始まりは、メアドから。
「仕事どうだった?」
会社から、帰るなり、夫の悦史が、聞いてきた。
「うーん。無愛想な子と、仕事したんだけど、意外といい奴でね。残業に、なる所だったんだけど、娘のお迎えに行くって、言ったら、帰っていいって。」
「ふーん。人は、見かけに、よらないからね。」
「まあ・・・。遊び人かなぁ?って、見てるんだけど」
「どうして?」
悦史は、キッチンで、鍋から、つまみ食いをした。
「あぁ!ちょっと。」
凛は、笑いながら、睨んだ。
「なんとなく・・・。もてそうな感じなんだけどね。ずーっと、彼女らしき子が、睨んでみてるの。あれって、怖いわよ」
「へえー。凛は、気をつけた方がいいよ。目立つからね」
「人妻ですけど・・。」
「関係ないよ。女の、嫉妬は、怖いから」
「よく、ご存知ですけど」
「長く、生きてるからね」
悦史は、そういいながら、娘の、優奈と、バスに、向かっていった。
「そおよね」
凛は、悦史の、上着を片付け始めた。なんとなく、ポケットに、紙切れが、入っているのに、気付いた。
・・・何だろう?・・・
取り出してみると、レシートだった。
・・・何処の?・・・
今日の、日付が、残されている。問題は、住所と時間だった。隣の街の、タウン街だった。午後2時に、缶コーヒーと、菓子類を買っている。
・・・・お菓子なんて、食べる人だった?・・・
「ねぇ?今日、出張だった?」
夫に、声かけてみた。
「あぁ!仕事でね。後輩と、隣町に、行ったんだ。何で?」
「レシート入ってたから」
「そうか・・・。」
夫は、黙った。
「捨てとくね」
何の疑いも無く、凛が、ゴミ箱に、レシートを捨ててしまった。夫が、何をしているか、凛は、まだ、何も、知らなかった。
駅ビルの、2階は、開店まえらしく、人気がなく、いつもとは、違う顔を見せていた。昼間は、華やかだが、今は、薄暗く、静寂さだけが、降りている。
「開店前は、トイレも流れないんだって」
同僚が、グチって、いた。
「本当。ケチねー」
今は、何処も、経費節減で、働く、従業員の事を、考えてる経営者なんて、ほんの、僅かだろう。空は、灰色の雲が、重く垂れ込めており、凛は、用意してきた傘を、何処に、置こうか、休憩所を、ウロウロしていた。
「ここですよ・・・。」
後ろから、小柄な女性が、声をかけてきた。まだ、幼さが、残る20歳くらいの可愛らしい女性だった。
「あっ!ありがとうございます。」
凛は、お辞儀した。
「もう・・・。何がなんだか、わからなくて。」
ぺろっと、舌をみせた。
「一条 杏奈といいます。」
にこりと、笑った。笑窪の可愛い、巻き髪のお人形さんみたいと、凛は、思った。
「よろしく、お願いします。」
凛も、くったくなく、笑った。
「凛さんって、素敵ですね。お子さんいらっしゃるって、本当ですか?」
凛の名前を知っていた。
「そうなの。これでも、主婦なの。」
「そうなんですか?あの・・・。」
杏奈は、バッグの中から、携帯を、引っ張り出した。たくさんのストラップの先に、小さな携帯が、くっついてきた。
「メルアド教えて、もらいたいんです」
「えぇ?」
初対面で、面食らった。
「ダメですか?」
拒否は、できない。
「ちょっと、待って」
ゴソゴソしながら、ようやく、バッグの、底から、携帯を、取り出した。と、いうより、掘り出した。
「いろいろ、仲良くして欲しいんです。」
杏奈は、携帯を、開いた。携帯の後ろには、これみよがしに、プリクラが、張ってあった。あんまり、興味がないので、よく見なかったが、翔と一緒の写真が、何枚も貼り付けてあった。
「じゃあ・・・。送信するね」
凛も、携帯を開いた。待受画面で、優奈が、笑っていた。