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紳士は異世界でメイドハーレムの夢をみる 作者:むらのとみのり

第五章

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魔界遊行 後編

 空を飛ぶ感覚ってこんな感じかなあ。

 馬車から弾き飛ばされ、宙を舞う間に考えていたのはそんなことだったと思うが、それも一瞬のことで、俺はお姫様を抱きしめたまま地面に叩きつけられた。
 かなりの衝撃を覚悟したが、俺達はボニョンと鈍い音を立てて地面を数回跳ね、ゴロゴロと転がった。
 多少体が痛むが、どうやら無事らしい。
 体に絡まっていた、この緑の液体のおかげか?

「あたた、どうやら、ジェミがうまく効いたようですね」

 アウリアーノは腰をさすりながら体を起こす。

「この緑のやつかい?」
「ええ、ジェミという魔物の死骸です」
「こいつが衝撃を吸収したのか」
「まあ、ひと目でお分かりになるとは。紳士様は発明にお詳しいのですね」
「そういうわけでもないが……おわっ!」

 のんびり会話を楽しむ余裕もなく、すぐに別のオグル獅子が襲いかかってくる。

「お話は後、紳士様は私の後ろを離れぬように」

 俺たちは腰の剣を抜いて構える。
 見たところ、姫は俺よりも遥かに強そうだ。

「あいにくと俺は、剣の腕はからっきしでね、足を引っ張りたくはないんだけど」
「ふふ、一目見ればわかります。ですけど、私もオグル相手にあなた一人を守れぬほど、弱くはないつもりです。ご安心を」

 そう言って、ひ弱そうに見える姫は飛びかかってきたオグルの太い首を一刀のもとに切り落とした。
 足を開いて大胆に袈裟懸けにするところなどは、見かけによらず相当ワイルドだ。
 ほとばしる血がさっきのジェミとかいう緑の体液とまじり、どす黒く広がる。

「右手の大岩の陰に移動します。ついてきて」

 彼女の指示通りに岩陰に走り込む。
 ここならしばらくはもちそうだ。
 余裕のできたところで状況を確認する。
 いつの間にかあたりは魔物や動物、それに俺たちの同行者が入り乱れていた。

「これは一体、何事なのでしょう」

 アウリアーノも訝しんでいるが、当然俺にもさっぱりわからない。

「この混乱ぶりだ、俺達を狙って襲いかかったとも思えないが」
「でしょうね、むしろ魔物たちも何かに追われて森から出てきたような……」
「というと、森に何かいると?」
「わかりません。すぐに体制を立て直し、撤収すべきです。それよりもエンディミュウム様はご無事でしょうか」
「彼女なら大丈夫だろうが……」

 と混戦状態の周りを見渡す。
 もうちょっと落ち着いた場所なら気配でわかりそうなものだが……あ、いた。
 なんとなく気配を感じて振り向いた方向に、彼女の甲冑がちらりと見えた。
 同時にこちらを振り向いて、合図を送ってきた。
 側に部下もいるようだし、大丈夫だろう。
 たぶん、一番やばいのは俺たちだ。

「エディはあそこにいたぞ、無事みたいだ。それよりも殿下は?」
「え?」
「いや、君の兄上だよ」
「あ、ああ、それでしたらあちらに」

 まるで、何故そんなことを聞くのか、と言った彼女の態度に違和感を覚えるも、状況はそれどころではなかった。
 すぐに魔物の群れが襲い掛かってくる。
 俺も足を引っ張らないように懸命に剣を振るった。

 うちの従者たちも俺のそばまで駆けつけようと頑張ってる様子がここからも見えるのだが、混乱して走り回る魔物や動物に阻まれて身動きが取れない。
 あのセスでさえ、この数の前では思うように進むことが出来ないようだ。
 そもそもタイミングが悪かった。
 みんな後方に控えていて、俺とアウリアーノだけが狩りのために突出した状態だったのだ。
 そして、俺達を分断するように魔物の群れが森から溢れ出てきたわけだ。

 そんな中、一番近くにいた赤竜11小隊のハウオウルちゃんの姿が見える。
 どうにか体制を立て直し、魔物の群れに何度か突撃していた。
 あちらが派手にアタックしているせいか、こちら側の攻撃がゆるくなってきた。
 アウリアーノも、少し余裕ができたようで、警戒しつつも物陰で少し手を休めていた。

