夫の帰還。
翔と一緒に生きていこう。夫とは、もう、壊れてしまった。自分の気持ちに正直に生きていいのでは、ないだろうか。そう、凛は去っていった夫の後ろ姿に答えを見出していた。
「ねぇ・・。ママ?」
翔が、凛の部屋から、出勤して、優奈と買い物に出掛けていた。夕方には、帰ってくると思う。3人で、夕食を食べる事になるだろう。凛は、近くのスーパーで、買出しをし、すぐ戻っていた。
「なあに?」
「お兄ちゃんは、何が好きなの?」
「そおいえば・・?よく知らなかったわね。」
凛は、2人で出掛けた日を思い出していた。
「そう。エビチリだったかな。」
凛は、買い物袋から、エビを取り出した。
「じゃーん。ママは、知ってました!」
「ずるーい。」
「優奈も、エビがすきだったよね?すぐ作るから。」
「パパも、エビ好きだよ。」
「パパ?」
凛の顔が強張った。自分の気持ちの区切りがついたとしても、夫と優奈の絆は切れない。
「そうだよね・・。」
優奈にとって、パパと呼べるのは、一人しか居ない。
「パパの事・・。好き?」
「うん。」
優奈は、無邪気に答えた。
「好き。パパもママも・・。お兄ちゃんも。」
くったくない笑顔。自分は、夫も翔も好きなんていう事ができない。
「そうだよね。優奈は、みんな大好きなんだよね。」
「ママは、誰が好き?」
「うん・・。」
その質問は、きた。
「みんな好き。」
「パパとお兄ちゃん、どっちが好き?」
凛は、困った顔をしてしまった。
「そうね・・。」
答えようとした時、携帯は鳴るのだった。
「はい。」
出てしまってから、後悔した。夫、悦史だった。
「どうしたの・・。」
「凛。」
「何かあったの?」
夫の声は、緊張していた。
「今・・。別れてきた。」
「えぇ?」
あの女と一緒になるって、出て行ったばかりではないか。どうして、今更。
「凛。お前達と、別れられない。やり直せないか。」
「でも・・。あなたは。」
「判ってる。勝手すぎるよな。だけど・・。考えたんだ。本当に必要なのは・・。かけがいのないのは、何かって事を。」
「それは・・。何だったの?」
今まで、女性の所に行っておきながら、離婚の2文字が決定になった瞬間、未練をいうなんて。それも、凛の決心が固まった所で。都合が良すぎる。
「お前と別れたくない。」
もっと、早く聞きたかった言葉だった。
「ここが、俺のいる場所だと思ったんだ。」
玄関のドアが開いた。そこには、今朝、出て行ったばかりの悦史の姿があった。