表題『炬燵』
「……先輩」
「何だい?こーはいくん」
もう耐え切れない。
何度もぶつかっては離れていくその感触。
既に疲れて互いに重なり合ったままだ。
「この炬燵、狭いっす」
「……ほぼ一人用だからねぇ」
そう、炬燵。
ボクと先輩は、小さな炬燵に対面から座っている。
炬燵の中では、僕の足の上に当然のように先輩の足が乗せられている。
「おや、ミカンがなくなってしまった。こーはいくん」
「先輩が足をどけてくれるなら、僕が行ってもいいのですけど?」
「……なら仕方がないな」
どけてくれるのか?と思いきやむしろ足を絡めてくる先輩。
僕はため息をつきながらジト目で先輩を見る。
「ミカン、いらないんですか?」
「ミカンよりこーはいくんが欲しいのさ」
「……」
この人はもう、何なんだろうか。
いつもの優しそうな微笑みに、若干の意地悪な笑みが混ざったように見える。
ああいや、耳が赤くなっている。
「……耳」
「うん?」
「赤くなっていますよ。寒いんですか?」
一瞬キョトンとしたような顔を作った先輩に、僕は一抹の優越感を得る。
「……君は、いぢわるだな」
「僕も最近気づきました」
炬燵の中、さらに先輩が深く潜り込んでくる気配がする。
負けじと、僕も炬燵に潜り込んでみる。
「こら、狭いじゃないか」
「先輩が潜り込んでいくからでしょ」
「君こそ潜り込んでいるじゃないか」
口ではそう言い合っているものの、炬燵の中ではより一層足を絡め合っている。
僕の足が下にあるのは先程から変わらないけれど。
「先輩」
「……何だい?」
「足がしびれてきました」
「我慢したまえ」
即答された割に、少しだけ足にかかる負担が減った気がする。
同時に、ホンの少しの寒さが感じられた。
炬燵の出力を上げるか、そう思い電源を見る。
「あれ?先輩」
「うん?」
「炬燵の電源、入ってないですよ?」
そう、出力の問題以前に、電源が入っていなかった。
どうりで、寒さを感じたわけである。
「んー、でも二人で入っていると暖かいだろう?」
「それは、そうですね」
実際、電源を見るまで炬燵が動いていないと気づかなかった。
「電源、付けるかい?」
「……いや、やっぱいいです」
……その方が、お互いの暖かさを認識できるから。