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№07 鍛錬、懇願、告白

 宴の翌日。

 早朝に起きたタイガは、泊めて貰った村長宅の裏庭で、日課である雷神流闘法の型をゆっくりとした動作で行っていた。

 それは戦闘の型ではなく、己の闘気を高める為の型であり、ゆっくりとやる事に意味があるのだが、早く闘気を高めたいと思う者ほど焦って早い動作でやってしまうものだった。


「やあ、おはよう。見事なものだな」


 タイガに声を掛けたのはクインだ。

 タイガが型を行っている最中は、その動きから少しでも学ぶ事が出来ればとジッと見詰めていたが、動きが止まり一呼吸着いたので声を掛けた。


「おはよう、そしてありがとう。早起きだな。もしかして、起こしちゃったかな?」

「いや、普段なら私もここで鍛錬をしている時間だ。だが、先客が居たので見物させて貰った」

「それはすまなかったな」

「いや、いい。良い物を見せて貰ったからな。闘気修練の型はゆっくりとした動作でやる方が良いという知識はあるが、それでも早くやってしまいがちだ。タイガ殿は相当にゆっくりな上に一連の動きに淀みが無く、見事としか言いようが無い」

「タイガ殿かあ」

「ん?」

「タイガで良いよ。俺もクインって呼ぶからさ」

「そ、そうか」


 そのまま名前だけを呼ぶのは身内しかいないクインは、宴での父の言葉を思い出し顔を紅潮させる。

 タイガを身内になるかもしれない男、つまり婿として意識してしまったのだ。

 だが、なんとか恥ずかしさを取り払い、意を決した表情をすると彼女はタイガに向かって深々と頭を下げる。


「タイガ殿、いやタイガ。頼む、私を強くしてくれないか?」

「それは指導してくれって事か?」

「やはり無理だろうか?」


 誕生世界では強さに関して秘匿する傾向が強い。

 クインは、タイガが例え同門ともいえる同じ雷神流闘法の使い手であっても、強くなる為の方法を簡単には教えては貰えないだろうと思っていたし、教えを乞う為なら大抵の事はするつもりであった。

 だが、その予想と覚悟は不要であった。


「そんな事はないよ。師匠にも教えを乞う者が居たら教えられる事は全て教えろって言われてるからね」

「強さの理由を秘匿しないとは、随分と変わった御方なのだな」

「師匠は自分の師匠の事を強く尊敬していて、その教えにも大きな誇りを持っているんだけど、雷神流闘法の使い手達になかなか受け入れられなかったらしくてね」

「もしかして昨日タイガとした互いの技を真似し合う行為も教えの一つか?」

「ああ」

「なるほど、確かにあんな雷神流闘法の鍛錬の仕方は聞いた事がないな。やってみたら意味が分かるが遊戯の様に感じる使い手が殆どだろう」

「そうらしいな。そんな感じで受け入れられないから、受け入れる者には指導を惜しむなと言われているんだ」

「そうか、そういう事なら頼み易い。是非とも頼む。私は兄の為にも強くなり今度の武闘大会で勝ち抜かねばならないのだ」

「お兄さんて、もしかして」

「ああ、行方不明になった兄だ。武闘大会を二連覇していた兄は、次の大会も優勝候補だった」

「だけど、行方不明になった?」

「ああ、私を助ける為だ。あの時の私は兄の足手纏いでしかなかった――――」


 クインは兄が行方不明になった時の事をタイガに話し始める。


 数ヶ月前の事、金獅子族の村に何時の間にか現れた大量の首刈巨猿達が攻め込んできた。

 コノメ大森林北部に生息する首刈巨猿が南部にある金獅子族の村にどうしてわざわざ攻め込んだのか不思議だったが、攻め込んできているのは夢ではなく事実だ。

 金獅子族の闘える者達は雷神流闘法独特の装身具に身を包む間も無く身一つで首刈巨猿を迎撃し始め、雷神流闘法を使えない者、あるいは未熟な者は村長宅に逃げ込む。

 勿論クインは戦った。

 

 奇襲によって闘士達に犠牲者は出たが、大量の首刈巨猿を追い払った金獅子族。

 暫くして落ち着きを取り戻すと、首刈巨猿がどうしてこんな所まで来たのだろうと話題になる。

 何か理由があるのかもしれないと周囲の調査を開始する事になった。

 クインは当時、闘士団で最強ではなかったが上位の使い手であった為に、団長である兄と他数名の選抜者と共に調査に乗り出した。


 生き残りの首刈巨猿が居る可能性も加味して全員が完全武装、雷神流闘法独特の装身具を身に付けて調査を開始したクイン達は、生き残っていた首刈巨猿を発見すると後を追った。

