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「因果は巡る」~努力と成長の物語~  作者: COM


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森の仕事

朝の教会は、いつもと変わらず静かだった。

和也は身支度を整え、シスターの前に立つ。今日の仕事は、ギルドから依頼された薬草採取だった。


「これを持って行きなさい」

差し出されたのは、鎌としても使える短い刃のついた道具だった。

刃こぼれもあり、柄には使い込まれた跡が残っている。決して良い品ではない。


「森の入口付近なら、強い魔物はいないはずよ。でも、無理はしないで」

「神のご加護を」

和也は頷き、道具を受け取った。


森に足を踏み入れると、初めての正式な依頼に、胸の奥がわずかにざわついた。

だが、その感覚はすぐに薄れる。


視界に入るのは、似たような葉ばかりだった。

どれも見覚えがある気がして、どれも決め手に欠ける。


「えっと……これも……あれも……」

一枚一枚を確かめながら、籠に入れていく。

気づけば時間だけが過ぎていた。


ギルドへ戻ると、受付で薬草を確認した職員は、淡々と首を振った。

「使えるものは、これだけですね」

籠の中から取り分けられたのは、ごく一部だった。


近くで様子を見ていた冒険者が、声をかけてくる。

「おい、なんで雑草まで持って帰ってきてるんだ?」


和也は俯いたまま、何も言えなかった。

言い返す言葉が見つからない。


「こんなことで……俺、本当にやっていけるのか……」

胸の奥が、じわりと重くなる。


その日の依頼は、それで終わった。

手渡された報酬は、指で数えられるほどの銅貨だけだった。

籠いっぱいに摘んだ感触と、手のひらの軽さが、どうにも噛み合わない。


教会へ戻ると、シスターは和也の方を見た。

その目は、静かに和也を見守っているようだった。声には感情は混ざっていないが、確かに「見ている」ことは伝わる。


「今日は、あまり取れなかったのね」


「……はい」

和也は気まずそうに答える


差し出された銅貨を受け取り、シスターは小さく頷く。

「ありがとう。預かるわね」


それだけだった。

慰めでも、期待でもない、事実だけを淡々と伝えるような声だった。


和也は頷き、その場を離れた。

成果が出ていないことも、理由が自分の未熟さにあることも、分かっている。

だが、どうすればいいかまでは、まだ見えていなかった。


翌日も森へ入る。


昨日よりは、目が慣れていた。

葉の形、茎の色、手触り。

見当違いなものを摘むことは、確かに減っている。


それでも、動きは遅い。

一枚を確かめるたびに立ち止まり、記憶を手繰る。

正解だと思っても、手が止まり、自信が持てない。

膝や腕の疲労が蓄積し、日が傾く頃には筋肉が重くなっていた。


「……これで、仕事って言えるのか?」


小さく呟き、手のひらを見つめる。

土と草の匂いが指先に残り、重さを感じる。

昨日よりは確かに進歩しているが、「仕事として通用する」にはまだ遠い。


受付で薬草を確認した職員は、数を数え、淡々と告げた。

「使える数は多くありませんが、品質は問題ありません」


渡された銅貨は、昨日よりわずかに多い。

それでも、手のひらに収まる程度だった。

和也は何も言わず、受け取って頷いた。


教会へ戻ると、真っ直ぐシスターの元へ向かい、銅貨を差し出す。

「……今日の分です」


シスターは金額を一度だけ確認し、頷いた。

「ありがとう。昨日よりは、ちゃんと仕事になっているわね」

声色は変わらない。評価や励ましではないが、見守る視線の温かさが伝わる。。


「でも、無理はしていない?」


「……はい。大丈夫です」


そう答えながらも、胸の中では首を振っていた。

体力も、判断力も、まだ追いついていない。


「慣れるまでは、こんなものよ」

そう言って、銅貨をしまうシスター。

「焦らなくていいわ。続けられることが大事だから」


和也は小さく頷いた。

部屋へ戻る途中、手のひらを見る。

その指先はわずかに震えていた。


上手くなっている実感は、確かにある。

だが、それが「仕事として通用する」には、まだ遠い。


それでも翌朝になれば、また森へ向かう。

他に道がないわけではない。

ただ、今はこれしか続けられなかった。

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