君の順番は。
別の女性の所へと、向かう夫の後ろ姿を、凛は、黙って、見送っていた。一時は、本気で、愛していた。優奈が、生まれた時、目覚めると、傍に、悦史が、居てくれて、どんなに、嬉しかったか、今でも、覚えている。二人で、優奈を、育て上げた。いつも。それが、今は、すれ違い、お互いを、憎しみ合うまで、変ってしまった。愛情は、変わってしまうものなのか。2人で、お互いを信じあい、生きていこうとした日があったというのに、今は、別に生きていこうとしている。
「翔・・。」
凛は、呟いた。
「人は、変ってしまうものなの?」
「凛。」
翔は、凛が、何を言いたいのか判っていた。夫、悦史の態度に、絶望し、答えを、自分に、求めている事に。
「大切な物は、変わっていないと思うよ・・。」
翔は、言った。
「俺が言うのも。変なんだけど。」
寂しそうに、笑った。凛は、まだ、夫を、愛しているのだろうか・・?
「大切なものの、順番が、変わっちゃうんだよ。」
「大切な人?」
「違うよ。凛も、同じだろう?」
今にも、消えてしまいそうなこの人を、抱きしめたいという衝動に駆られていた。
「自分の気持ちに、正直に生きるって事。なかなか、出来ないけど、一番なんだよ・・。君のご主人はね。」
「そうなの?」
翔は、そっと、壊れ物を抱くように、凛に触れた。
「凛もそうなのかい?」
「正直に生きていいのかな?」
「俺も・・。怖いよ。」
「あたしも。」
それは、今、自分達の、気持ちに、向き合う事が、世間に立ち向かう事である事を示唆していた。
「でも・・。」
凛の心の中で、叫んでいた。
「生きようと思う。」
悦史と、自分は、似ている。さっき、夫が、苦笑いしていった言葉を、思い出していた。自分の気持ちに正直に生きる。
「翔が、好き。」
「凛。」
今まで、抑えていた自分が、崩れ落ちていった瞬間だった。別れる事は、ない。凛への、真っ直ぐな思い
で、胸が一杯になっていた。
「守るよ・・。凛。」
変らず、凛の傍にいる。そう、決心した翔であった。