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№10 紹介、宴会、報告

 ハッシュ、アネタと合流したタイガは、二人にクインを紹介すると出会いの経緯等を話した。

 その後は逆にクインにハッシュやアネタの事を紹介する。

 一通り終えたところで、タイガは良い機会と思い、魔法に精通しているハッシュに魔方陣を見て貰う事にした。

 洞窟の前に居るのだし、現物を見ようと四人は中に入り、暫く歩くと敵の気配を察知した。


「いつもより敵の気配が多いな。四人で入ったからだろうな。ここはハッシュに魔方陣をよく理解して貰う為に敵の殲滅は俺が一人でやろう」

「ん、アネタやる」

「そうか? じゃあ、頼むよ」

「こ、こんな可愛らしい子に敵と戦わせるのか?」

「そう慌てなくても大丈夫だよクイン。アネタはクインと同じ位には強いよ」

「なんだと? こんなに可愛らしい子が?」

「ん、アネタ、可愛くて強い」

「アネタちゃん、それ自分で言っちゃ駄目なやつだからっ!」

「黙れハゲ。お前が突っ込むと話が長くなる」

「なっ!? ハゲてないわっ! むしろフサフサ過ぎて雨の日に爆発するから逆に悩みだわっ!」

「黙れハゲ。長い」

「アネタちゃんまで酷いよっ! なにこの扱いっ!?」

「わ、私はハッシュ殿にそのような事は言わぬ」

「むしろ、言ってくれよっ! 天丼だよ天丼。笑いの神様が降りてこないよ」

「て、天丼? よくわからないが、そうなのか? それは失礼した。では、黙れハゲッシュ殿」

「もう遅いからっ! ってか、むしろ酷くなってるからっ! ハゲッシュってなんだよっ!?」

「黙れハゲッシュ」「ん、黙れハゲッシュ」「だ、黙れハゲッシュ殿」

「今は天丼いらないからっ! 神様、この扱いに泣いても良いですか? いじめ、これいじめだよ。いじめいくない」


 そんな悪ふざけをしている四人に襲い掛かる敵対種が二種十六体。


「えぃっ」


 掛け声と共にアネタが十六本の白い羽根を敵に向かって飛ばす。

 羽根が当たると、敵は動きを止めバタバタと倒れていく。


「なっ!?」


 アネタの隣に居たクインは驚愕の声を思わずあげていた。

 ずっと見ていた訳ではないが、アネタがどうやって羽根を取りだし、どうやって飛ばしたのか分からなかったのだ。


「ん、殺すの?」


 アネタからタイガへ物騒な一言。

 タイガが頷き肯定すると、アネタは頷き返した後に指をパチンと鳴らす。

 すると羽根がスッと消え、動きを止めていた敵がピクピクと痙攣するも、やがてまた動きを止める。

 その後、少し間を置き魔方陣が紅く光ると、ハッシュは口笛を吹き感嘆の声をあげた。


「こいつはなかなか高度な魔方陣だな。アホのタイガじゃ詳細が分からないのも無理はない」

「アホは余計だ。ハゲッシュ」

「ハゲじゃねぇからっ! むしろハゲッシュのゲの方が余計だからっ! つうか、そのネタいつまで続けるんだよっ!?」

「飽きるまで?」

「なんで、疑問形なんだよっ!?」


 そんなハッシュとタイガの戯れの最中にも、アネタは次に現れた敵をあっさり倒していた。

 今度は、クインもアネタの動きをよく見ていた。

 アネタは背中に手を回すと胴着の中に手を入れ羽根を取り出す。

 それと同時、いや正確には取り出しながら羽根を投げる感じだとクインは思った。

 そして、殲滅される敵対種。

 首刈巨猿四体と緑巨竜二体を続けて簡単に倒すと、首刈巨猿の王級種が出現した。

 首刈巨猿の王級種だが、タイガとクインでは少し前まで強さの認識が多少違っていた。

 タイガと戦った時の王級種は、クインの兄と戦った時に感じた金獅子獣人への恐怖心から本来の実力を十全には発揮していなかったからである。

 この洞窟で新たに首刈巨猿の王級種と戦ったタイガは、その強さに僅かではあるが驚いた程だ。

 だが、結局は余裕を持ってタイガが勝利した。

 では、アネタはどうであろうか?


