教会での生活
和也は路地の中で、男の言葉を思い出していた。
「教会なら、話は聞いてくれるだろう」
下着一枚でうなだれながらも、和也は教会の門をくぐることを決めた。
中に入ると、身寄りのない子供たちが数多く暮らしているのを見た。
和也は小さくうなだれたまま、シスターに向かって言った。
「……助けてください。服も、食べるものも、何もなくて……」
シスターは和也をじっと見つめ、口を開いた。
「ここにいれば、寝る場所も食事もあるわ。でも、ここでは皆が支えあって生きているの」
「だから、掃除や洗濯、料理など、教会で必要なことを手伝いなさい。そうすれば、あなたは今日から私たちの家族よ。」
和也はそれを受け入れ、教会での生活が本格的に始まった。
教会での生活が始まった翌日、和也は子供たちの中に混じって食事の列に並んでいた。
しかし、順番を間違えて前の子の皿を押してしまい、慌てて謝る。
「こら、ちゃんと並びなさい!」
小さな声が飛ぶ。
和也は反射的に頭を下げ、何も言えずにその場に立ち尽くした。
掃除の時間も同じだった。
ほうきを使う手順を誤り、他の子が集めた埃を散らしてしまう。
「もう……せっかくきれいにしたのに」
責める声に、和也は俯いたまま手を動かす。
どう直せばいいのか分からず、ただ言われた通りに繰り返した。
遊びの時間でも、状況は変わらなかった。
ルールを理解できず、サッカーでボールを奪おうとして子供たちと軽くぶつかる。
「ちょっと……変わってるね」
誰かの小声が耳に残る。
和也は聞こえなかったふりをして、その場を離れた。
それでも、逃げ出すことはしなかった。
注意され、ため息をつかれ、時には笑われながらも、少しずつ“やり方”だけは覚えていった。
食事の列に並ぶ位置。
掃除道具の置き場所。
祈りの時間に取るべき姿勢。
生活は回るようになった。
間違えることも減った。
だが、それだけだった。
名前を呼ばれることはほとんどなく、話しかけられることもない。
必要な言葉だけを交わし、用が済めばそれで終わる。
学校で人付き合いを避けてきた因果が、形を変えてここでも繰り返されている。
和也はそれをはっきりと自覚していた。
夜、簡素な寝台に横になり、和也は天井を見つめていた。
眠ろうとしても、意識が沈んでくれない。
ここにいれば、食べ物も寝る場所もある。
明日も同じように朝が来て、同じ作業をして、夜になれば眠る。
それだけのことのはずなのに、胸の奥が落ち着かなかった。
手が小刻みに震え、足の裏がむずむずする。
何が不満なのか、自分でもよく分からない。
ただ、このまま日を重ねる想像をすると、息が詰まるような感覚だけが残った。
ふと思い出す。教会には、昼間になると外へ出ていく年上の子供たちがいた。
町の商店で手伝ったり、森で薬草を採取したり。
そうして得た僅かな賃金が、教会の生活を支えていることも、和也は聞いていた。
危険もあるだろう。
楽になるわけでもない。
それでも、ここで何も変わらないままでいるよりは、
何かを選んだ方がいい気がした。




