第4章 世界の設計図(デザイン)
玲奈のノートを読み終えた瞬間、
脳の奥がチリチリと痛んだ。
そこには、私――春川はるかとしての記録が、確かに存在していた。
教室での会話。放課後に笑い合ったこと。
そして、玲奈と撮った写真まで。
だが、そのページの端に書かれた日付を見たとき、
私は息をのんだ。
> 20XX年 3月32日
そんな日付、存在するはずがない。
「ねぇ、これ……どういうこと?」
玲奈は小さく首を振った。
「わからないの。でも、そのページだけは消えなかった。
スマホも、写真も、データも全部“存在しない”って表示されるのに。」
彼女は続けた。
「もしかしたら、“世界そのもの”が書き換えられてるのかも。」
---
次の日。
私は放課後、校舎裏にある古い情報端末室へ向かった。
理科準備室の隣にあるその部屋は、今は誰も使っていない。
埃をかぶった古いモニターに電源を入れると、
画面にノイズが走ったあと、奇妙なログが現れた。
> 【PROJECT: H.A.R.U.K.A】
【記憶同期テスト:試行回数 132】
【被験者ID:HK-01 現在状態:安定(改変後)】
「……なに、これ……」
手が震えた。
まるで、私自身が“実験データ”として扱われているみたいだった。
さらにスクロールすると、赤い文字が現れる。
> 【警告:前回改変時に“認知残渣”が発生】
【対象:KIRITANI_REINA】
【観測者への干渉を確認】
――玲奈?
思考が止まった。
彼女が私を“覚えていた”理由。
それは、彼女の中に消しきれなかった“記憶の残り”があったから。
世界の書き換えが完全じゃなかった。
つまり、私は……この世界の“修正版”。
---
その夜、夢を見た。
真っ白な部屋。
無数のコードに繋がれた人々が眠っている。
そして、モニターの前で誰かが言った。
> 「次の改変は、明朝六時。対象は“春木はるき”だ。」
目を覚ますと、部屋の時計は5:59を指していた。
――世界が、再び書き換えられる。
そして次は、“俺”が消される番かもしれない。
---
> この世界はプログラムのように“再構築”されている。
だが、記憶と感情は完全には消せない。
それが“欠陥”であり、たった一つの“希望”でもあった。




