翔の・・・。
「また、一緒ですね。」
凛は、とり合えず、不機嫌そうな翔に、声をかけた。最近、翔と、一緒に仕事をする機会が、ふえたが、何を話したらいいか判らなかった。いつも、無愛想な感じで、頭を、ひょこんと下げて、挨拶するだけで、何が不満なのか、わからなかった。ただ、いつも、凛が、振向くと、その視線のさきには、杏奈が居り、凛と、視線があうと、にこっと、笑みを、浮かべるのだった。杏奈が、不気味だった。いつも、凛を監視しているようだった。いや・・・。凛というより、翔を監視しているのだろう・・・。翔に近ずく、女を、見張っているようだった。だから、皆、翔と一緒に仕事をしたがらない。結局、後から入ってきた凛が、その役目になってしまったのだが、凛もそろそろ、嫌気が差してきた。メアドを交換してから、すぐ、メールがきた。その内容も、翔との会話を確認する内容だった。
「何なの?これ?」
家に居た凛は、悦史にそれを見せた。
「自分の男だって、事なんだろうな・・・。」
悦史は、笑った。
「だって、あたしは、子持ちのおばさんだよ」
「関係ないよ・・。子持ちだろうが・・・。おばあさんだろうが・・・。君が、女である事にかわりはない。」
「かな?わからないわ」
「例えば。だけど、俺が、君の、お母さんと同じくらいの人と、2人きりで、飲みに行ったとする・・・。どう思う?」
意味深だ。
「うん・・・。それは、飲みにでしょう?あたしは、仕事よ。だいたい・・。あんな男の子。何かあるわけないでしょ!」
「まぁ・・・。君がそう思う内は、だいだろうけど・・・。」
悦史は、凛に謎をかけるのを、やめた。
「とにかく、気をつける事だな」
「わかった」
そんな、やりとりがあった。杏奈からの、メールは、単純だった。
・・・・何を話してたんですか?・・・今、がんばってるんです・・・。
と、いう内容だった。何をがんばっているのか?凛は、判るようで、判らなかった。ただ、杏奈が、熱烈に、翔を、思っているのだが、翔は、さほど、杏奈を思っていないのが、感じられた。
「ふん・・・。そうなんだ」
商品のチェックをしながら、翔の顔をマジマジみあげた。
「ふうん」
思わず、声を出しそうになった。そんなに、特別カッコいい顔では、ないと思った。確かに、顔立ちは、いいかと最初は、思ったが、片方の目は、一重だし、鼻は、少し、つぶれている。唇は、ちょっと、厚めだが、鼻が、悪いのか、いつも、口が、半開きだった。
・・・こおいう唇は、女にだらしがないのよね・・・
凛は、勝手に、思った。
「あのさ。」
突然、翔が、話しかけてきて、凛は、飛び上がるほど、驚いた。
「その先、床が、無いから、気を付けて!」
「えぇ!」
凛は、翔より、1段高い棚を、チェックしていた。フェンスが、2本あるはずだった。もし、そこから、落ちても、下のネットにひっかかる筈だった。だが、運の悪い事に、その隙間から、凛は、脚を踏み外し、下に落ちてしまった。
「ぎゃっ」
間抜けな声をあげて、凛は、階下に落ちてしまった。1メートル程の高さからだったが、下に、商品の入ったダンボール箱の上に、間抜けな声を上げて、落ちてしまった。
「大丈夫ですか?」
笑いをこらえ、翔は、近ずいてきた。
「意外と、抜けてるんですね」
凛の、お尻が、ダンボール箱に、減り込んでいた。
「助けてよ」
腹立だしさと、恥ずかしさで、凛は、素になっていた。
「起して!」
強制的に、翔の手をとった。・・・が。
「いたた・・・。」
思わず、翔の手を、掴んだまま、座りこんだ。打ち所が、悪かったのか、立てなかった。
「何処か、打ったんですかね?」
翔は、凛の顔を覗きこんだ。
「そうなのかな・・。」
凛が、顔をあけると、そこには、翔の顔があった。長い睫が、凛の目の前にあった。優しい顔であった。
「ごめん」
気がつくと、凛は、謝っていた。思わず、凛は、翔の唇を重ねていた。翔は、抵抗しなかった。自然に、2人は、唇を重ねてしまい、あわてて、離れた。そして、凛は、顔を、そむけ、謝っていた。
「ごめん・・・。なんか、あたし・・・。どうしたんだろう・・・。ごめんね」
これじゃあ・・・。セクハラになっちゃうじゃん。凛は、あせった。翔の顔が、ま近になった時、妙な気持ちになった。今まで、好きだとか、考えた事は、なかった。ただ・・。ごく、自然に、唇を重ねてしまった。
「あぁ・・・。」
翔が、照れていた。
「俺も・・・。ごめん」
「あたしも・・・。つい。っていうか・・・。その。」
「あの。」
翔が、あわてて、訂正した。
「嫌じゃないから」
「えっ?」
「俺。嫌じゃないよ」
翔は、凛を、起すと、体の、埃を叩き、箱を、片付け始めた。
「気になってたから」
小さく、翔は、呟いた。
「・・・・」
凛の、前で、商品を、片付けると、翔は、バックヤードから、出て行った。