 俺も改めて11小隊の様子をうかがう。
 ハウオウルの隣にレルルがいた。
 二人は騎乗のまま槍を振るって魔物を蹴散らしている。
 レルルもだいぶ騎士っぽくなってきたなあ。
 と感心しながら身を守っていると、突然目の前にオグル獅子が飛び込んでくる。
 あっと驚く間もないうちに、その体が真っ二つに裂けた。
 驚いて見上げると、黒い鎧に身を包んだバッツ殿下が、大斧を振るって駆けつけたのだった。
 同時に数人の部下が周りに展開する。

「紳士様、後は兄に任せて」

 アウリアーノの言うとおり、俺は岩陰に身を隠す。
 しかし、王様自ら俺を助けに来るとか、見かけの割にフレンドリーだなあ。
 それとも、やっぱり妹が気になったか。
 シスコンなのかな?
 などと罰当たりなことを考えているが、目の前で斧を振るうバッツ殿下を見ていたら、余計な雑念は吹き飛んでしまった。
 強い。
 とにかく強い。
 何が強いって、力が強い。
 兄妹だけあってアウリアーノと太刀筋は似ているようだが、こちらは実に豪快だ。
 うちのカプルも戦闘ではワイルドに斧を振るうが、殿下はまるで武術を身に着けた熊か何かのようだ。
 巨大な斧を、うちわのように軽々と振るうと、刃が触れた魔物はちぎれ飛び、そうでない魔物も風圧で吹き飛ぶ。
 剣技とかが無意味に思える程の、圧倒的パワーだ。
 正直、人間とは思えないレベルだ。
 あまりのパワーに、魔物たちも本能的に怯えたのか、徐々に距離を取り始める。
 それでも、新たに森から溢れ出した魔物はパニック状態のまま、こちらに突っ込んでくる。
 やっぱり、なにかおかしいよな。
 森の中に何か原因があるのか。
 やばい魔物が迫ってるとか。
 何が来るんだ?
 ヤバさに定評のあるアヌマールだろうか。
 前にこの近くで戦ったわけだし、その仲間がいてもおかしくはないが……。

「紳士様、何かが森から」

 アウリアーノのセリフに森を見ると、森の奥で何か凄い力が溢れるのを感じた。

「何だありゃ」

 と間の抜けたつぶやきを発した途端、森の中から一本の水柱が立った。
 いや、水じゃない。
 青白い光を発するあれは、竜だ!

「青竜! まさか、この森に潜んでいたとは!」

 アウリアーノはそう叫ぶ。
 青竜ってことは、以前俺たちを襲ったあの竜か。
 ガーディアンと戦って何処かに逃げたと言っていたが、森のなかに潜んでいたわけか。

「危ない!」

 再びアウリアーノが叫ぶ。
 と同時に青竜のブレスが俺たちを襲った。
 俺はとっさにアウリアーノを押し倒すが、同時に誰かが俺の体に覆いかぶさった。
 次の瞬間、凄まじい衝撃が襲いかかる。
 冷たいと思ったのは一瞬で、あとは激しい衝撃で体がちぎれ飛ぶかと思った。

 10秒ほどだったろうか。
 ブレスの衝撃が収まり、顔をあげると、目の前にバッツ殿下の厳しい顔、というか甲冑のマスクがあった。

「こ、こりゃどうも、助かり……え?」

 殿下の首がグラっと傾いたかと思うと、そのままポロリともげて地面を転がった。

「ぎゃーっ!」

 俺の叫び声に顔を上げたアウリアーノは、

「いけない、首が!」

 と、慌てて転がった首を拾い上げる。

「どうもこの首は座りが悪くて……」

 そうつぶやいてから、俺と目が会う。

「あわわ……いえ、これは、その、ち、違うんです!」
「え、違うって何が」
「いえ、ですから、その、えっと」

 動揺する彼女を横目に、もげた首を見ると、中には何やら細々としたパーツが詰まってる。
 これ、ロボットか?

