BBQ幽霊
某所の川辺には、BBQの幽霊が出るという。
なんでもBBQの最中に死んだ霊が仲間を求めて肉を焼き、その音を聞いた者がいれば彼らの仲間にされてしまうとのこと。
「いいじゃない。私が探してきた、呪われた焼肉屋の話よりよっぽどマシ」
呟きながら私は、そっと物陰に身を隠す。
誰もいないのに足音だけが近づいてくるとか、録音中のマイクが誰のものでもない声を拾ったとか、音だけの幽霊は怪談としてベタな部類だろう。ただそれが「料理の音」だというのは珍しい。オカルト大好きな「自称」霊感女子・留美の私が正真正銘の霊感女子になるため、ここは絶対に確かめたいところ。そんなことを思いながら、私は深夜にその怪異を待つ。
……ジュー……
! 本当に音がしてきた!
思わずガッツポーズをしそうになるのを堪えつつ、私は耳を澄ます。
ジュー……ジュー……
か細くも、はっきりとしたその音は間違いなく肉を焼く音。何なら香ばしい匂いすら漂ってきそうだ。あぁ、なんてことだろう。私は今、本物の心霊現象に遭遇している。オカルトオタクとしてこれほど嬉しいことはない……そう感動していたら、急に私の腹が鳴った。途端に焼肉の音が止まる。
……しまった。肉を焼く美味しそうな音を聞いていたら、私までお腹が減ってしまった……と同時に自分の中で警戒心が迸る。
ヤバい、この手の怪異はこちらの存在に気付かれたらまずいのだ。ましてこのBBQ幽霊の噂では「音を聞いた者は仲間にされる」と断言されている。自分の中で人生最大のアラートが鳴る、それに合わせて肉を焼く音が近づいてきた。
逃げなきゃ――
こんなこともあろうかと、日頃から鍛えていた自慢の脚力で私は全力ダッシュする。
だが――肉を焼くジュージューという音はどこまでも私を追いかけてきた。
なんだ、幽霊とはいえ肉を焼きながら追ってきているのか? あらたな謎が生まれるが、今はそんなことを審議している場合ではない。気を抜けばすぐ耳元まで迫ってきそうな焼肉の音に、私はひたすら走り続ける。
とはいえ、私の体力が無限に続くわけがない……このままじゃいつか追いつかれる。そう悟った私は咄嗟に、ある場所に向かった。
進入禁止のロープを超え、私はその敷地内に入る。辿り着いたここは――既に潰れ廃墟となった、呪われた焼肉屋。
――この焼肉屋が「呪われた」と言われている理由は、実に馬鹿げた話だ。
「『オーナーの悪徳商法によって潰れたこの店では、怒った牛たちの怨霊が現れるようになった』……」
くだらない噂話を、口にすれば肉を焼く音が背後にまで近づいてきた。だが私は構わず、この「呪われた焼肉屋」の実に馬鹿馬鹿しいオチを口にする。
「『この焼肉屋で肉を焼いた者は……牛の大群の霊に襲われる』」
何か大型の動物がこちらに迫ってくる音も同時に聞こえてきた。心なしか肉を焼く音が一瞬、戸惑ったように思える。
しかし大勢の獣の足音は途絶えることなく……その大きな音は私の後ろを通り過ぎていった。一瞬、悲鳴のようなものが聞こえた気もするがそれは亡者の叫びだったのだろうか……全ての音が消え去り、静かになったのを確認したところで私はようやく後ろを振り向く。気がつけば夜は明け、廃墟には私の足跡だけが残されていた。
「……とりあえず、朝ご飯食べに行こうかな」
本物の心霊体験と、そこから無事脱出できたことに安堵しつつ私はそう呟く。
さすがに今は肉が怖い、食べるなら焼き魚定食にしよう。
そう思いながら私は、「呪われた焼肉屋」を後にした。




