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№08 死体、逢引、巨竜

「その後、洞窟内で何がどうなったのかは分からない。だが、巨岩の隙間が閉じたのは首刈巨猿の王級種が外に出られないように兄がしたのだと思っている」

「あるいは、それ以上の何かかもしれないな」

「ん? それはどういう?」

「悪い。話を続けてくれ」

「そ、そうか? 後で聞かせてくれ。そうだな……その後、村に着いた私は族長である父に報告した。村には他所の村々から来てくれた助っ人の人々が居て、総出で洞窟に向かったんだ。だけど……」

「そこには誰の死体も無かった?」

「ああ、その通りだ。なぜ分かった?」

「憶測の域を出ないが――」


 そう前置きするとタイガは、クイン達が洞窟内で見た魔方陣は生贄を使った召喚魔法を発動する物で、闘士団員の死体が無かったのは彼等を生贄に新たな何かが呼び出されたからではないか? クインの兄のウィルはそれを見越して隙間を埋めたのではないか? そんな事を語った。


「それにクインの兄さんは生きている可能性が高いかもしれない」

「そ、それは本当なのか!?」

「その説明をする前に、これを見てくれ」


 タイガはそう言うと訪問者特有の収納魔法を使い、以前フィンと行った洞窟で戦闘した首刈巨猿の頭部を取り出した。

 クインは首刈巨猿の顔の傷を見て、直ぐに兄のウィルと戦った首刈巨猿の王級種であると気付いた。


「これは! この死体をどうしてタイガが持っているのだ!?」

「やっぱり、こいつはクインの兄さんと戦った首刈巨猿の王級種なんだな?」

「そうだ。私が見間違うはずが無い」

「この首刈巨猿は花を取る為にフィンと洞窟に入った時に戦って、倒したんだ」

「そうか、感謝する」

「いや、いいんだ。それでな、こいつの出現した場所を調べたら魔方陣を発見したんだ」

「魔方陣だと!? どういう事だ!?」

「そう興奮しないでくれ」

「す、すまん」

「取り敢えず、この首刈巨猿の頭部は俺の収納魔法で隠しておく。それと、首刈巨猿の事は秘密にしておいてくれ。フィンにもそう言ってある」

「わかった」


 タイガが収納魔法で首刈巨猿の死体をしまう。

 そして、今度は紙を取り出し、クインに見せた。


「これが魔方陣の写しだ。正直、正確に写せたか分からない。それに魔法に関してはあまり詳しくないから誰かに聞かなきゃならないが、俺は転移魔方陣か召喚魔方陣なんじゃないかと思っている」

「どうしてだ?」

「洞窟内で首刈巨猿の気配は突然現われた。俺の気配察知能力はそれなりに高いからね。それを掻い潜って突然現われる事が出来るとしたら転移魔法か召喚魔法しか考えられない」

「じゃあ、態々あそこに首刈巨猿の王級種を転移か召喚させた者がいるという事か……」

「それはつまり」

「我等金獅子族に害意を持つ者の仕業という事か?」

「そうなるな。それに加えて――」


 タイガは首刈巨猿が村を襲撃したのも同一犯による人為的なものである可能性が高い事を説明した。

 クインはどうして金獅子族が狙われたのか分からなかったが、多くの犠牲者の事を思うと止め処なく涙は流れ、卑劣な犯人に対しては握った拳から血が滴り落ちるほどの怒りを覚えた。

 余談だが、首刈巨猿の襲撃などの一連の事件により、闘士団から選抜される程の実力を持つ闘士はクイン以外は居なくなってしまった。

 故に金獅子族の現闘士団の力は弱いと言わざるを得ず、代表もクイン以外は誰がなったとしても心許ないと多くの金獅子族は思っていた。


「そして肝心のクインの兄さんが生きている可能性が高い理由だけど、首刈巨猿が生きていたからなんだ。仮に死んでいた場合、首刈巨猿よりも強い何かが召喚された筈だ。そしてその何かはもしかしたらクインの兄さんを殺していたかもしれない。だが、首刈巨猿は生きていた」

