もう一つの別れ。
荷物をまとめて、車に乗った。ずーっと、頭の中で、凛といた翔の姿が渦巻いていた。自分より、遥かに若い男と凛は居た。笑顔だった。今まで、見た事のない笑顔で、凛は、翔をみつめていた。最近、綺麗になったと思っていた。それは、彼のせいなのか・・。自分は、葵に夢中だった。いつも、家に戻ると現実があった。平凡な生活。帰宅して、家族と食事をし、子供を風呂に入れる。葵と一緒にいると、何もかもが新鮮で、自分も若返った気持ちになれた。非現実の生活。後ろめたい気持ちの中で逢いに行くスリルもあった。しかし、それも長く続かず、葵も悦史と一緒にいると凛と変らなかった。というより、凛より、悦史にとっては、始末が悪かった。悦史の行動一つ一つを監視したがった。妊娠してからは、それが、エスカレートし、悦史は、葵を疎ましく思い始めていた。一端、家を出ようとしたが、凛の変りようが気がかりだった。
「どうしたの?」
病院につくと、葵が聞いた。
「何でもないよ。」
悦史は、答えたが凛の事が頭から、葉なれない。いつもと逆だった。
「なんでもないって、顔じゃないけど。」
葵は、ベッドの中で、気遣った。
「あのね・・。」
おそるおそる話し出した。
「怒らないで、ほしいの。」
葵は、流産してしまった。やはり、道ならぬ恋の結末である。うまくいく筈がない。葵は、そう思っていた。天罰だと。
「別れましょう。」
「葵?」
自分を独占したがっていた女の別れ話に悦史は、驚きを隠せなかった。
「あなたが、家庭を捨てて、あたしと一緒になろうとした気持ちだけで、十分なの。」
葵は、悦史の大きな荷物を見ていった。
「やっぱり、無理だったのよ。」
お腹をさすっていた。
「こうなるのは・・。あなたとあたしは、一緒に生きていけない。」
「葵。俺は、一緒に生きていこうと考えていた。」
「ありがとう。」
すっと、葵の頬を涙が零れていった。
「ずっと、考えていたの。あなたが、何をしているか考えると気が狂いそうになる。これじゃあ、いけないって。」
「すまない。」
悦史は謝っていた。
「心だけでなく、体まで、キズつけた。」
「悦史。そう思うなら。もう、逢うのは辞めよう。」
「・・」
「ケジメつけさせて。」
悦史は、答えられなかった。葵が、それだけ言うと、布団を被ってしまったのだ。
「葵・・。」
声をかけてみた。
「早く、出て行って。」
小さく、聞えてきた。
「早く・・。」
か細い声だった。
「さよなら。」
悦史は、そう言うと病室を後にした。