自分勝手な婚約者から婚約破棄を告げられましたが、結果的にはそれで良かったなと思っています。~ある意味彼には感謝ですね~
「お前との婚約だが、破棄とすることとした!」
婚約者リオールにそんな風に宣言されてしまったのは、夏の少し前だった。
「悪いがお前とはやっていけそうにない」
「なぜですか?」
「そういうところだよ! このタイミングでわざわざ理由を聞いてくるなどおかしいにもほどがあるだろう。そういうところが不快なんだ!」
予想以上に怒り出したリオールに戸惑いながらも「空気が読めない女だから、ということですか?」と確認してみれば、彼は怒りに満ちた面持ちのままで「ああそうだ! そんな感じだ! その通り!」と返してくる。
「そうですか……では仕方ないですね」
「ようやく理解できたようだな」
「気が合わないということでしたら仕方ないな、と思います」
するとリオールは「ま、泣いて謝るなら……考え直してやってもいいが?」と言ってくる。しかしこちらとしては彼に縋りつく気はなかったので「いえ、大丈夫です。お互い別々の道を行きましょう。その方が良いと思います」と返した。それを聞いたリオールはなおさら不快そうな面持ちになり、低い声で「生意気な女だな、もう二度と顔も見たくない」とこぼしていた。
「ではな。……永遠に、さらばだ」
こうして彼は私との縁を断ちきったのだった。
◆
婚約破棄されたという話を聞いた同性の友人たちは私の体調を気遣ってくれた。私がショックを受けていると思っていたのだろう。
……まぁ、多分、私が彼女らの立場であったなら私も同じように思っていたと思うが。
ただ、実際には、そこまでショックを受けてはいなかった。
というのもリオールはあまり良い人ではなかったのだ。
わりといつも自己中心的な性格である彼はこれまでにも色々迷惑をかけてきていたので、私としても正直そこまで愛してはいなかった。
――その後、友人らに紹介されて、一人の青年と顔合わせをすることとなったのだが。
「「栗が好きなんですか!?」」
ちょっとした共通点から私と彼は心を通わせ。
「そうなんです。栗の味が好きで。あの柔らかな感じといいますか、高貴な感じといいますか……あの厚みのある味わいが好きなんです」
「僕はほくほく感が好きなんです! ですがもちろん味も好きです。仰っていることすべてに同意、という気持ちでいっぱいです!」
気づけば唯一無二の友のような関係になっていて。
「僕にとって貴女は特別な方です。栗好き仲間ですから。……ということで、結婚してください!!」
やがて想いを告げられて。
「え……っと、あの……それは、本気で……?」
「はい!」
「そうですか……すみません、その……今、少し、混乱していて」
「嫌ですか?」
「いえ、そうじゃないんです」
少しばかり戸惑いながらも。
「……ぜひ、よろしくお願いします」
求婚を受けることにした。
「「これからは栗と共に歩んでゆきましょう」」
同じものを愛する二人だから。
共に行く道を選ぶことへの抵抗はない。
リオールとは上手くいかなかったけれど、すべての男性と上手くいかないわけではない――そう思っているからこそ、今、こうして真っ直ぐに未来を見つめることができている。
◆
栗好き同士で結婚してから二年半。
私たちは今も仲良し夫婦のままでいられている。
紹介してくれた友人らには感謝しかない。
穏やかな幸せ、穏やかな日常、それらを手に入れられたのはリオールが私を切り捨ててくれたから。そう考える時、リオールに対しても少しだけだが感謝の気持ちが生まれてくる。切り捨ててくれてありがとう、と、今はそう思える。
ちなみにリオールはというと。
ある嵐の日に道を歩いていると急に倒れてきた栗の木にぶつかられてしまったらしく、バランスを崩して坂を転がり落ちてしまい、その最中に頭を打ってしまったことによって命を落とすこととなってしまったそうだ。
自分勝手に生きるという道を貫いてきた彼の最期は驚くほど呆気ないものだったようである。
◆終わり◆




