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紳士は異世界でメイドハーレムの夢をみる 作者:むらのとみのり

第五章

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ガルペイオン

 うまいチョコケーキを食べながら、みんなで談笑していると、話題は剣術大会のこととなる。

「やっぱりねー、大きい人との戦い方が気になる! リーチが倍も違うと、それだけでやっぱりすっごく不利!」

 とフルンが言うと、シルビーも頷く。
 二人共、子供だから仕方ないけど小柄だからな。
 フルンは同じグッグ族のウェルパテットを見る限り、だいぶ大きくなりそうだけど。

 体のサイズの話から、武器の大きさへと話題は移り、我が家の家宝である聖剣エンベロウブやスィーダの祖父の形見ガルペイオンの話になる。

「ねえ、スィーダのおじいちゃん、どんな風にガルペイオンを使ったの?」

 とフルンが聞くと、スィーダは目を白黒させて戸惑う。

「え、その、私、よくわからない。じいちゃんは強くて、その、えっと……」

 と困った顔でクメトスを見ると、クメトスはゆっくりと頷いて、こう言った。

「そうですね、良い頃合いかもしれません。一つあなたの祖父の使った型を、見せましょう」

 剣の型を見せると言って立ち上がったクメトス。
 長身の彼女より、さらに長い大剣ガルペイオンを手に取ると、湖のほとりまで進む。
 そのまま頭上に剣を掲げて2、3度振り回すと地面に突き立てた。

「これはフルン達が気陰流で学ぶような攻防の粋を極めた剣の型とは全く違います。元々ガモス族はグッグ族と同様、傭兵家業で身を立てるものが多かったのですが、スィーダの祖父スェードルも若い頃はそうして剣で鳴らしたと聞きます」

 そう言って改めてクメトスは剣の柄を握る。

「傭兵は騎士とは違い、雇われ者。時に使い捨てのように戦地で見捨てられることもあるものです。スェードルの剣はそうした死地においても生き残るためのもの。仲間を頼らず一人で多数の敵を相手取る、そういう剣術です」

 クメトスが両腕に力を込めると、まるで腕の太さが倍に膨らんだかのように、筋肉が盛り上がる。
 そのままガッと振りかざすと、右足を一歩、前に踏み出す。

 ドンッ!

 地響きとともに、視界が揺れる。
 クメトスが巨大な剣を軽々と振り回すと、竜巻の如き旋風が巻き起こる。

 ドンッ!

 更に一歩。
 同時に天頂方向でピタリと止まったガルペイオンが、雪崩のように唸りを上げて振り下ろされる。

 ドドーンッ!

 地面が割れたかと錯覚するほどの斬撃に、思わず腰を抜かしかける俺。
 気がつくと、スィーダは顔を真っ青にして固まっていた。
 声をかけようと体を動かすと、誰かに袖を引っ張られる。
 見るとパロンが同じく顔を真っ青にして俺にしがみついていた。
 仕方がないので動かずに、そのままじっと様子を見ることにする。

 クメトスの型、というにはあまりにもシンプルで粗野ではあるが、その剣は一振りごとに周りの空間をかき回していく。
 あれでは近づく敵はすべてミキサーに放り込まれた生肉のように、瞬く間にミンチになるだろう。
 見境なく近づくものを叩き潰す、あれはそういう剣だ。

「ふぅ……。どうです、スィーダ。これがあなたが憧れた、スェードルの剣です」

 型を終え、剣を下ろしてそう語りかけるクメトス。
 だが、スィーダは顎が外れたみたいにアガアガと呻くだけで、言葉が出てこないようだった。
 まあ、すごいインパクトだよな。

 クメトスは剣をしまい、スィーダのもとに歩み寄る。

「必ずしもこれがあなたの目指すべき剣であるかはわかりませんし、今のあなたに使えるものでもありません。ですがこれがガルペイオンを使うということです。わかりますか?」

 優しく語りかけるクメトスに、スィーダはカクカクと頷くだけだった。
 一方のパロンは、まだ俺の腕にしがみついていた。

「おう、大丈夫か」
「あ、あわわ、あわあわ」
「大丈夫じゃなさそうだな」
「や、やかましいわい。ちょっと腰が抜け……もとい、わしゃ剣とかそういうんが好かんだけじゃ」

 口では強気だが、まだ俺の腕を離そうとしない。

「ははは、まあ、お前はチョコをこねるのが一番にあってるよ」
「そ、そないなことわれに言われんでもわかっとるわい!」

 そう言って顔を真赤にしてぷいと横を向くパロン。
 可愛いところもあるじゃないか。
 ふいに視線をそらすと、少し離れたところでパン屋のエメオがこちらをジト目で眺めていた。
 何か言おうとすると、拗ねた感じで顔を背ける。
 こっちも可愛いいな。



 その夜、俺はデュースに妖精のことを聞いてみた。

「妖精というのはー、なんだかよくわからない存在ですねー」
「わからないのか」
「人と同じように生きているようでもあるしー、精霊のように自然の一部のようにも振る舞うー、天地人の間に漂うー、そういうものですねー」
「まあ、そういう一般論は置いといてだ、パロンがどこから来たかとか、そういう情報はないのか」
「妖精の里というのは人の目に触れぬ場所に隠されているものですからー、魔界の辺境や氷の山脈の果てー、はたまた深い海の底など様々な場所にあると言われていますねー」
「お前でも知らないのか」
「そうですねー、私が知っているのは小さな里が一つだけでー、南方で森をさまよっている時に迷い込んだことがありましたねー。蜂のような妖精でー、蜂蜜を集めてはあまーいお菓子を焼いていましたねー。飴玉やチョコなんかもたくさんあってー、甘いものばかりで逆に胸焼けしそうでしたけどー」
「ふぬ」
「妖精は最も古く強いものが女王として里に結界を張ってー、その中でのみ暮らすんですがー、みんな気まぐれですからたまーに里を飛び出すものがいるみたいですねー」
「ふむふむ」
「そんなわけでー、妖精自体数えるほどしか会ったことがありませんでしたしー」
「ふぬ」
「一応知っていることと言えばー、彼女たちは花の雫から生まれると言われていますねー」
「花の雫?」
「花びらに着いた朝露のひとしずくが大気の精霊を交わり妖精と化す、などとも言うのですがー、これに関しては白薔薇の騎士ことフタヒメに聞いたことがありましてー、巨大な精霊石から生まれるところを見たと言うんですねー」
「まるでホロアと同じだな」
「そうなんですよー。だとすれば妖精も我々ホロアの眷属かもしれませんねー」
「なるほど」
「あとは思い込みが激しいとかー、一途にのめり込むとかー、それはあの子を見てればわかりますねー」
「あれが妖精の標準なのか」
「あの子はちょっと振り幅が激しい気もしますけどー、まあそんなものですねー」
「なるほどね」

 役に立ちそうな情報は何もなかったが、まあデュースの話はいつもこんなもんだしな。
 俺はカカオ分多めの渋いチョコを一口かじって、甘いワインで流し込む。
 うまい。
 うまいが今の俺は豆腐にたっぷりの味噌を塗りたくった田楽なんかを食べたい気分なので、引き続きどうにか頑張るとしよう。
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