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紳士は異世界でメイドハーレムの夢をみる 作者:むらのとみのり

第五章

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竜の騎士 その3

「もう、十分でしょう」

 森の奥深く、闇の中からよく響く声がしたかと思うと、たちまち木々がさっと開いて道を作る。
 その奥から、凄まじい速さでゆっくり歩いてくる魔道士の姿があった。
 緑色のコートに緑の三角帽、もしかしなくてもこれが緑のおばさんだろうか?

「しかし、この者たちは妖精を!」

 そう言って詰め寄るラケーラを緑のおばさん、いや、お姉さんぐらいかな、その彼女がいなす。

「真に悪しき者であるなら、妖精たちがそちらの騎士殿を応援したりはしないでしょう。それぐらいは、あなたにもわかっているのでは?」
「だが……」
「ラケーラ、あなたはただ、槍を交える相手を見つけて、浮かれているのでしょう」
「そ、そのようなことは」
「ですがここは少し離れすぎています。どうしてもというのであれば、続きはあとになさい。そちらの騎士殿も、よろしいかしら?」

 緑のお姉さんに問われたクメトスは、黙って頷く。
 次に緑のお姉さんはエメオが抱きかかえるパロンのところまですうっと飛んでくる。

「あぁ、パロン、このような姿になって、あなたも恋を知ってしまったのね。お相手は、そちらの殿方かしら?」

 そう言って俺に振り返る。

「もし彼女が俺を好いてくれているのなら嬉しいが、彼女ははっきりとは言ってくれなかった。その挙句に、そんな状態になってしまったのです。あなたなら彼女を治すことができるでしょうか?」

 と俺が言うと、彼女は黙って否定も肯定もせず、こう言った。

「あなたは妖精のことを、どのくらいご存知かしら?」
「なにも……、ただ一途で情熱的だ、としか」
「そうね、とても一途で……、彼女たちの思いは純粋で、単純で、とどまるところがない。それは肉体という枷がないから。純粋な思考は際限なく広がり、やがて溢れる思いは場の限界を超え、相が変わる」
「相?」
「水が蒸気に転じるように、妖精を形作る精霊の相が、赤から青へと変わる。そうなると力は発散し、瞬く間に燃え尽きてしまう。かの……銀糸の魔女のように」
「銀糸の魔女って、大昔の?」
「かの魔女は妖精でありながら愛を知り、それゆえに破滅した。このままではパロンもいずれそうなるでしょう」
「そんな……」
「取れる手段は、多くはありません。ひとまず、移動しながら話しましょう」

 俺達は緑のお姉さんに促されるままに、森の中を歩き出した。

 不思議なもので、緑のお姉さんの周りの木々は、彼女を避けるように周りに広がっていく。
 空間が歪んでいるかのようだ。

「そちらのホロアは、あなたの従者のようですね」
「ええ、そうです」
「ホロアもまた、契約によって主人の相へと転じる。一度そうなれば、主人の一部として生も死も共有するのです。いいかえれば主人が従者の存在を担保しているようなもの」

 よくわからんが、従者にすれば大丈夫ということか。

「では、俺がパロンを?」
「そうです、従者にすれば、彼女はあなたの存在する限り、あなたの一部として存在できるでしょう」
「しかし、彼女はそれを望むでしょうか?」
「望んだからこそ、このような姿になってしまったのですよ」
「だったら……、俺は彼女の望みを叶えたい」
「わかりました。では、パロンを起こしましょう。僅かの間であれば、抑えられるはずです」

 そう言って緑のお姉さんはパロンを抱きかかえて、何かの呪文を唱える。
 しばらくするとパロンの体から出ていた青い光が収まり、静かに目を開いた。

「……こ、ここは」
「パロン、気が付きましたか?」
「み、緑のおばさん! ええところに、わしゃ味噌と米がほしゅうて」
「ふふ、随分と食い意地がはっているのですね。チョコレート以外にも興味が出てきたのかしら?」
「そ、そりゃあ……」
「味噌は誰のためにほしいのかしら?」
「だ、誰って、べつにわしゃあ」
「自分のため? それとも、あちらの殿方のため?」

 そう言って俺を指し示す。

「わ、わりゃあ、なんでこんなところに! ってそもそもここはどこじゃい!」
「自分の生まれ故郷も忘れたのかしら。あなたは覚醒し、暴走し、妖精の道を通ってここまで来てしまったのよ」
「わ、わしが覚醒!? さ、さよか、わし、やっぱり……」
「好きになってしまったのね。チョコレート以外のものを」
「あんたの言うとおりじゃったわ。人の社会に混じれば大事なものが増えていく、いずれそれは自分を滅ぼすっちゅーてな」
「ええ、だから妖精は里から離れては生きていけないの」
「けどなぁ、わしゃあ最高にうまいチョコを作れたんじゃ。あいつのお陰で、わしゃあ」
「だから好きになったのかしら?」
「そないなもん、わかるかい。あんなピカピカ光る姿を毎日見とったら……。ただ、気がついたらチョコよりアイツのことばっかり考えとって、わしゃあ、何しとるんじゃって……」
「そうね、何かを好きになるのに劇的な出会いも、運命的なプロセスも必要ではないわ。ただ、好きという結果があれば、それで十分なのよ」
「わしには、ようわからん」
「では、その気持に身を任せなさい。あの人に心を任せなさい。あとのことはそれから始まるのよ……」

 そう言って緑のお姉さんはパロンを俺の前まで連れてくる。

「よう、調子はどうだ?」

 と俺が尋ねると、パロンは顔を真赤にしてこう答えた。

「な、な、なんじゃいわれ! そ、そんなキラキラした顔で見つめても、わ、わしゃなあ」
「うん」
「わ、わしは……なんで、こんな……」
「うん」
「チョコが食べとうて、里を出ただけやったのに」
「うん」
「なんやわからんけど、わし、なんでこんな気持になっとるんやろ」
「俺もよくわからないけど、そういうことは、よくあるみたいだぞ」
「ううぅ……」

 とうつむくパロン。

「……ち」
「うん?」
「血じゃ、血! 契約ちゅーんは血をかわすんじゃろが。わしの気が変わらんうちに、はよう血をよこして契約せんかい!」
「よしよし、じゃあ、これで契約だな」

 俺はいつものように指先を切り、血を与える。
 それを恐る恐る舐めたパロンは、たちまち体が赤く輝き、すぅっといつもの妖精の姿に戻った。
 戻ったはいいが、キョトンと俺の方を眺めている。

「どうした?」

 と顔を近づけると、急にまた顔を赤くしてワタワタと取り乱す。

「な、な、なんじゃい! 急に顔近づけるんちゃうわ! ど、どきどきするやんけ!」
「ははは、そりゃあ何より。遠慮はいらんので、いくらでも俺にときめいてくれ」
「や、やかましいわ! まったく、よりによって、なんでこんなこまし男に……女王様のいうとったなんちゃらの騎士とは大違いやんけ」

 そう言ってため息をつき、パロンは空を仰ぐ。

「……なんじゃ? なんで森のなかで天井が見えとるんじゃ? 女王様はどないしたんじゃ!?」

 慌てて問いただすパロンに、緑のお姉さんは優しく答える。

「あなた達の女王は、もう傘を維持するだけの力も残っていないの。今では湖の畔に小さな傘を残すだけ」
「そ、そんな……」
「だから、あなたが帰ってきてくれてよかったわ。みんなもう、お別れを済ませてあるのよ。だからあなたもお別れにいきましょう。あなた達の女王にして、偉大なる銀糸の魔女、メルクナルコに」
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