君との始まり。
「前にさ・・・。」
翔が、運転しながら、聞いてきた。
「俺の事、子供みたいって、いったでしょう?」
そんな事いった?と、思いながら、凛は、聞いていた。以前に、仕事中に、同僚達と、話しているときに、誰かが、翔を、どんな風に、みえるか聞かれた事が、あった。同僚達の前で、気があったとしても、本音を、言えるはずもなく、凛は、ごく普通に、
「子供でしょ」
と、笑って、受け流ししていたのだが、翔は、誰かから、間接的に、聞いていたのだろう。
「俺さ・・・。ショックだったんだ」
「ちょっと、待って!」
凛は、慌てた。
「あのね・・。翔君。あたしは、年上で、子供もいるおばちゃんなの。ショックって、言われると・・。」
その気は、ないと、伝えてるつもりだった。たった今、夫らしき男性が、女性と、一緒いる姿を、見たばかりだが、他の男性と、一緒にいる事に、良心の呵責があった。
「あのさ・・・。」
翔は、ため息をついた。
「おばちゃんなんて、思った事なかったよ」
また、イラつきはじめた。
「そんな風に、思ってるの・・・。たぶん、あなただけ」
何を、心の中で、葛藤しているのか、翔は、次第に険しい顔つきになり、運転が、荒くなってきた。
「今日、時間ありますか?」
「8時位には、帰らないと・・・。」
子供が、待ってるから・・。と、言いかけたが、また、翔が、イラつくと、思って、その先の言葉は、呑んだ。
「コンサート行くの、やめた」
翔は、急に、ナビに逆らって、進んでいた方向をかえた。
「どこへ、行くの?」
何度も、ナビが、国道へ、戻るようアナウンスしていたが、翔は、聞かず、高速へと、向かっていった。あんまり、ナビが、五月蝿いものだから、案内を、切って、しまった。意外と、プライベートでは、短気なのだ。
「ふぅん」
凛は、鼻で笑った。
「何か?」
「意外と、子供っぽいって、いうか・・・。短気なんだな・・。って、思って。」
大人の女性の余裕を誇示するように、笑って見せた。
「子供じゃん。子供。」
からかうように、顔を、見つめると、翔は、耳まで、赤くなった。
「うっ・・・。うるさい」
「へぇ・・・。面白い」
「運転してるんだから、からかわないで」
翔は、恥ずかしそうに、凛の目を、そらした。
・・・もしかしたら・・・
凛は、思った。高速を、緩やかなスピードで車は、進んでいく。見慣れた景色が、防護壁の向こうに消えて行った。翔は、凛にからかわれて、すっかり、無口になっていた。
「どうしたの?」
凛が聞くと
「あなたが、からかうから」
口を、とんがらせていった。
「あまり、からかわれないの?」
「あなたみたいな人は、初めてだから」
ため息つくように、翔は、こたえた。
「そう?」
凛が、応えるのと同時に、携帯が、鳴り始まった。
「出ないの?」
曲名で、相手が、誰か、わかるのか、翔は、携帯を無視していた。
「いいんだ・・。」
「でも」
携帯は、長い着信を、知らせ、一旦、切れると、また、鳴り始まった。
「鳴ってるよ。」
出てあげたら、いいのに・・。と、思いながら、言った。
「しつこい・・。」
翔は、忌々しげにつぶやき、携帯をとった。
「はい」
思いっきり、不機嫌だ。翔は、職場のときに、みせる顔とは、異なり、子供っぽい感情の男だった。
「あぁ・・。」
相手が、誰かは、擦視がついた。杏奈だ。彼は、心の離れた相手には、こんなに、冷たく接する男なのか。凛は、隣で、翔の横顔を、見ていた。今は、凛を、みつめる目は、熱いが、いつか、冷酷に、みつめる時が、くるのではないか・・・。翔は、杏奈に、関心なにのか、冷たく、あしらっていた。
「今は・・・。じゃあ・・。後で。」
相手が、中々、切ろうとしなかったのか、無理矢理、携帯を切ったようだった。
「いいの?」
あたしは、そんなんじゃないんだけど・・・と思いながら、翔に聞いた。
「いいんだ。終ってるって、言ったでしょう?」
聞かれるのも、煩わしく、翔は、応えた。
「俺じゃぁ・・。だめなんだ」
翔は、何かを、思いつめるように、正面を、見据えていた。何も、言えず、凛は、その横顔を、みつめるだけだった。少しして、翔に、メールの着信を告げるメッセージが、聞えたが、もう、凛は、何も、言えずにいるのだった。