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紳士は異世界でメイドハーレムの夢をみる 作者:むらのとみのり

第一章

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騎士の誉

「クリュウ殿もよろしいか」

 上手くまとめてやったぞ、と言わんばかりの顔で、バダム翁が尋ねてくる。
 よろしくないって言ってもいいのかなあ。

「良いようですな」

 はい。

「では、決闘は一週間後の正午。双方代理を認める。自動人形クレナイの所有権をめぐっての一騎打ちである」
「よかろう、了承した!」

 ボルボルは居丈高に返事を返す。

「私も異存はない!」

 とりあえず返事だけは景気よくしておいた。
 なめられても困るからな。

 しかし、参ったなあ。
 代理って言うけど、どうするんだろ?

「こちらはフェディリウムがでる」

 人形マニアに呼ばれて前に出たのは、人形たちの中では一際壮観で、美しい娘だった。
 騎士の鎧を着ている。
 人形にもクラスってあるのかな?
 それにしても、強そうだ。

「マイロード、私が出ます」

 オルエン!

「騎士の……一騎打ちです、私が出なくて……どうしますか」

 そりゃ、そうかもしれんが。
 しかし……。

「私を信じて、お命じください」

 そうか。
 よし……まかせたぞ。

「はっ、必ずや……勝利を貴方に」



 ボルボルが去った後に、事情を説明された紅が、詫びるように言う。

「私のために、皆に迷惑がかかっているようです」
「迷惑ではないさ。トラブルは起きているが、お前のせいじゃないだろう」
「私のマスターはあなただけです。もし、敵方に引き取られることになった場合は、自爆して敵を殲滅いたします」
「おだやかじゃないな」
「魂はかならずやマスターのもとに戻りますが、この体は作り物ですから、再生いたしません。霊となってもおそばでお仕えしたいと思います」

 なんだか悲壮な話になってきたな。

「案ずるな、紅。おまえの……忠誠は、かならずや……私が……守ってみせる」
「よろしくお願いします」

 オルエンがかっこいい。
 オルエンにしてみれば、初めてできた後輩だからかな、気合が入っている。
 それにしても、お姫様を守るナイトって感じで、実に百合百合しい。
 そそるなあ。

 いや、そそってる場合じゃなかった。
 決闘って、大丈夫なんだろうか。

「オルエン、がんばってね!」

 今日も犬耳が可愛いフルンは無邪気に応援する。
 たぶん、オルエンの勝利を信じて疑わないのだろう。
 ああ、俺もそうできればいいのになあ。

「ですけど、紅はご主人様のものなのでしょう? なんだか、理不尽な気がします」

 と、今日も長耳がエレガントなアフリエールは不満顔だ。
 言いたいことはわかるけどな、正論なんて利害関係のない喧嘩でしか、役に立たないんだよ。

 それにしても、どうしてこうなった。
 勝っても負けても面倒な事になる気がするぜ。
 こういう場合、リーダーとしてはどっちに転んでも大丈夫なように手を打つのが先決なんだが、結局、こうなると俺にできることってないんだよな。
 ああ、不甲斐ない……。



 心配しながら悶々と過ごすうちに、あっというまに試合の当日。
 舞台は先日の競馬場こと、モストール・ロド・サビオラ皇太子の記念公園だ。
 名前はすぐに忘れそうだ。

 会場にはなぜか、すごくたくさん客がいる。
 しかも、屋台まで出ている。
 おまけに、堂々と賭けまで行われている。
 完全にお祭り騒ぎだ。

 どうなってるんだ?
 俺は昨夜、緊張して眠れなかったというのに。
 オルエンはぐっすり眠れたようだが。

「オルエンに迷いはありません。あれならまず、大丈夫」

 と侍メイドのセスが言うので俺も覚悟を決めて送り出したが、まさかこんな見世物になっているとは。

「これはエレンが仕込んだんですよー、私も手伝いましたけどー」

 などとデュースに説明されて、驚く。
 いや、それってどうなのよ。

「何言ってんの、美しい人形をめぐっての女騎士の一騎打ちなんてビッグイベント、稼ぐしか無いでしょ!」

 エレンはさも当然とばかりに言う。
 そりゃまあ、ビッグイベントなのかもしれんが……。

「そりゃ僕はオルエンの勝利を信じてるけど、完璧ってことはないからね。いざ夜逃げするにしても、まとまった金がいるじゃないか」

 そりゃそうだ。

「盗賊ギルドを通して、どっちに転んでもがっぽり儲かるように仕込んであるから、任せといてよ」

 ま、まあ、そういうことなら……いいのか?
 いや、むしろそれぐらい、したたかじゃないとダメなのか。



 決闘のルールは、いわゆる一騎打ちだ。
 互いに馬に乗り、ランスを抱えて激突する。
 相手を馬から落とせば勝ちだ。

 舞台の真ん中に、勝者に送られる品である紅が座っている。
 こうして見ても格別の美しさだな。
 うん、あれは誰にもやれん。

 そのとなりに、俺とボルボル、立会人のバダムや顔も知らないお偉いさんなどが並んでいた。
 そして、その俺達を囲むような見物客。
 うぐぐ、なんてこった。
 これで負けたら、夜逃げもままならんぞ?
 かくなる上はオルエンを信じるしか無い。

