表題『焼き芋』
ぱちぱちと落ち葉が燻った火を舞わせる。
折れ木で焚き火の中を軽く混ぜる。
「おや、こーはいくん?」
「げ、先輩」
「……げ、とは穏やかじゃないね」
なんでよりによってこのタイミングで先輩がここを通りかかるかな。
この、焼き芋を作っているタイミングで。
「そしてこの場にはとてもいい香りが漂っていると」
「やっぱりばれたか」
「さてはその焚き火の中には……!」
オーバーリアクションです先輩。
「芋、一本しかないんですけど?」
「半分こすれば問題ない」
「えー……」
完全に隣に座りこんで、半分もらう気満々の先輩。
いつの間にか、何処からか折れ木を持ってきて焚き火をつついている。
「火、弱くないか?」
「焼き芋は燻らせてしばらく放っておくものですよ。」
「しばらくってどれくらい?」
芋を入れたのがついさっきだから……。
「一時間くらいですかね?」
「よし、火を強くしよう」
「芋が炭になります」
「ぐぐぐ……よし、ちょっと芋買ってくる」
「行ってらっしゃーい」
言うが早いか、パタパタとかけていく先輩。
まあ、すぐに入れればどちらも同じくらいに食べられるだろう。
「売ってなかった!」
「……あれ?八百屋ってここから歩いて五分くらいかかったきがするのですが?」
「私は100m11秒代をキープしている!」
「はやっ!でもそれでも早すぎじゃないですか?」
「気のせいだ」
さて、そんなこんなで大体1時間くらい駄弁って。
「お、そろそろですよ。先輩」
「ん?もうか?案外早かったな」
「ずっと話していましたからねぇ」
本当はしばらく暇しているはずだったんだけれど、
「先輩のおかげで退屈しないで済みましたよ。ありがとうございます。」
「……べ、別に暇だったからな」
ぷいっ、と顔を背けてしまう先輩。
まあ、これで芋半分なら安いだろう。
「お、いい感じに焼けてますね」
「おー、確かに。なかなかどうして」
焚き火から取り出した芋をアルミホイルごと真っ二つにおると、ホクホクとした綺麗な黄色が姿を現した。
美味しそうな甘い香りがあたりに漂った。
「はい、じゃあ片方」
「うむ。苦しゅうない」
「殿様ですか」
受け取った焼き芋をホクホクと頬張る先輩。
頬をふくらませた先輩は、なんというか、小動物みたいだ。
「な、なんだ?食べないのかこーはいくん」
「ああいえ、食べますよもちろん」
なんだか食べる前から満足してしまった気がする。
まあ、この先輩といると、当初の目的と満足するところが変更されるのは、いつものことだ。
うん、芋も美味しい。