初めての試練
翌朝、和也はシスターの前に立った。
少し迷ってから、口を開く。
「……外で、働くことって……できますか?」
シスターはすぐには答えなかった。
和也の表情を、静かに見つめる。
「理由を、聞いてもいいかしら」
和也は言葉を探したが、うまくまとまらなかった。
「ここにいるのが嫌とかじゃ、なくて……」
「でも、このままなのも……」
途中で、言葉が途切れる。
シスターは小さく頷いた。
「そう。自分で考えたのね」
責めるでも、喜ぶでもなく、ただ受け止める声だった。
「外で働く方法はいくつかあるわ」
「ギルドに登録すれば、仕事を紹介してもらえる」
「文字が読めて計算もできるなら、商業ギルドという手もあるわね」
そう言って、紹介状を差し出す。
「無理はしないこと。それだけは忘れないで」
和也は紹介状を握り、町へ向かった。
心の中では、少し期待もあった。数字や計算を使う仕事に手が届くかもしれない。
でも、同時に不安もあった。慣れない道具、慣れない計算。もし失敗したらどうなるのか。
商業ギルドは、人の出入りが多く、空気が張りつめていた。
帳簿を前にしたギルドマスターは、和也の前に紙と計算機を置く。
「簡単な確認だ。これを計算してみろ」
示されたのは、品物の仕入れと売値を並べただけの、短い計算だった。
和也は数字を追って、紙の上で何度も計算を繰り返す。
しかし、そろばんのような計算機の扱いが分からず、指が止まった。
「……計算が合わないな」
帳簿に視線を落としたまま、ギルドマスターは言った。
「数字は読める。だが“仕事”には足りない」
それだけ言われ、話は終わった。
和也は反論しなかった。
できない理由はいくつも思いついたが、どれも言い訳にしか思えなかった。
ロビーで呆然としていると、冒険者向けの掲示板が目に入った。
掲示板には、誰でもできると書かれた低級の依頼が並んでいる。
頭の中で天秤を動かす。
「計算も道具も覚える必要がない。間違えても命に関わるわけではない」
「少なくとも、手を伸ばせば届く」
和也は、小さく息をつき、掲示板を指差した。
ここなら、なんとかできる――そう感じた。
和也は、冒険者になることを選んだ。