 暫く尾行すると首刈巨猿は山の中腹にある洞窟に入っていったので、警戒しながらも後を追うクイン達。

 中は暗かったがクイン達は夜目がきくので、これといった苦労はせずに首刈巨猿を追う事が出来た。


 少し歩くとかなり開けた場所があり、そこには魔方陣が描かれていた。

 首刈巨猿が魔方陣を使うなど聞いた事の無かったクイン達は驚愕するも、この魔方陣が首刈巨猿を召喚するのなら破壊しなければならないと決意する。


 幸い、魔方陣の近くには首刈巨猿は四体しか居ない。

 金獅子族の人数は十名に満たないとはいえ、選抜された強者が完全武装している。

 四体しか居ない首刈巨猿なら問題無い。

 あっさりと首刈巨猿を殲滅したクイン達は、魔方陣を調べようとする。

 すると首刈巨猿の血が発動を促したのか魔方陣が紅く光り、その光は渦の様に強く早く回転するとクイン達を弾き飛ばす。

 だがさすが精鋭達、弾き飛ばされながらも直ぐに体勢を立て直すと、警戒しながら紅い光を見詰める。

 やがて光が消え、魔方陣の上に現れたのは――――


「巨竜だと!?」


 叫んだのは誰だったろうか? だが、叫ぶのも当然かもしれない。

 竜、その戦闘力の高さは下級種の竜であれ一般人種を凌駕すると言われている。

 それでも、戦闘のエキスパートのクイン達であれば下級種の竜であれば敵ではないだろう。

 だが、目の前に居るのは下級種ではなく、中級種の緑巨竜。

 上級、あるいはその上の特級や王級、帝級の竜とは違い魔法は使えない。

 だが、二本足で立つその身長は四メートルを超え、尻尾を合わせた全長は七メートル以上になる。

 その巨体はそれだけで脅威であり、他の中級種の怪物とは格が違う。

 しかも一体ではなく二体。

 クイン達は犠牲者が出る事を覚悟したが、魔法を使わない分ギリギリ勝てる相手だとも思い、戦った。

 それに、開けた場所とはいえ洞窟内で戦った場合、緑巨竜が二体も居ては大きな身体を生かした戦い方が出来ない。

 外に出て村まで逃げてから迎撃するよりも、ここで戦闘を始める方が自分達が有利に進める事が出来るだろうという見立てもあった。

 そして、その見立ては大正解だった。

 緑巨竜は互いに動きの邪魔をし合い大きく隙を見せ、その隙を見逃す闘士達ではなかった。

 結果、犠牲者どころか軽傷の者すら出さずに緑巨竜二体を倒した。

 劇的な勝利と言えたし、その幸運に皆が喜びの声を上げる。

 だが、その喜びの声は沈黙させられる。

 敵の出現が終わっていなかったからだ。

 魔方陣がまた紅く輝いた。


「これじゃあ、きりが無い」


 戦闘に慣れている闘士達といえど、疲れない訳ではない。

 ましてや命のやり取りを繰り返し、倒しても倒しても敵が現れるのだから絶望感に苛まれもする。


「かなり大きい、だが」

「ああ、だが首刈巨猿だ」

「いける」

「ああ、いけるな」


 その闘士達の声は、現われた敵に対する安堵の気持ちから出た言葉だった。

 通常の首刈巨猿より一回り以上に大きいとはいえ、冒険者ギルドの定める危険等級でいえば上級の敵でしかない首刈巨猿、しかもそれが一体なのだから、侮るのも無理はない。

 さっきは危険等級が上級の一つ上の特級である巨竜を二体も倒している事も数人の闘士に慢心を産んだ。


「侮るな!」


 クインの兄、そして団長であり闘士団最強の闘士あるウィルの声が響く。

 だか、劇的な勝利の後の高揚感が残っていた一人の獣人が、新たに一体だけ現れた首刈巨猿に近付いていく。


「団長、大丈夫ですよ。こんな相手、俺一人で、おっと」


 近付いていったお調子者に首刈巨猿から挨拶代わりの一撃が繰り出されるも、さすがお調子者とはいえ金獅子族闘士団の選抜者、条件反射的に左腕で防御する。

 普通の人種であれば防御も出来ずに吹き飛ばされる首刈巨猿の攻撃も、このお調子者の闘士には通用しない。

 だが、それは普通の首刈巨猿の攻撃ならばだ。

 今、この場に居る首刈巨猿は普通の首刈巨猿ではなかった。


「ぐっ」


 お調子者は呻き声と共に殴り飛ばされ、壁に激突し動かなくなった。


「みんな獣化段階を上げろ! こいつは王級種だ!」


 ウィルが叫び、逸早く獣化段階を三段階目まで引き上げる。

 だが間に合わない闘士達も居た。

 そして、その闘士達は首刈巨猿の一撃で命を散らす。

 僅か数秒の間にお調子者の闘士を含め四人の闘士が死に、クイン達の人数は一気に半数になってしまった。