「ん、強そう」


 そう言うとアネタは、胴着に手を入れると中に仕込んである魔法の収納袋から片手剣と円盾を取り出した。

 その姿を見てクインは疑問に思ったが、それは当然である。

 無手で戦闘する雷神流闘法では剣や盾を使う事はない。

 タイガとアネタが同門であるなら、おかしな話である。

 だがクインからしたら更におかしな話ではあるが、実はアネタだけでなくハッシュも武器を使い戦う。

 何故なら彼等は雷神流闘法に加えて、別の闘法でも戦闘するからだ。

 それは弟子の特性に合わせて指導した師匠の思惑通りの結果であり、彼等の強みでもある。


 アネタの使う雷神流闘法と別の闘法は陸神流闘法、騎士の闘法とも言われる闘法で剣と盾を使う。

 盾で相手の攻撃を防ぎ剣で反撃するという戦闘方法は単純で、相手が人種であれば余程の力の差が無ければ堅実な戦闘を行える。

 だが相手は尋常ならざる膂力を持つ首刈巨猿の王級種だ。

 果たして堅実な戦闘を行えるだろうか?


 首刈巨猿が得意とする、首を刈る様に横に薙ぐ腕の一振りがアネタを襲う。

 衝撃音の後に飛ぶ子供の頭と同程度の大きさの何かを見たクインが一瞬ギョッとするが、それはアネタの頭では無く首刈巨猿の手首から先だった。

 アネタは首刈巨猿の攻撃を円盾で受け流し、腕が流れる方向に対して剣を振るっただけだった。

 首刈巨猿は自分で剣に向かって腕を振った形になり、なまじ力が有るだけに手首から先を失くす事になった。

 だが、首刈巨猿は猛々しく咆哮すると、無事な腕だけでなく手首から先を失った腕をも使って、アネタに対し攻撃を繰り返す。

 アネタは少なからず油断があったのだろう、首刈巨猿の猛攻に思いのほか苦しめられる事になる。

 それでも、アネタが負けるという未来が訪れる事はないと、本人だけでなくタイガもハッシュも分かっていた。

 クインが一人だけ心配そうに見ていて、今にもアネタを助けに走り出しそうであり、それをタイガが押し止める。


「大丈夫、アネタには切り札があるから心配ないよ」

「切り札?」

「ああ、純血獣人の完全獣化の様な技をアネタも持っているんだ。だけど、それを出すまでも無いかな」


 タイガが視線をクインからアネタに移す。

 つられてクインも視線をアネタへ向けると、いつの間にか形勢は逆転していた。

 冷静になったアネタによって首刈巨猿の王級種は体中を切り刻まれいき、血塗れになっていく。

 多くの血を失った事で顔は真っ青になり息も絶え絶えで、程無く命の灯火を消してしまいそうな雰囲気が見て取れる。

 結果、堅実に戦えていたアネタは、クインが視線を戻して三分としない内に首刈巨猿を倒した。


「じゃあハゲッシュ、見解を教えてくれ」

「おま、そのネタまだ続けるのかよっ!? 教えん! 貴様にだけは教えん! いいか? 絶対にだ」

「俺が悪かったよハゲ。早く話せ」

「絶対に悪いと思っていないだろうがっ!? まあ良い。説明してやろう」


 ハゲは良いのか? クインはそう思ったが敢えて突っ込みはしなかった。

 ハッシュの見解は、タイガのものとそう変わるものでは無かったが、魔法に長けている分だけ確実性が高い。


「クインさんの弟ってフィン君だっけ?」

「ああ」

「フィン君と一緒に入った洞窟の魔方陣に関して言えば、この洞窟の物と同じ様に察知式の召喚魔方陣なんだけど、この洞窟にあるのが複数召喚であるのに対して、単数召喚なんだよね」

「そういや一匹しか出てこなかったな」

「そこに不自然さを感じる事は出来るけど、憶測すら立て辛いな」

「魔方陣の内容が分かっても対応策は無いって事か?」

「この洞窟から魔獣が転送されなくなった事を知れば様子を見に来る可能性もあるから待ち伏せするって策なら無くはないけど、タイガが転移魔方陣を壊して十数日が経ってるんだろ?」

