エピローグ
■エピローグ
違法建築群の取り壊し中止に関するお知らせ。
政府指令第一万七千八百五十号によって予定されていた違法建築群(通称:九龍城寨図書館)の取り壊しは、協議の結果、無期限凍結とする。
内閣総理大臣 桜庭綾子
〇
九龍の取り壊し中止は再び世間を賑わせた。
何者かがリークした政府内の文章によって、九龍の跡地にはカジノを中心としたアミューズメント都市を莫大な税金で建設する計画があったと発覚したのだ。
これには多くの国民から反対の声があがり、誰が責任を取るでもなく計画はうやむやとなった。その恩恵としてこの図書館群は存続を元のように黙認されるかっちとなったのだが――
「それにしても、誰が計画を流したんでしょうね」
私はナナイさんの事務所で朝食を食べながら、ふと尋ねてみた。
すると――
「くはは、貴様の考えるとおりだと思うぞ。それほどまでに、貴様の推理力は向上しているからな」
と言って、ナナイさんは悪魔的な笑みを浮かべてみせた。
私は褒められて嬉しい反面、もし今回の件が自分の推理どおりなら、とんでもないことだと思った。
計画を流出させた犯人――それはおそらく、桜庭綾子……この国の首相本人だ。
もし本当にそうだとしたら、彼女は守ってくれたのだ。この図書館と、たくさんの本たちを。
「それより貴様、ずいぶんと余裕ぶっているな。今日の返却業務はどうなっている?」
「そ、そうでした。すぐ行ってきます!」
私はナナイさんにそう言われると、慌てて事務所から飛び出した。
そして、いつものように返却業務を行っていると――
「あの、すみません……」
中央広場のあたりで、私と同い年ぐらいの女の子に声をかけられた。
どうやら彼女は、小さいころに母が読んでくれた絵本を探しているらしい。
だが、図書館があまりにも多くて、どこに行けばいいのかわからないそうだ。
私は、彼女が断片的に覚えている絵本の内容を聞いてすぐにピンときた。
「だったら、『そうべえ絵本図書館』へ行きましょう。こっちです」
本は記憶を呼び覚ましてくれる。
本は誰かへの想いを残してくれる。
本は知らない世界へと連れて行ってくれる。
私は今日も、この図書館都市を駆け抜ける。
誰かが大切な一冊に出会えることを願って。