「紳士様、避けて!」

 アウリアーノに手を引っ張られて身をかがめると、俺の直ぐ側を魔物が掠めて行った。

「あとは私が!」

 そう言ってアウリアーノは剣を握り直して飛び出していく。
 えーと、つまりなんだ、殿下はロボットっていうか人形だったのか?
 ちゃんと魂の入った人形だったのだろうか。
 それにしてはアウリアーノの人形に対する扱いがぞんざいすぎる気もするが。
 まあいい、考えるのはあとにして、今は身を守ろう。
 いくらこのお姫さんが強くても、この混乱ではどうなるかわからん。
 殿下についてきた部下も頑張ってるが、数が足りない。
 とにかく、もう少し数が来てくれないと……と周りを見回したら、クロがぴょーんと目の前の魔物を飛び越えて飛んできた。

「ハロー、ボス。頼モシイ助ッ人参上!」

 クロは着地と同時にバリバリと火花を発して周りの魔物を弾き飛ばす。
 クロのバリアは強力で、群がる敵の一群をあらかた押しのけてくれた。
 そうして出来た魔物集団の隙をついて、ハウオウル率いる11小隊が突貫する。
 見事、魔物の分断に成功し、俺達はまとまった部隊にやっと保護された。

「おまたせしたであります、ご主人様!」

 レルルも必死の形相で駆けつけてくれた。

「よく来てくれた!」

 と労う。
 俺とどっこいレベルのレルルでも、こうして駆けつけてくれると頼もしい。

「ハウオウル卿、あなたの武勇に感謝いたします」

 とアウリアーノは一国の姫君らしく、礼を述べる。
 俺もハウオウルちゃんに礼を述べてから、アウリアーノに話しかける。

「それで、この殿下はどうするんだ?」
「困りました、ひとまず繋ぐだけ繋がなければ。先の青竜との戦でちぎれてから、どうもモゲやすくなってしまって」

 というアウリアーノは言葉ほど困っているようには見えない。

「聞いていいのかわからんが、この殿下は本物なのかい?」
「ええ、殿下はその人形、一体きりですよ」
「じゃあ、君のお兄さんは人形なのかい?」
「いいえ、私……一人っ子ですの」
「ははあ。じゃあ、これは文字通り、ただの人形だったのか」
「そうです、私のマリオネッタの術で操っていました。国家機密ですから、バラされては困りますよ」

 そう言って、いたずらっぽく笑う。

「肝に銘じておこう」
「それよりも紳士様、お連れのその子は、もしやガーディアンなのでは」
「ああ、クロのことか。こいつも俺の従者でね」
「まさか、ガーディアンを従えておいでだったとは……」

 とアウリアーノの俺を見る目の色が変わる。
 なんというか、欲望むき出しの目だ。
 なんかこの子は、一癖も二癖もあるなあ。

「ボス、ミドルレンジ攻撃ガクルゾ、身ヲ隠セ」
「なに!?」

 クロの言葉に見上げると、空を舞う青竜が、バリバリと力をためている。
 あいつのブレスはやばい。
 さっきよりもだいぶ距離が近いし、何よりこっちをむいている。

「クロ、防げるか?」
「ムリダナ、先ホドノ攻撃カラ推定スルト、結界ガ弱イ」
「そこをどうにか」

 そのやり取りを聞いていたレルルが立ち上がって叫ぶ。

「ハウオウル、すぐに来るであります!」

 レルルに呼ばれた仮面のハウオウルちゃんは、子犬のようにすっ飛んできた。
 かわいいなあ。

「来た」
「あわわ、顔が近いであります、離れるであります!」
「うん」
「じゃなくて、ブレスが来るであります、部隊に命じて、結界を頼むであります」
「うん」

 レルルに言われるままに部隊に指示を出すハウオウル。
 その間にも青竜の魔力は高まっていき、容赦なくブレスを撒き散らした。

「ぬわぁ……」

 びびって尻餅をついてしまうが、紙一重で結界が作用し、直撃は避けられた。
 それでも大地が揺れ、木々は凍りつく激しいブレスだった。

「た、たすかった」
「しかし、このままでは打つ手がありません」

 アウリアーノ姫はそういうが、打つ手といってもなあ。

「ボス、基点級ガーディアン『キツヌヤール』ガ呼ベルゾ」
「基点級? 前のでかいやつか?」
「ソウダ、アノ『パズロヤール』ト同系ノ、ガーディアンダ。コンナ事モアロウカト申請シテオイタゾ」
「しかし、あれじゃあ、また負けるんじゃ?」
「大丈夫、今度ハ区間級ガーディアン『ケプスロール』モイルゾ」
「よくわからんが、大丈夫なら任せる。やってくれ」
「了解ダ」

