凛は俺の。
「悦史・・。」
凛は、自分の顔が引きつるのがわかった。もう、二度とあう事はないと思って、見送ったはずの夫の姿が目の前にあった。
「どうしたんだ?凛。顔色が悪いぞ。俺が戻ったのが、余程ショックだったんだな。」
冷たく笑う声が、部屋に響いた。
「そう・・。嫌うなよ。凛。」
硬直する凛を前に、悦史は、携帯を切った。何もなかったように、優奈な、父親・悦史にまとわり付いた。
「パパ!早いね。早いね。」
やはり、本当の父親とは、こういうものなのだろう。悦史は、嬉しそうな顔をしていた。
「嬉しいか?優?」
「嬉しい。パパ大好きだもん。」
「パパもだ」
「パパも好き。お兄ちゃんも好き。」
「おにいちゃん?」
お兄ちゃんと聞いた悦史の顔が凍りついた。
「そうか・・。」
ふと、ため息をついた。
「そうだよな。」
凛を見つめていた。
「凛。少し、話そうか?」
「話なんて・・。」
「話したくないか?」
逃げようとする凛の肩を悦史が掴んだ。
「俺と話せない事があるのか?」
「あなたと同じ事よ。」
「同じ事?」
悦史が、背後の壁に凛を押し付けた。
「同じ事って、なんだ?」
「今まで、あなたが陰でしてきた事・・。私を裏切った事よ。」
悦史の凛の肩を掴む手に力が入った。
「痛い。」
悲鳴をあげる凛。
「だから・・。あてつけに?抱かれたのか?」
悦史の顔がそこにあった。
「あてつけじゃない。」
恐かった。だが、悦史に自分の気持ちを正直に言いたかった。
「彼と一緒に生きて行きたい。」
「あの若いだけの男と?」
凛は、必死だった。
「ばかか・・。お前が本気になった所で、あいつは、逃げ出すさ。」
「そんな事ない。」
凛の頬を何かが溢れて行った。自分の思いと一緒に熱いものが、あふれ出す。
「彼はあたしを大切にしてくれる。」
「凛」
悦史は、左手を凛の背に廻していた。
「まだ、お前は、わかってないんだ。お前が本気になった所で、相手は逃げ出す。」
「そんな事ない。」
「まだ、わからないんだ。お前のは、俺しかない。」
「嘘つき。あの女の所に行こうとした癖に。」
「だが、戻ってきた。」
「そんな都合良く・・。何があったの?」
「お互い、自分達の将来を考えた。あいつは、家庭を持てる女じゃない。」
「だから、都合良く、戻ってきたって訳?冗談じゃないわ。別れましょ。」
「ダメだ」
悦史の両腕に力が入った。
「別れない。」
「嫌よ。先に、裏切ったのは、あなたよ。」
「でも、戻ってきた。」
「もう、手遅れよ。彼の元に行きたいの。」
「許さない。」
強引だった。凛は悦史に押さえつけられた。
「もう、何処にも行かない。」
「パパ」
優奈の見ている前で、凛は、悦史に押さえつけられていた。