「それはつまり、兄さんも生きているって事か?」

「ああ。でも、全ては憶測に過ぎないから、そこは許してくれ」

「いや、辻褄は合う。それに、私は兄さんが生きていると信じたい」

「そうか。生きていると良いな」


 タイガは優しい表情でクインを見詰めた。

 そこにあったのはどんな感情なのかタイガ自身にも分からなかったが、その視線を受け止めたクインは好意を感じ頬を染める。

 そして、自分の羞恥を隠す様に話題を転換した。


「その、なんだ……タイガにはやはり金獅子族の代表になって貰わねば困る」

「え? そうなの?」

「ああ、闘士達の仇である首刈巨猿の王級種を倒したのだ。それに一連の事件に関与してしまったのだ。最後まで付き合って貰わねば」

「はは、なんだか無理矢理だな」

「駄目だろうか?」

「いや、金獅子族の皆が賛成するなら、構わないよ。他の雷神流闘法の使い手と戦ってみたいからね。それに、その武闘大会に出場する事が俺の試練かもしれない」

「そうか、試練の泉から来たのだったな」

「ああ。さあ、お喋りはこの辺までにして、そろそろ鍛錬を始めよう」


 そう言い、自らの鍛練とクインへの指導を始めたタイガ。

 最中、クインの兄が消えた洞窟に案内して貰う約束も取り付けていた。


「上手く書けるか分からないけど、その魔方陣も書き写しておいた方が良いと思ってね」

「なるほど。だが、あの魔方陣は近隣の魔法に詳しい者が調べたが詳しくは分からなかったそうだ。なにせコノメ大森林に住む者は獣人が殆どだからな。魔法に詳しいと言ってもたかが知れている」

「そうか」

「タイガに伝手はあるのか? それと魔方陣は発動しない様に一部を削ってしまったのだが、大丈夫だろうか?」

「伝手はあるけど、会えるかどうか。となると調べられても先の話になるな。ただ、魔方陣が削られていても一部が残っていれば分かる情報もあるらしいから書き写す意味はある」

「理解した。では朝食が済んだら早速案内しよう」

「ありがとう」


 食事の最中、クインはタイガと共に洞窟に行く事になった事を父である族長に報告する。


「うむ、わかった。逢引か?」


 食べている汁物を吹き出すクイン、それを見て大笑いをするクインの弟のフィンと族長。


「逢引の様なものです」

「タタタ、タイガまで何を言うのだぁ」


 顔を真っ赤にして林檎の様になったクインを尻目に、タイガは族長となにやらこそこそと話していた。


 そんな一幕はあったものの、朝食後に洞窟に向かった二人は昼前には何事も無く到着した。

 洞窟の入り口があった場所には巨岩が積み重なっており、人一人が通れる程度の隙間が開いている。

 洞窟内の調査の為に作られた隙間だ。

 ウィルにより洞窟の封印を頼まれていた事を伝えたクインだったが、幾つかの理由で開けたままにしておこうと有力者たちが決めたので、そのままだ。

 その隙間からタイガとクインは洞窟内に侵入した。

 中は暗いが純血獣人であるクインは勿論の事、混血獣人であるタイガも夜目はきく。

 足早に道を進む二人は、程無くして魔方陣の場所に辿り着いた。

 タイガは魔方陣を書き写したが、削られている部分はどこなのか分からなかった。


「クイン、この魔方陣はどこが削られているんだ?」

「すまない。正直、どこだか分からない。前に来た時はもっと削られていたはずだ」

「そりゃあ不吉だな」

「罠か?」

「ほら、おいでなすった」


 洞窟内に無かったはずの気配が突然数体現れた事を感じたタイガは、出口に向かって走り出す。


「無事に逃がしてくれると良いんだけどな」


 タイガの呟いた願いは叶えられなかった。

 隙間は何かに塞がれ、差し込んでいた陽の光は消えていた。


「やっぱりか、そんな事だろうと思ってたよ。クイン、敵が来たら死なない程度に相手をしておいてくれ」

「引き受けた」


 クインは魔方陣のあった方を見詰め臨戦態勢、一方のタイガは闘気を練り大技の準備に入る。

 だが、敵はなかなか襲ってはこなかった。

 その事にクインは不自然さを感じていた。

 だが、その違和感はタイガの大技の凄まじい衝撃によって消し去られてしまった。

 タイガが爆発的に闘気を発したとクインが感じた瞬間には雷が落ちた時の様な轟音が鳴り響き、巨岩の一部が抉り取られ、陽の光が差し込んできていた。


「まさか雷音技なのか?」


 雷音技、別名は雷鳴技とも言われる雷神流闘法帝級奥義技の一つで雷神流闘法の使い手、取り分けコノメ大森林の獅子族獣人には強い憧れを持つ者が多い。

 その理由として、派手な音と威力により一度見たら忘れられないというものが有力だ。

 それと、これはあくまでも一説に過ぎないが、雷音技と聞いた訪問者により雷音という響きは獅子を表すと聞いて元々雷神流闘法を学んでいたコノメ大森林全ての獅子族が強い憧れを持つようになったとも言われている。