 そう答えたクロは、何やら通信を始める。

「リクエスタ『巡回級H96』、ヨリ、プロバイダ『ノード18』ヘ。ガーディアン出動要請、ターゲットハ検体F6」

 更に数秒後、

「リクエスト承認ヲ確認、200秒デ来ルゾ」

 しばらくすると、東の空で何かが光る。
 遠くてよくわからないが、巨大ななにかが、空を飛んでくる。
 それはあっという間に俺達の上空を通り過ぎ、青竜の上で停止した。
 停止の瞬間、腹の底に響くような空気の重さを感じる。

「衝撃波ノキャンセルガ下手ダナ、アイツ」

 とクロ。

「あいつって、あのでかいのか?」
「ソウダ、『キツヌヤール』ダ。応援シテヤレ」
「そうか、よし頑張れ、キツヌヤール!」

 以前見た巨大ガーディアンと同様の白くてでかい円柱の塊が、俺の声援に呼応するかのようにクルクルと回る。
 そしてその周りには、トラックぐらいの大きさのラグビーボールのような物が周回していた。

「ケプスロール16機ノ超電磁バインドデ、検体F6ヲ無力化スルゾ、伏セロ、メカ戦ダ!」
「おおい、なんかやるらしいぞ、みんな伏せろ!」

 ラグビーボールが高速で展開し、たちまち竜を取り囲むと、虹色の光が一瞬ほとばしる。
 次にボールを格子状につなぐように光の渦がつらなり、ついでその光が竜を拘束したように見えた。

「アクティベノンガ展開スル、衝撃ニ備エロ、コアヲ吸イ上ゲルゾ、引カレルゾ!」

 大きい方のガーディアンが竜の上で静止すると、真っ白い円柱状の外壁がガバッと開く。
 その中央には巨大な精霊石のようなものが輝き、あとよくわからんが、パイプのようなものが無數に広がっている。
 なんかカッコイイな。
 などと間抜けなことを考えていたら、巨大な精霊石がぶわっと光り、すぐ下に捉えている竜をギュンギュン吸い込み始めた。

 掃除機……と言うよりは風呂場の栓を抜いた時のように、青竜が光の粒子となり、細く引き伸ばされて吸い上げられていく。
 なんなんだ、ありゃ。
 というか、なんか自分まで引っ張られてる気がする。
 青竜は最初のうちこそもがいていたが、徐々に体が崩れていき、跡形もなく上空の巨大ガーディアンに吸い上げられてしまった。

「実体デアル、エルミクルミヲ、レプリケータガ吸収シタ。アレデモウココハ安心、子供デモ遊ベルゾ」
「おう、よくわからんがご苦労さん、おかげで助かった。あのでかいガーディアンにも礼を言っといてくれ」

 そう言って空を見上げると、ボディがバラけていたでかい円柱ガーディアンはすでに元の姿に戻り、ラグビーボール状の連中も、バリアっぽいのを消して、ふわふわと飛んでいる。
 そのままクルクルまわって、ダンスのような動きを見せた。
 まるで俺に返事をしてるみたいだった。
 ガーディアン達はしばらくそうしてから、元来た方向にすごい速度で飛び去っていった。
 俺はその後姿に手を振りながら、ありがとうありがとうと叫ぶのだった。

 混乱は未だ収まらぬが、どうやら事態は解決したようだ。
 すぐにエディや姫の部下たちもやってきた。

「ハニー、大丈夫? っていうか、さっきの何!? あれもハニーが呼んだの?」
「まあね」

 そう答えると、エディよりも先にアウリアーノ姫が俺の手を取り叫んだ。

「す、す、す、すばらしい! あのガーディアンも紳士様が!? あれだけの兵力があれば、魔界の覇権を取り、新たな魔王の誕生も夢ではありません!」

 更にうっとりした眼差しで、熱く俺を見つめながらこういった。

「紳士様! 是非ともこの地にとどまり、私と手に手を取って、ゆくゆくは魔界を……」
「まあ、落ち着いて。それよりも殿下を」
「はっ! そうでした、殿下が負傷なされました。急ぎ馬車を」

