと軽い足取りで敵に向かって近付いて行くタイガ。

 洞窟内の開けた場所に出現した敵達は互いに戦闘しそうになっていたが、唯一の異物であるタイガが近付いて来た事によって共闘体制になる。

 一斉にタイガに群がる敵対種、その数は十六体。

 だが、その十六体の全てがタイガの繰り出す技によって近付いた途端に戦闘不能状態に陥った。

 雷神流闘法王級技の一つである雷電撃、雷精霊の力を借りて拳に雷属性の闘気を纏いスタンガンの様に高圧電流で敵を麻痺させる技だ。

 ピクピクと痙攣しながら身動きの取れない敵を倒す様にクインを促すタイガ。


 これはいわゆるパワーレベリングである。

 誕生世界には訪問者、現地人を問わずロールプレイングゲームの様なレベルやスキルが存在する。

 かなり端折った説明になるが、強者が補助し弱者のレベルを上げる行為がパワーレベリングと言われるもので、オンラインゲームの世界などで行われたりしている。

 それを誕生世界で強者であるタイガが弱者であるクインにしている。

 まあクインは弱者と言うには強すぎるので語弊があるかもしれない。

 それはさておき、パワーレベリングによりレベルが大きく上がったクインは、タイガの補助無しでも洞窟内に出現する敵対種と真っ当に戦闘出来る様になった。

 この方法はライにより弟子であるタイガ達にも行われている。

 タイガがライから修行を受けていたガハラ大樹海は、高レベルの生物が多いので、その効果はより顕著だ。

 タイガが、空手をやっていたという下地があったにせよ、あまりにも早く雷神流闘法の手練れとなる事が出来た要因の一つである。


 戻って、現在。

 首刈巨猿二体を倒した後に現れた緑巨竜を待ち望んでいたクインは、不敵に笑った。

 緑巨竜が身体を大きく揺らし薙ぐ様に尻尾を振る。 

 凄まじい激突音と共に衝撃がクインを襲うが、びくともせずに受け止めていた。


「お返しだ」


 クインは緑巨竜に極限まで近付くと、その脚に強烈な下段蹴りを当てる。

 緑巨竜は唸り声を上げると痛みに顔を歪め、やがて崩れ落ちる様に倒れ始める。

 クインの下段蹴りによって脚を壊された緑巨竜は自身の体重を支えきれなくなってしまったのだ。

 そして倒れて低くなった緑巨竜の頭に強烈な一撃を与え絶命させる。

 たった二撃で緑巨竜を倒したクイン。

 もはや最近では当たり前の光景である。

 この日、数十体目の緑巨竜を倒したクインにタイガが声をかけ洞窟内での修行の終わりを告げる。

 何時もより少し早い修行の終わりにクインが疑問を持つとタイガは答えた。


「俺に客が来たんだ。久し振りの再会だよ」

「え?」


 更にクインは疑問を覚える。

 試練の泉で転移させられたタイガはコノメ大森林に知り合いなど居ない……つまり、知り合いが態々ここまで会いに来たということだ。

 だが、なぜこの場所がわかったのだろう? そんなクインの疑問は直ぐに解ける。


「クインも気配を感じない?」

「凄まじい速度で強者の気を持つ何かがこちらに向かって来ている」


 クインは気配察知を自身が出来る最大範囲まで広げると、その存在に気付いた。

 その速度はとても人種とは思えず、まるで空を飛ぶ飛行種の生物だと感じた。

 そして、タイガの知り合いもタイガの気を感じてこちらに向かっているのかとクインは理解した。


「取り敢えず洞窟の外に行き出迎えよう」

「わかった」


 二人が洞窟の外に出ると計ったかの様に、そこに降り立つ人影があった。

 その人影は跳ねるように走りタイガに近付き抱き着く。

 クインのこめかみに血管が浮き上がりピクピクと動いた。


「タイガ」

「久し振りだな、アネタ」


 それは初めてタイガに出来た誕生世界人の友達である、クルクルとした栗色の巻毛が愛らしい美少女、アネタだった。

 文字通り、ここまで飛んで来たアネタはタイガに促されてクインに挨拶をすると、ここに来るまでの経緯を簡単にタイガに説明する。

 言葉少ななアネタの説明は分かり辛いものだったがタイガは理解した。

 タイガが試練の泉で転移させられた後、謎の敵が出現してガハラ大樹海の四守護獣に襲い掛かってきたけど、一先ずは撃退出来た。

 だが、また襲われる可能性も考えて、より確実に撃退出来る対策の為に、師匠であるライと邪喰聖蛇の白はガハラ大樹海に残り、この世界をタイガに紹介したハッシュとアネタとで、この浮遊大陸に来たそうだ。


「ところで、そのハッシュは?」

「忘れてた」


 そう言ってアネタは懐から魔方陣が書かれた紙を取り出すと地面に広げる。

 次に、通信用の魔道具を取り出すとハッシュに連絡する。


「大丈夫」


 それだけ言うと通信を切る。

 すると地面に広げた紙が光を発し、やがて金髪碧眼痩身中背の尖耳人であり訪問者のハッシュが現れた。


「アネタちゃん、通信切るの早くないっ!?」

「おう、ハッシュ。久し振り」

「おう、タイガ。久し振り……じゃねぇよ!? 誰だ、この美人!? オマエの美女美少女遭遇率、なんなんだよっ!? これが主人公補正なのかよっ!? これが主人公補正なのかよっ!?」

「二回繰り返す程に大事か?」

「大事だわっ!」


 安定の突っ込みキャラ、ハッシュであった。


「私が美人……だと?」


 一人赤面するクインが居た事も追記しておこう。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

拙作をここまで読んでいただいた上に大変恐縮なんですが出来れば感想をいただければ、作者は泣いて喜びます。

宜しくお願いします。

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