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「因果は巡る」~努力と成長の物語~  作者: COM


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小さな戦い

森は、いつもと同じだった。

朝露に濡れた草、静かな空気、遠くで鳴く鳥の声。


和也は籠を持ち、薬草を探して歩いていた。

葉の形を確かめ、茎の色を見る。以前ほど迷わなくなったが、それでも一つ一つに時間がかかる。


「……これで、合ってる」

小さく呟き、籠に入れる。

その瞬間、茂みが揺れ、低いうなり声が響いた。


灰色の毛並み。子犬ほどの大きさだが、牙は鋭い。

ミニウルフ――冒険者の間では、最弱と呼ばれる魔物。


「……っ」

逃げようと足を動かすが、距離が近すぎる。背を向ければ追われる。

和也は腰の鎌を握った。薬草を刈るための、使い古された道具だ。


ミニウルフが飛びかかってくる。


反射的に振り払う。刃が当たり、獣の悲鳴が上がる。

だが、次の瞬間、鋭い痛みが腕を走った。


「……くっ!」

噛まれたわけではない。引っかかれただけだ。

それでも血が滲み、動きが鈍る。


もう一度、鎌を振る。勢いだけの一撃だったが、今度は深く入った。

ミニウルフは短く鳴き、その場に崩れ落ちた。


しばらく動けなかった。呼吸が荒く、腕が熱い。

「……勝った、のか」

そう呟いてから、足元の魔物を見る。


足元の魔物を見下ろす。倒した。

だが、次の行動で立ち止まる。


冒険者がやっているような“剥ぎ取り”をしようとして、手が止まった。

刃を入れる位置も分からず、血の匂いに視線を逸らす。


「……無理だ」

結局、素材は手つかずでその場を離れた。


ギルドに戻ると、腕の傷に気づいた冒険者が視線を向けた。

「……やられたな。森で何かあったのか?」


和也は短く頷いた。

「ミニウルフ、です」


一瞬だけ、相手の表情が変わる。

「ほう。……で、どうなった?」


「……倒しました」


息を吐いた相手が、さらに訊ねる。

「そうか。じゃあ――素材は?」


和也は首を振った。

「取ってない、です」


苦笑が返ってきた。

責めるでも、期待でもない、ただ慣れた反応だった。


その日の報酬は、薬草分だけだった。

教会に戻ると、怪我のことを話す。シスターは黙って包帯を巻く。

「無茶はしていない?」


「……逃げられませんでした」


「そう」

それ以上は何も言わなかった。


翌日、シスターは教会の裏にある小屋へ和也を連れていった。

中には、飼育している鶏がいる。


「解体の練習よ」

短く、それだけだった。

最初は手が震えたが、見よう見まねで刃を入れ、教えられた通りに進める。

終わった頃には、腕が重くなっていた。


「……これなら」


次に森でミニウルフと遭遇したのは、数日後だった。


今度は距離があった。

和也は足を止め、鎌を構える。呼吸を整え、獣の動きを見る。


噛みつかれ、腕に再び軽い傷を負った。痛みで視界が一瞬揺れる。

それでも倒した。


その場に膝をつき、しばらく動けなかった。

荒い息が、ようやく落ち着いてくる。


震える手で鞄を探り、底に入れていた回復薬を取り出す。

前回、何も持たずに森へ入ったことを反省し、用意していたものだ。

薬を傷口にかけると、ひりつく感覚のあと、痛みが少し引いた。


倒した魔物の前に立ち、和也は深く息を吸う。

それから、ゆっくりと刃を入れた。

上手くはない。だが途中で止まることもなかった。


ギルドに持ち込んだ素材は、きちんと換金された。

薬草と合わせ、前より少しだけ重い銅貨。


教会でそれを差し出すと、シスターは頷いた。

「……今度は上手くできたのね」

それだけだった。


部屋に戻り、和也はベッドに腰を下ろす。

腕は痛むし、疲れも抜けない。

それでも、今日は放置しなかった。準備を整え、やるべきことをやった。


「……少しは、前に進んだか」


答えは出ないまま、夜が更けていった。

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