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表題『季節限定(冬)』

「むむ、これはおいしくない」

「……何をやっているんですか?」


もうそろそろ冬と言っても良いだろう寒さの日。

いつもどおり放課後に予定の無い僕が部室に足を運ぶと、先輩がなにやら唸っていた。

机の上には、売店で買ったのかいくつかのパックジュースが並んでいる。


「む、いいところにきた。君もこちらに座りたまえ」

「座りますけど、何です?これ」


並んでいるパックジュースに目を通せば、すべて良くある季節限定の物だ。

それもそういったものに良くある、名前は珍しいけど味はどうだろうと言ったものばかりだ。


「今日はこれらの品評をしようと思うんだ」

「はあ」


本日の思いつきはこれらしい。

先輩は、持っていたジュースを僕のほうに渡してくる。


「さあ、まずはこれからだ」

「……これさっきおいしくないって言ってませんでした?」

「人の味覚は千差万別、そういった意味でも品評がしたいんだよ」


完全に悪意の無いきれいな瞳をしてそんな事を言ってくるから困る。

そんな目で見られたら断れないじゃないか。

渡された紙パックのストローに口をつけ、一口。


「……あ」

「うわ、甘ったるい。しかもなにか変な苦味が残ってくる」


たとえて言うならファミレスでドリンクバー全部混ぜたような。

と、先輩のほうを見ると、なにやら先ほどまでこちらを見つめていた目が泳いでいる。

おいしくないのを飲ませて後悔でもしているのだろうか?


「やっぱりおいしくないじゃないですか」

「あ、あはは、そうかい?じゃあ、こっちはどうかな」


そう言って新しいパックジュースを渡してくる先輩。

だが、顔をこちらから背けている。


「……どうしたんです?」

「い、いや、なんでもないよ。うん、大丈夫」


顔と手を振ってなんでもないアピールをする先輩。

ならいいかと、僕はストローを前のジュースから挿しなおし、一口。


「あ、これはちょっとおいしいですね」

「そうかい?」

「ええ、先輩もどうぞ」

「あ、ああ」


パックジュースを先輩に手渡すと、今度はなにやらそれをじっと見つめだす先輩。

そして意を決したようにストローを咥え……ああ、そうか。

先輩がストローを咥えるのを見て、ようやく間接キスについて思い浮かべる。


「おお、確かにおいしいな」

「で、ですよね」

「……顔が赤いが大丈夫かい?」


良く言う。

先ほどまで先輩が挙動不審だったのはこの所為だろうに。

余裕を取り戻したように見える先輩を、じっとりと見る。

あれ?目を逸らした。


「どうしました?」

「い、いや、なんでもない」

「……」

「……」


そして微妙に気まずい沈黙がながれる。

ふと、先輩が目を上げて言う。


「こ、この話題は止めよう、双方不利益しか呼ばない」

「そ、そうですね」


こんな状態が続くと、からかうからかわれる所じゃ無い。

堅実な判断だ。

そう、逃げたわけじゃない。


「そういえば、季節限定と言うなら、僕のよく行くカフェでもそんなのがありましたよ」

「へぇ、どんなもの?」

「カフェラテなんですけど、ちょっと限定のミルクを使ってるらしいです。結構おいしかったですよ」

「ふむ、じゃあいこうか」

「今からですか?」

「当たり前じゃないか」


相変わらず思い立ったら即実行な人だ。

そして、今までやっていた事を即忘れる人である。


「このジュースはどうするんです?」

「……そちらは任せた!」


あ、しかもこっちにあるのはおいしくないほうでは……。

あれ?おいしいほうだ。

先輩のほうを見るとすでに飲みきっていた。


「ほら、早く早く」

「わ、わ、せかさないでくださいよ」


パックジュースを急いで飲み終え、先輩を追いかけて部室を出る。


「先輩」

「ん、なんだい?」

「……いえ、何でもありません」

「……へんなこーはいくんだな」

「先輩には負けますよ」

「なんだとー」

「わわわ」


でも、そんな所がかっこいいんですよ、先輩。

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