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№06 試合、講義、酒宴

 時は経ち夕方、金獅子族の村の中央広場。

 村の女性達が料理を作り始め、夜の宴の準備が始まる。

 闘士を引退した男衆や、まだ闘士ではない子供達は村の広場にある簡易闘技場の準備や調整をしている。

 闘士である若者達は手合わせに備えて準備運動をしたりしているのだが、タイガは闘技場の準備や調整の手伝いをしていた。

 もう闘士を引退した者から手合わせの前にそんな事をして大丈夫なのか問われると、タイガは愛嬌のある笑顔で「負けたらおっちゃん達の手伝いをしていて疲れてたからだ」と言えるからと答え、周囲の笑いを取っていた。

 だが、その後すぐに不敵な笑みを浮かべ「まあ、負ける事はないだろうけどね」と言い放つと、次は周囲の者から称賛される。

 四つ耳であるクインの祖母を知っている世代は四つ耳を侮らないし、まだ若い子供達は四つ耳を差別しないという村の教えを素直に身につけている。

 特に、まだ闘士にはなれない世代の代表格であるフィンがタイガを絶賛している事もあり、差別をする気配があるのは、それこそ闘士団くらいであった。

 今の闘士団の若者達はちょうどクインの祖母の力を実際に目にした事の無い世代であったし、闘士団になる事によって他部族との交流するようになった事により四つ耳蔑視の影響を受けていたりするので、それも仕方のない事であるかもしれない。