「ああ」

「その間に転移魔方陣が直されたり、不審人物の気配を感じたりしていないんなら、ここはもう放棄されている可能性が高いから、待ち伏せは無駄になるだろうな」

「そうか」

「だけど、念の為に使い魔に見張らせておくよ」

「頼む」


 打つ手無しの状況に意気消沈の雰囲気になる四人。

 だが、タイガが場の空気を換えようと話を変える努力をし始めた。


「そういう事なら、ここは暫くはクインの修行場にしよう。大会までみっちり鍛えるからな」

「分かった」

「いや、ちょっと待て。大会ってなんだ?」


 ハッシュからの質問に、タイガやクインが答える。

 タイガが金獅子族の代表となる事に大いに驚くハッシュとアネタだったが、反対などはせずに面白そうだと盛り上がる。

 ひとしきり盛り上がったところで、ハッシュとアネタを金獅子族の村へ案内する事になった。


 村に到着すると、タイガの仲間というだけで歓迎を受けたハッシュ達。

 二人はタイガが見知らぬ地で受け入れられている事を喜ぶ。

 歓迎は夜には宴会になり、村中でお祭り騒ぎになる。

 宴も酣に差し掛かる頃、酔いの回った金獅子族の若者がハッシュとの手合わせを申し出た。

 多くの獣人は魔法が不得手なので、魔法に優れた者よりも格闘に優れた者を尊ぶ気質がある。

 混血ではあるがエルフであるハッシュは、背の高い者が多い獅子獣人と比べると身長が低いうえに痩身な事もあって、格闘よりも魔法に優れた者に見える。

 それ故に、ハッシュを侮った若者が手合わせを申し出たのだ。


「別に構いませんよ」


 ハッシュは気軽に応じると、ものの数秒で若者を倒してしまう。

 大いに盛り上がる村人達に、次は自分が盛り上げるとアネタが簡易闘技場に立った。

 アネタを子供と見做し、闘士団は始め誰も相手にしなかったが、闘士団にはまだ入れないが実力のある子供達が簡単に倒されるのを見て、対戦相手として名乗りを上げる。

 アネタは剣と盾は使わずに雷神流闘法のみで手合わせしていたので、闘士団相手に負けはしないが良い勝負をしている。

 そうなってくると、村人達はそれを肴に更に盛り上がり宴は続いていく。

 そんな盛り上がりをよそにタイガは、皆が居る宴会の場から少し離れた所にハッシュを連れて来ていた。


「どうした?」

「ちょっと頼みがあってな」

「頼み?」

「ああ、使い魔で調べて欲しい事が有るんだ」


 タイガがいくつかの調査依頼をすると、ハッシュは細部を質問し調整しつつ了承する。

 どうしてタイガがハッシュと二人での内緒話にしたのかというと、クインとアネタには聞かせたくない話だったからだ。

 何故なら、アネタは内密な調査に向かないが自分も協力したがるだろうから、それならば最初から話さないでおいた方が良いし、クインも似たような理由だった。

 ただし、この件に関して族長にだけは報告しておこうと考えたタイガ。

 宴会の場に戻ると機を見て、族長に話し掛け、内密の話があると耳打ちする。

 暫く経ち宴会も終わり皆が寝静まった頃、タイガは長と密談を始めた。


「赤獅子族のグラント殿が我等金獅子族に害意を持っていると言うのか?」

「はい。まだ疑惑の段階でしかないのですが」


タイガは、自分が四つ手熊を倒した事を聞いたグラントが「怪物を倒した」ではなく「怪物どもを倒した」と複数で言ったのが気になっている事を族長に説明した。


「実は洞窟内で怪物をもう一体倒したんですが、それは秘密にしていました」

「つまり、それを知っていたかもしれないグラント殿が怪しいと?」

「はい。それでハッシュに頼み、赤獅子族の村を使い魔によって見張らせようかと思っています」

「なるほど。その許可を俺に求めた訳か……出来れば勝手にやって貰った方が知らぬ存ぜぬを通せたんだが」


 そう言って族長は豪快に笑うが、直ぐに真顔に戻り宜しく頼むとタイガに頭を下げながら言った。

 族長は族長で赤獅子族に対して思うところがあるのかもしれないな、と感じつつタイガは了承する。

以降の更新はゆっくりとしたペースになりますがご容赦ください

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