 双方の騎士が別れて向かいあう。
 オルエンがこちらを向いて一礼した。
 俺も黙って頷き返す。



 いかん、緊張してきた。
 喉が無性に乾く。
 馬上でランスを構えるオルエンはとても頼もしいが、相手の人形騎士も、なんだか凄く強そうだ。
 オルエンは大丈夫なのか?
 勝ち負け以前に、危険はないのか?
 オルエンをあんな場所に送り出してよかったんだろうか。

 緊張し過ぎたせいか、急激に視界が狭まるのを感じる。
 周りの喧騒も聞こえなくなる。
 オルエンを信じると言っても相手の強さもわからんし、そもそも一騎打ちがどんなものかもよく知らないというのに、俺はこんなところで眺めてていいのか?

 俺はメイドさんとイチャイチャ出来るだけで十分だというのに……。
 真っ暗な闇の中で一人、俺は頭を抱えて悶々と悩む。

 ああもう、俺ってやつはこの期に及んで、なにをグダグダと。
 だれか何とか言ってくれ。

「不甲斐ない」

 そうだ、まったく不甲斐ない。

「貴様がそのような様で、どうして従者が命を預けられるのか」

 そりゃそうだ、俺が信じて応援しなくてどうする。

「すべてを捨てて従者となったからには、主人の信頼だけが命の糧となる。そんなこともわからぬようでは……」

 いや、わかってる。
 本当はわかってるんだよ、プール!



「ご主人様、そろそろ始まりますよ!」

 アンの声で、とたんに現実に引き戻される。
 あれ、俺寝てた?
 今のは夢?
 なんだったんだ?

 たしかにプールの声がした。
 俺につきまとう、あの魔物娘のプールの声が……。

「あの娘がいたんですか?」

 俺の言葉に、アンも咄嗟に周りを見回すが姿は見えない。

「いませんね。それよりも、今はオルエンを」

 そうだった。
 オルエンを見なければ。

 いまや双方がランスを構えて合図を待つばかり。
 あれほど騒がしかった会場も、静まり返っている。
 重苦しい静寂。

 審判の騎士が、旗を振ると、双方が馬を駆って飛び出す。
 凄まじいスピードだが、ランスの切っ先は微塵もブレない。
 双方の盾めがけて、まっしぐらに突き進む。

 凄まじい音を立てて、ふたつの鉄の塊がぶつかり合う。
 一瞬、オルエンがよろめいて見えるが、どちらも馬上から崩れない。

「腕をやられたようです」

 セスの言葉に、様子を見るとオルエンの盾を持つ手が下がっている。
 だが、そのまま距離を取り、二度目の突進に入る。

 がんばれ!
 頑張れオルエン!

 拳を握りしめ、心のなかで声援を送る。
 何故かそのほうが、声に出すよりも届くような気がして、俺は何度も心のなかで声援を送り続けた。

 再び轟音が鳴り響き、土煙が起こる。
 片方が落馬していた。
 決着だ。
 勝ったのはオルエンだった。

 たちまち歓声が沸き起こる。
 それに答えるように、オルエンはランスを掲げる。
 そう、俺に向かって。

 ああ、オルエンが勝ってくれた。
 あの勝利は、俺に捧げられたものだ。
 思わず胸が熱くなる。

 オルエンは最高だ、最高の俺の騎士だ。
 誰かを誇りに思うってのは、こういうことか。
 世界中にオルエンを自慢して回りたい気分だ。
 みたか、あれが俺の騎士、オルエンだ。



 俺の前に立ち、勝利を報告するオルエンは、まぶしすぎて、掛ける言葉が浮かばない。
 ただ一言、「よくやった」、とだけいうと、オルエンは満足気に頷いて、

「声が……聞こえました、マイロード。私を励ます声が」

 そうか、聞こえたか。
 さすがは俺のオルエンだ。



 決闘の後に、再びまみえたボルボルは、あっさりと負けを認めた。

「メイドでありながら、見事な騎士っぷり。主人である貴殿の器も伺えるというもの。貴殿の元であれば、あの人形も報われよう」

 あれ、案外潔いぞ?

「すべての人形の幸福こそが、我が人生の目的。貴殿の元でそれがなしえるのなら、それもまた良しと言うものであろう」

 そういうもんなのか。
 勝手に因縁つけてきて、勝手に納得されたみたいで、釈然としないが。

「道は違えど、貴殿も同じ志を持つ者と見た。遺恨は水に流し、友情を誓おうではないか!」

 なんか、勝手に友人にされてしまったぞ。
 今更、男と仲良くする気は……。

「さあ、勝利と友情の証を受け取ってくれ、心の友よ!」

 心の友ってなんかいやなフレーズだな。
 って、勝利の証って何よ?

 そう言って俺の目の前に差し出されたのは、美しいお姫様だった。

「エク・ナアススと申します。末永くお慈悲を賜らんことを」

 そう名乗った、美しい娘の首には、奴隷の首輪が光っていた。
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