第61話は、ゴンザさんの昔話。
よろしくお願いします。
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【ゴンザSIDE】
太郎殿がこの村から旅立たれたのは、産婦人科医院が出来て順調になってくらいな時だった。
この村に来てから10年が過ぎた頃だったかな。
まだ小さかった恵ちゃんやお紺ちゃんも今じゃあ、いいお年頃になったもんだ。
孫娘のレス、いや村のお姉さんといった感じじゃな。
太郎殿と何度か飲んだ時、この世界の話を聞かせてくれた。
何でも太郎殿の目的はこの世界の魂を救うことらしい。
もちろん、ワシらドワーフも含めてじゃった。
実際、太郎殿がいなかったらあと百年もすればワシらは滅んでおったかもしれん。
太郎殿と会うまで、ドワーフ族にとってモノトーンのような毎日が続いていた。
ワシの孫娘のレスが産まれたのは本当に奇跡としかいいようがなかった。
だが奇跡は続いた。
神さまからの導きで太郎殿が村に来たのだ。
暗かった村に灯った小さな……いや目も眩むような大きな灯り。
その大きな灯りは翌日には太陽のようになっていた。
動けなかった村人たちが、翌日にはイキイキと村中を走り回っていたくらいじゃからな。
その光景を思い出すだけで今でも笑ってしまう。
10年経った今でも、鮮明に覚えており時々、酒の肴としておる。
そして、今じゃあ昼間は金槌がうるさいくらいに村中に鳴り響き、夜は陽気な笑い声が酒場から聞こえてくる。
ワシの小さな頃の大好きじゃった村、そのものだ。
大好きな鍛冶仕事が出来、村の若い衆と大好きな酒を飲んで、歌ったり語り明かす。
そして家に帰れば孫に囲まれて暮らし、とても幸せじゃ。
そうそう太郎殿ともちょくちょく飲んで、二人してへべれけに酔っ払いレスや恵ちゃんに怒られたのも楽しい思い出だ。
今も酒場で飲んでいて横を見ると、10年前にはいなかったネコミミの獣人とこれまた人間が騒ぎ歌っている。
最近では、横で酔っぱらっているネコミミ族やラミアやハーピー族など森の住民もワシ達の作った道具を買いにくる。
ここに買いにくる村の外の住民も太郎殿の知り合いじゃ。
時折、ラミアの年増の美女と太郎殿の話を肴に飲んでおる。
その年増の美女から子どもを育てる児童園なるものを提案され、昨年開園した。
何でも昼間預かってくれるとのことで、5歳までの子どもは全員通っておる。
他にもネコミミ族からも学校なるもの作りたいと言われ、現在建設中だ。
どちらも太郎殿の紹介だから間違いない。
それに児童園に通っている子どもたちも楽しそうじゃしな。
太郎殿、いつかまたこの村を見に来てくだされ。
その時にまでは、この村を発展させ、これまで以上にみんなの笑顔溢れる村にしますぞ。
その際は、やはり困っている民族を招きいれ、太郎殿いやこの世界の為に少しでも役に立ってみせますぞ!
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【後日談】語り手……この村の住人。
この街には、この世界初で最大規模の産婦人科病院がある。
遠い昔、そう今では考えられないがドワーフの種族が滅亡しそうな時、あの伝説の「太郎」がこの街に産婦人科医院を世界で初めて創設したとの逸話がある。
そして、その時の村長とこの街の住民と一緒に立ち上げたとのことだ。
まだ当時は、赤ん坊の出生率が低かったのだが、産婦人科医院が出来てから出生率が飛躍的にアップしたとのことだ。
うちのカカアもこの産婦人科病院で俺に似た可愛い娘を産んだ。
そう考えると、村長と太郎さんには感謝してもしきれないな。
その後、太郎さんは旅に出たんだが、村長はその後もこの街に貢献したらしい。
消えかけていたドワーフ族の鍛冶を復活させたので中興の祖とも言われている。
何よりも武器や防具の技術を生活の向上の発展に使い、現在の生活を豊かにさせてくれている。
氷を作る道具とか、温かくする道具もその一つだ。
おかげで夏は涼しく、冬は温かく体力のすくない老人や赤ん坊にとっては無くてはならない道具になっている。
他にもハサミやピンセットなどもこの時代に出来たと聞いている。
これによって繊細な作業も出来るようになったとか……。
今じゃあ当たり前のようにある道具だが、なかった時はきっと大変だったんだろうな。
そしてその中興の祖ともいえる村長は産婦人科医院の出来上がり、孫娘の花嫁姿を見た後に大往生したらしい。
なんでも亡くなる前日にまで酒場に繰り出していたとのことで、さすがドワーフの村長いや族長と悲しむというか感嘆していたらしい。
願わくば俺も死ぬ前日まで鍛冶をして、酒飲んで大往生したいもんだ。
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