「それではこれより、タイガ殿と金獅子族闘士団との手合わせを開始する」


 出来上がった闘技場の上で軽く柔軟体操をするタイガ。

 セコンドにはタイガの希望でフィンがついている。

 フィンには手合わせをしながら指導もする予定だと言い放ち、闘士団からは怒りをそれ以外の人々からは称賛を得ていた。


「始め!」


 族長の合図により、手合わせが始まる。

 一人目の若者は先程のタイガの殺気は見せかけと見做していた。

 タイガの実力を知っている者からすれば、どうすればそんな結論が出るのか甚だ疑問ではあるが、四つ耳に対する侮りがそうさせていた。

 そして、その侮りが若者に愚行を冒させた。

 タイガに向かって若者は言った。


「始めは俺からは手を出さない。先に貴様の技を見てやろう」


 この手合わせが始まる前に、族長は若者達の安全を考慮して闘気を纏っての攻撃を禁止とした。

 だからこその台詞でもあるだろう。

 だが、その台詞は逆に若者が恥をかく結果を招く事になった。


「フィン、よく見といてくれよ。闘気を使わなくても人を倒すのは簡単だ」


 タイガが軽めに下段蹴りを繰り出すと相手の若者は条件反射的に脚でガードした。

 思っていた以上に早い蹴り足の速度に衝撃を覚悟した若者だが、それが訪れない事を不審に思った瞬間には意識を失わされていた。

 一秒にも満たない攻防の後、操り人形の糸が切れた様に倒れる若者。

 審判の勝負ありの言葉が響き、救護の者達が若者に駆けよる。


「今のはなんで、ああなったか分かる?」


 タイガの問い掛けに首を横に振るフィン。

 一連の動作は目で追えていたが、なぜ若者がタイガの下段蹴りから軌道を修正した上段蹴りの一撃を無防備で受けてしまったのか分からなかった。


「今から同じ事をフィンにするよ? 勿論、当てないけどね」


 そう言うとタイガはゆっくり下段蹴りをフィンに仕掛ける。

 条件反射で防御するフィンは自身の視界から消えたタイガの足に気付き、からくりにも気付いた。

 その時には、タイガの足刀がフィンの頬に触れていた。


「死角を利用したんだね。さすがタイガ兄ちゃん」

「仕組みを直ぐに分かるフィンも凄いぞ」


 そう言ってフィンの頭を撫でるタイガ。

 二人して笑顔だ。

 タイガとフィンが談笑しているのが気に入らない闘士団の若者の一人が次にタイガに挑むも、違う技ではあるが、またも一撃で倒される。

 挙句、その理由や仕組みをフィンに説明するタイガ。


 年齢の関係でまだ闘士団に加入出来ない少年少女達が、次第にフィンの周りに集まってきていた。

 タイガからフィンへの授業を自分達も聞く為だ。

 それを見た若者達の自尊心は傷付けられ、憤怒の表情を浮かべながら次々とタイガに挑む。

 だが、その度に一撃、あるいは複数の動作による一つの技である一連撃で倒されてしまう。

 いつしか、タイガに手合せを求めに族長の家に直談判に来た闘士団の若者達は全て倒されていた。

 闘士団で残ったのは、直談判をしに行かなかった若者や女性陣だけである。

 そんな彼等もタイガの実力は推して知るべしと言ったところであろうか、挑戦しようとする者はいなかった。


「タイガ殿、私とも手合わせしてくれないか?」


 だが、ただ一人タイガの前に立ち、手合せを願う者が居た。

 金獅子族闘士団、現最強闘士のクインである。

 クインはタイガの見事な技に感嘆し、自身も経験してみたいと思った。

 彼と私の差は如何ほどのものか? クインは自身の力を試したくもあった。


「勿論」

「では参る」


 クインは軽くステップを踏むとタイガに対して下段蹴りを繰り出す。

 その事に少なからず驚く村人が居る。

 雷神流闘法において、先に手を出すのは格下のする事であると一部には信じられているからだ。


 下段蹴りは鋭いものではあったがタイガは慌てずに足を上げ防御態勢に入る。

 するとクインの下段蹴りの軌道が変化し上段蹴りに移行、タイガの死角から頭を狙う。

 タイガが最初の対戦相手にした事を、そのまま模倣した。

 だがクインの足刀はタイガの手に防御され足首を掴まれる。

 そしてタイガの下段蹴りがクインの軸足を刈りにいく。

 クインは片足で跳び、下段蹴りを避けつつ、跳んだ足を蹴り足としてタイガの頭を狙う。

 タイガは掴んでいた片足を離し、クインのトリッキーな攻撃を避ける。

 そのやり取りに村人からは大きな歓声が上がる。


 クインは、その後もタイガが闘士団の若者にやった技を同じ様に披露していく。

 そして、その全てを回避、或いは受け、返し技を放つタイガ。

 そしてそれをギリギリ回避するクイン。

 いつしか村人には酒が振舞われ、出来上がった者達がクインとタイガを煽る様に声を荒げて大きな歓声を上げていた。


「さて、次はどうする?」


 タイガが闘士団の若者を倒す為に使った技の全てを同じ様に披露し尽くしたクインは、不敵な笑みで問い掛ける。

 タイガはクインを見つめ微笑む。


「同じ様に繰り返してみて」


 そう言うとタイガはクインに下段蹴りを放つ。

 クインは防御し同じ様に下段蹴りを放ち、タイガは防御する。

 次は中段蹴りを放ち、同じ様にクインが放つのを待つ。

 同様に一つの技を繰り出したら相手が同じ技を出すのを待ち、相手と同じ様に受ける。

 そしてそれをどんどん加速させていく。

 相手と呼吸を合わせ、相手と心を通い合わせ、まるで舞踏しているかの様に見えるそれは、見ている者を惹き付ける。


「次は俺が後手に回るよ」


 タイガが攻撃をやめ、そう言うとクインは理解したのか攻撃を開始する。

 それと同じ攻撃を繰り返すタイガ。

 今度はクインがリードする闘技の舞踏が始まる。

 息を合わせ、心を通わせ、二人の親密度が上がっていく。

 クインはいつの間にか笑っている自分に気が付いた。

 楽しい、楽しくて仕方がない、こんなに楽しかったのはいつ以来だろうか? そんな事を考えたら過去の事件を思い出してしまったクインは攻撃の手を止め、タイガと間合いをとった。


