表題『秋』
「ねえ先輩」
「うん?何だい、こーはいくん」
「秋、ってなんですかね?」
「……秋?」
それはちょっとした思いつき。
本に載っていた『~の秋』という記事が少し気になったのだ。
「食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋、なんて色々あるじゃないですか」
「実りの秋、紅葉の秋、芸術の秋、あとは……行楽の秋なんていうのもあるね」
「先輩は秋と言ったらどんな秋ですか?」
ふむ、と首をかしいで考える素振りをする先輩。
その瞳はぼんやりと空を見ている。
「私は、行動の秋、かな?」
「行動、ですか?」
「うん」
行楽ではなく、行動の秋と。
一体それはどんな秋なのだろう。
行動というだけに、何かに対して動くということだろうか。
「それはあまり聞かない秋ですね」
「うん、なんというか……こういうのって目標を定めるのにも使えるからね」
「ああ、ではそれはこれからやっていこうと思ったことですか」
なるほど、目標か。
何かをしたいから『~の秋』なんて言葉に思いを込める。
この人はやはり考え方が他とは違っている。
「いや、もう行動はおこしているよ。あとは行動し続けるだけだね」
「……先輩、何かやってましたっけ」
知っている限り、この秋に先輩が何かをしているようには見えない。
部室に来ては駄弁って帰っていくだけだ。
「ふふ、こーはいくんは分からなくていいんだよ?」
「……?」
相変わらずのぼんやりとした目でこちらを見つめる先輩。
口元は悪戯の成功した子供のようにつり上がっている。
「それよりもこーはいくんは秋といえば何だい?」
「僕ですか?」
秋といえば……何だろうか。
先輩に聞いておいてなんだが、自分の考えは全く考えていなかった。
「僕は……なんだろう?」
「こーはいくんも毎日ここに入り浸りだからな」
そう、先輩に部室に連行され、駄弁って帰る。
そんな毎日だ。
なんだ、つまりは。
「……先輩の秋、ですかね?」
「私の秋?行動の秋ということかい?」
「いえ。」
考えてみればこの秋は、どこに行っても先輩がいた気がする。
休みの日にまで買い物先でばったり会うくらいだからなぁ。
「『先輩の秋』です」
「……うん?」
「ずっと先輩と一緒だなって」
「……っ」
あれ、先輩の顔が赤くなっていく。
急に立ち上がった先輩は、窓の方に歩いて行った。
「い、言ってて恥ずかしくならないのか君は」
「……今、顔が真っ赤の先輩よりは断然マシですよ」
……先輩の『行動の秋』もなんとなく意味がわかったしね。