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夜桜みる夢。恋花火。  作者: 楡崎夏芽
33/40

杏奈の魔性。

「気になるんだよ」

蓮は、決して、冗談で言っている訳でなく、移動してきてから、ずっと、杏奈の事が、気になっていた。

何処か、ぼっとしていて、陰りのある杏奈の事をいつしか、目で追いかけていた。目で追いかけていると、杏奈が誰が好きで、誰を意識しているか、一目両全であった。見れば、見るほど、翔と凛。杏奈のアンバランスな関係が、見てとれた。何よりも、杏奈の翔を慕う態度は、すぐ、わかっていた。

「だから・・。あなたが。」

コーヒーを飲み終え、給湯室に入る杏奈を蓮は、待ち伏せしていた。何度も、何度も、杏奈が一人でいる時を待っていた。なかなか、チャンスがなかった。いつも、誰かが一緒にいる。とうとう杏奈が、一人でカップを洗っている時に出くわした。

「ずーっとさ。」

杏奈は、背を向けていた。

「見てたんだ。」

「何を?」

無防備だ。

「あなたが、誰を見ているのか。」

杏奈の顔色が変った。驚いて振向く瞬間、蓮は、動いてしまった。

「ダメだよ」

杏奈は、言った。蓮は、両腕で、杏奈を抱きしめていた。

「どうして?」

蓮が聞いた。

「あいつがいるから?」

続けた。

「あいつは、あなたを見ていない。」

「違う」

杏奈は、首を振った。

「翔は、傍に居る。」

「居ないよ・・。今だって、あの女の所だ。」

「違う!」

杏奈は、持っていたカップを、床に叩き付けた。

「違うよ!」

派手な音がフロアー中に響いた。

「翔は、あたしの傍に居る・・・。いつだって。」

蓮のいう事は、当たっている。杏奈は、思った。否定したかった。凛といるのは、わかっている。でも、それは、勝手な想像だけで、現実ではない。認めたくなかった。今、電話しても、翔が出なかった事が、杏奈を興奮させていた。

「どうして、そんな事言うの?」

杏奈の瞳に、獣が潜んでいた。

「あたしに、興味があるの?」

蓮の両腕が、緩んでいた。

「そうなの?」

杏奈の顔が、蓮の前にあった。

「翔以上の、人なんて、いない。でも・・。」

蓮の頬を、杏奈の両手が包んでいた。

「同じくらいなら・・。」

厚い唇が、そっと、押し当てられていた。そう、それは、杏奈からであった。



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