「悪いがタイガ殿、楽しい時間は終わりだ。私は強くならねばならん。だから真剣に戦って貰えないだろうか?」

「わかった」


 クインはオーソドックスに構えると軽くステップを踏む。

 対するタイガも同じ様に構え、ベタ足でクインの出方を待つ。

 さっきまでの舞踏によりタイガにはクインの動きだけでなく思考も読めるようになっていた。

 対するクインはどうであろうか? 彼女自身はタイガの動きも思考も捉えたと思っていたが実際は違った。


 軽やかにクインが間合いを詰める。

 タイガが上半身を少し浮かせると、そこから繰り出されるだろう数々の技を見切り、どう来ても対処出来るように動くクイン。


 来たな! タイガが上半身を沈めると繰り出されるだろういくつかの攻撃パターンが浮かび、やがて一つの技だと分かったクインは、その技に備えた。

 だが、その技は来ない。

 不思議に思った瞬間には耳に風切り音が聞こえた。

 不味い、そう思った時には衝撃を受けクインは意識を刈り取られる。

 タイガは上体の動きでクインに技を錯覚させておき、そのうえでタイミングをずらした後に高速の上段後ろ回し蹴りを放っていた。

 タイガの思惑通りに、クインは反応が遅れ、綺麗に蹴りを喰らってしまった。


 数秒後、意識を取り戻したクインの目の前には、タイガが差し出した手がある。

 その手を取り、立ち上がるとクインは快活に笑いだす。


「ハハハ、私がこの体たらくでは金獅子族の代表はタイガ殿にやってもらしかないな。皆、そう思わないか?」

「確かにそうかも知れんな。皆の者はどうだ? タイガ殿を我等が金獅子族の代表の一人とする事に反対の者はいるか?」


 族長の言葉にカッとなって何かを言い掛ける闘士団の若者も居たが、タイガとの実力差に思い至ったのか、言葉を発するまでは至らなかった。

 タイガはというと、事の成り行きがイマイチ掴めずに置いてけぼり感を味わっていたが、何をするという訳も無く黙っていた。


「一先ず、今の話は置いておこう。それよりも宴だ。皆、よく飲み、よく食べてくれ」


 族長の言葉で宴が本格的に始められる。

 この宴のメインゲストであるタイガは、主催者である族長の隣で歓待を受けつつも、先程の話を思い返していた。

 金獅子族の代表ってなんだ? そんな事をタイガが考えていると、それに答える様に族長がその件について話し始めた。


「タイガ殿は試練の泉によって、この地に来たから知らないだろうが、ここコノメ大森林には獅子系獣人八部族の全てが揃っていてな、その獅子系獣人全ての盟主を雷神流闘法による武闘大会の優勝者がいる部族の長がやる事に決まっているのだ」

「その大会に俺が?」

「我等の代表は本来なら我が息子でクインやフィンの兄がクインと共に出場するはずだったのだが、行方不明になってしまってな……都合の良い事にタイガ殿は金獅子獣人だ。我等の代表として武闘大会に出場して貰えないか?」

「そんなのは認められん!」


 族長の言葉を不躾に否定したのは赤獅子族の族長の息子、グラントだ。

 敬語も無く族長に喰ってかかる姿に金獅子族の獣人達は殺気立つが、それに気付かないほどグラントは興奮している。


「どういう事かな? グラント殿」

「この四つ耳は余所者だ! 今度の大会に出場する資格は無い!」

「ほぅ、確か赤獅子族の代表のアシュリー殿もコノメ大森林の生まれでは無かった筈だが?」

「アシュリーは父の養子になった! 身内だ!」

「ならばタイガ殿を養子とすれば問題はあるまい? あるいはクインの婿としタイガ殿を婿養子にするのも良いのう」


 族長は豪快に笑い、クインは顔を紅潮させる。


「ぐ、四つ耳を部族の代表とするのか?」

「我が母はお主の言う四つ耳だったが、大会で三連覇を果たしたぞ? まさか、その母を侮辱するか?」


 笑っていた族長が一転、凄んで一睨みすると、興奮していたグラントも流石にたじろいだ。

 そこまでしてようやく冷静になると、居住まいを正し族長に対して深々と頭を下げる。


「申し訳ない。失礼しました」

「よい。宴で酒も入っていた事だ。それに元来我等の宴は無礼講だ」

「広いお心に感謝します」


 そう言ってまたも頭を下げ、逃げる様にその場を去った。

 グラントが去った事によりまたも宴は盛り上がり、夜が深くなるまで続いた。

※補足

 なぜ、母が四つ耳なのに族長自身は純血獣人かというと、この世界では獣人以外の血が四分の一以下だった場合、子をなす相手が純血獣人であったなら、産まれて来る子供は純血獣人になる為です。

 ファンタジー設定と言う事でご容赦下さい。

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