 ましてやクインは「兄と同じ位の才能がある」と言われ続けたのに、兄と違い雷音技を会得出来ていなかったのだから、その技とその技を使うタイガにより強く惹かれた。


「取り敢えず外に出よう」


 そう言われ、見惚れていたクインは気を持ち直し、タイガと共に新たに出来た隙間から外に出る。

 外に出て周囲の気配を探ったが引っ掛かるものは無く、隙間を埋めたのは人ではなく自動的な罠だったのだろうと当たりを付け、ここは安全だと見切りをつけた。

 その後、今度は洞窟内の気配を探っていたタイガは、現れた数体の気配が二つの勢力に分かれ争っているのを感じた。

 気配が複数消えると新たに気配が現れ、残った気配と争っている。


「やれやれ、こいつは厄介だ」

「どうした?」

「恐らく、開けた場所にあった魔方陣とは別の魔方陣が二つ有り、この洞窟に誰かが入ったらそれらが起動する仕組みだったんだろう」

「それは分かるが、どうして厄介なのだ?」

「二つの魔方陣から別種の魔物なり魔獣なり敵対種が数体現れる。だが敵対種は洞窟への侵入者が逃げて居なくなっていた場合、互いに殺し合う。どちらかが死ねば開けた場所にある魔方陣の効果によって新たに強化された敵対種が召喚される。そして生き残った方と殺し合い、どちらかが死ねば更に強い敵対種を召喚してしまう」

「このままだと際限なく強い敵対種が召喚されてしまうという事ではないか」

「そうならないように手を打ちに行く」


 タイガはクインに洞窟の外で待機しておくように言うと、自身は再度隙間から洞窟内に入り、魔方陣のある開けた場所まで歩みを進めていく。

 途中、数体の敵対種が再度現れる気配があったりもしたが、タイガが開けた場所に着く頃には敵対種の数はかなり減っていた。

 そこには体長二メートル程の四つ手熊二頭と、それより一回りは小さいがそれでも巨大な雀蜂に似た蜂二匹が争っている。

 この蜂はまんま巨大蜂と呼ばれる蜂で、その針には毒が有るだけでなく刺した後に直ぐ生えてくるので何度でも刺す事が出来るうえ顎の噛み砕く力も強く、その攻撃は厄介だ。

 そのうえ飛行種なので、敵対する側は厄介このうえないだろう。

 四つ手熊は巨大蜂に苦戦していた。


「面白そうな対決だから見物したい所だけど、そうもいかないか」


 タイガは気配を消していたので決着がつくまで見物するのも可能だったが、時間を掛け過ぎるとクインが心配するだろうと思い、早々に決めてしまう事にした。

 ここに来るまでに拾っていた手頃な大きさの石に闘気を纏わせたタイガは、その石を器用にも四つ同時に投げた。

 互いを警戒していた熊と蜂は、その石にあっさりと当たり、簡単に絶命する。


「さあ、何が来るかな?」


 タイガは魔方陣に注目する。

 紅く光る魔方陣は光の渦を生み、やがてそれは収束する。

 そして、そこには新たな魔物が現れた。


「まあそうだよな」


 タイガは自嘲した。

 同時に倒した事により()()()でも召喚されないかと期待したタイガだったが、現れたのは二体の首狩巨猿である。


「でも二体だし、少しは楽しませてくれかな?」


 二体の首狩巨猿が同時に咆哮し、タイガに向かって距離を詰める。

 タイガは悠然とそれを見ていた。


「やっぱり、かなり遅いな」


 そう言いながらタイガは首狩巨猿二体の野生溢れる型に嵌まらない攻撃を、複数同時に躱し捌く。

 以前戦った首刈巨猿の王級種と比べると目の前の二体は明らかに格下だった。

 召喚された時の強者特有の圧力が無かったので分かっていた事とはいえ、タイガは不満げだ。


 回し蹴り一閃。


 雷神流闘法基本技の一つである回転雷脚、その威力と速さが上がる事により技名が変わり、回転雷王脚という王級技になっている蹴りで首刈巨猿の首はあっさりと刈られた。

 余談だが、雷脚の技のランクは王級の上に帝級そして神級があり、技名も雷王脚から雷帝脚、そして雷神脚となる。


「そして次に現れるのが?」


 首刈巨猿を贄に魔方陣から出現したのは、タイガの予想通り緑巨竜だった。

 だが、次に予想外の事が起こる。

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