 王級種とは、その種族の一団を率いる事が出来るだけの強力な力を持つ個体で、一体でもそれ以下の一般種の数倍の脅威があるとされている。


「臆するな! 我等は金獅子族闘士団の精鋭! 例え王級種と言えど、勝てぬ相手ではない!」


 クインはそう言葉を発し、生き残った二人の闘志を鼓舞する。

 二人の闘士がクインの鼓舞に応える様に咆哮をあげると、それに対抗する様に首刈巨猿の王種も咆哮をあげる。

 昂ぶるクインと二人の闘士だが、そこに水を差す者が居た。

 団長であるウィルだ。


「ここで戦っては駄目だ! 確かに王級種と言えども勝てぬ相手では無い。だが、たとえ勝っても魔方陣から次の敵が来てしまう。魔方陣から離れて戦うんだ。引くぞ!」


 ウィルの言葉にクイン達は頷き、入って来た道に向かって走り出す。

 だが首刈巨猿の王級種は、逃げるのを許さないかの様にクイン達を追い掛け、攻撃を仕掛ける。

 背後からの攻撃を受けて闘士の一人があっさりと命を散らした。

 このままでは不味いと首刈巨猿の王級種の前に立ちはだかったのはウィルだ。


「俺がここでこいつを引き留める! お前達は村に戻ってここを封印する様に伝えるんだ」

「そんな! 兄さん! 一人では無理だ!」

「完全獣人化すれば一人でもやれる。クイン! 頼む、言う事を聞いてくれ」


 クリスはそれでも逡巡したが、自分が残ったところで兄と比べたら力不足である事は明白だった。

 獅子八部族による筆頭を決める雷神流闘法の武闘大会を連覇し、天才の名をほしいままにしている兄と比べて自分は金獅子族の代表になれるかどうか、その差は歴然だ。

 クインは自分の力不足を恨みながら了承する。


「……わかった。兄さん、死なないで」

「最初からそのつもりは無いさ」


 そう言うとウィルは獣人の四段階目、身体の全てが獣人化する完全なる獣人になった。

 戦闘感覚は研ぎ澄まされ、筋力や敏捷性が上がり、その戦闘力は一段階目の獣人化の数倍になる。

 ただし、長時間の完全獣人化は獣気の暴走を呼び獣人から完全な獣になってしまったり、完全獣人化を解くと人化してしまうなどのデメリットがある。

 だが、獣気をコントロールするのは才覚であり、ウィルはずば抜けていた。

 兄さんならきっと大丈夫と自分に言い聞かせ、クインは走り出す。


 クイン達は懸命に走っていた。

 自分達が早く村に着き助っ人を呼べば、ウィルを助けられる可能性は高くなる。

 そんな一縷の望みをかけ懸命に走っていた。

 出口が見えた。

 クイン達は希望が増し、それが力になり加速する。

 だが何かがおかしい。

 異変に気付き瞬時に後ろに跳ぶクイン。

 もう一人の闘士に注意を促すも遅かった。

 巨岩がいくつも落ちて来て入口は塞がれてしまった。

 そして、もう一人の闘士は落ちてきた巨岩に潰され、真っ赤な花を咲かせ死んだ。


「うわああぁっ!」


 クインのそれは悲鳴か叫びか。

 これから何をすればいいか分からない、クインは暫し茫然自失になってしまった。

 そんなクインの耳に獣の咆哮が聞こえ、正気に戻される。

 首刈巨猿の勝利の咆哮だと思い、まさか兄まで死んでしまったのかと、その咆哮の方を絶望の眼差しで見ると、そこには巨大な金色の獅子が居た。


「兄さんなのか? 兄さんなのだな」


 クインは光り輝く金色の獅子を見て、兄が完全獣化してしまった姿だと確信していた。

 身体中に闘気と獣気を強力に纏った金色の獅子は、咆哮をあげると入口を塞ぐ巨大な岩々に突撃した。

 すると轟音と共に巨大な岩々は揺れ、ほんの少しの隙間から光が洞窟内に届く。

 それは人一人がギリギリ通る事が出来る隙間だった。

 金色の獅子が一咆えして、その隙間から外に出るようにクインを促す。

 クインは促されるままに、その隙間に向かう。

 巨岩を登っていき隙間まで少しというところで、金色の獅子とは違うもう一匹の獣の咆哮がクインの耳に届いた。

 その咆哮の主の姿を見たクインの眼には、顔の左側面を押さえ大量に血を流しながらも戦闘意欲はまだまだ衰えていない首刈巨猿の王級種が写った。

 再度、咆哮を上げ金色の獅子に突撃を開始すべく走り出した首刈巨猿の王級種。

 金色の獅子は頭を器用に使い、クインを優しく洞窟の外へと押し出すと、首刈巨猿の王級種を迎え撃った。

 クインは後ろ髪をひかれつつも、村へ向かおうとした。

 するとまたも轟音が聞こえると巨岩が揺れ、隙間は閉じてしまった。

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