 アウリアーノの言葉に、部下たちが慌てて走り出す。
 殿下と呼ばれた、例の首無人形は、とりあえず首をくっつけた状態で地面にあぐらをかいている。

「まあ、殿下が……傷は深いの?」

 事態を知らないエディは本気で驚いていたようだが、アウリアーノが取り繕う。

「大丈夫、傷は浅いのですが、まだ先の怪我も完全に癒えておりませぬゆえ……」

 慌てて殿下を馬車に載せ、先に引き上げさせた。
 俺達は残った負傷者を回収しつつ、撤収する。
 青竜がいなくなったせいか、魔物たちもいつの間にか森のなかに逃げ込んでしまっていた。
 俺も従者たちの無事を確認して、姫と一緒に城へと戻ったのだった。



「この度は紳士様のご助成により、めでたく青竜を打ち取ることが出来ました。あの手負いの竜は近隣の村の脅威ともなっておりましたゆえ、殿下に成り代わり、あつく御礼申し上げます」

 殿下は治療中ということで、アウリアーノ姫が謁見の間で俺にあれやこれやと礼を述べる。
 お礼の勲章やら財宝も貰ったので、ありがたく受け取っておいた。
 カゴいっぱいの金だ。
 地上だと精霊石のほうが貴金属として流通している気がするので、金塊とかはあまり見ないけど、この世界でも十分価値はある。
 宝石にでも加工して、うちのお嬢様方に着飾ってもらおうかな。
 ついでにこの国の官職も押し付けられそうになったが、そちらは丁重にお断りしておいた。
 さっきの下心丸出しの眼差しには用心しないとな。

 その後、宴が一昼夜続き、開放された頃にはヘトヘトだった。
 二日酔いの頭を抱えて、エディのところに顔を出す。
 俺はこのまま引き上げる予定だが、エディはあと数日残るらしい。

「ハニーが青竜を倒してくれたお陰で、ダンジョンに張る結界の件もまとまったし、私ももうすぐ帰れるわ」
「そりゃよかった」
「一緒に引き上げてもいいんだけど、面倒だから結界の段取りまで済ませて帰ることにしたの。都に報告もしないといけないし」
「大変だな」
「でも、あと一週間もあれば全部終わるから、そうしたら正月は休暇を取って、私もアルサの街でのんびりバカンスと行きたいわね」
「待ってるよ」

 ついでアウリアーノ姫も見送りに来てくれた。

「紳士様のお陰で大事にならずに済みました。改めてお礼申し上げます」
「いいってことですよ」
「またのお越しを、お待ちしております」

 と言った感じで、わりとあっさりを送り出された。
 もっと引っ張られるかと思ったが、これはこれでなにか物足りないな。
 我ながら贅沢な話だ。

 見送る人々と別れて送迎の馬車に乗り込みながら、ほんの数日しか過ごしていない魔界の景色を名残惜しげに眺めていると、エレンがひょいと寄ってくる。
 一緒に馬車に乗りながら、エレンに確認する。

「おう、うまくいったか?」
「まあね、いくつか話をつけてきたよ」

 街で漆喰壁を見かけたので、石灰が手に入るのではないかと考えてエレンに確認してもらっていたのだ。
 エレンは先日の青竜戦では全く活躍できなかったので、こちらの依頼は張り切ったようだ。

「こっちの役人に商人を紹介してもらってね。このあたりの山では大量に取れるそうなんだ。なんでも生石灰ってのと消石灰ってのがあるらしいけど、漆喰に使うのは消石灰って方らしいね」
「あーそうだな、でも要るのは石灰岩じゃなかったかな」
「どう違うんだい?」
「うーん、石灰岩はたしか炭酸カルシウムで全部カルシウム化合物なんだが、違いと言われても俺も習ったのは随分昔で……、そういえば炭酸カルシウムは胃薬にも使うんじゃなかったかな」
「あ、何かそういうのもあるって言ってたよ」
「そりゃよかった」
「一応、サンプルも貰って荷物に積んであるから」
「そうか、帰ったらカプルと一緒に確認してみよう」
「とにかく、後日人をやって取引をする算段はつけておいたから、あとはメイフルに任せればいいんじゃないかな」
「ふむ、そうだな。ご苦労さん」

 やっぱり魔界の大地は本物の地面みたいだな。
 石灰みたいに、それなりに取れそうなものが地上で取れないのは、やはり人工の大地だからなのだろう。
 あるいは海の底なら堆積してるのかもしれないが。
 何にせよ、これでセメントが量産できるといいな。

 そんなことを考えながら、万歳三唱で俺を見送る住人に手を振り、魔界での小旅行を終えたのだった。
+注意+
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