今、逢いたいから。
携帯が、呼び出し音を奏でていた。凛の好きだといっていた歌手が、メロディを奏でていた。一緒にドライブとかしたら、こんな曲を聴く事になるんだろうか・・。久しぶりに、ドキドキした。
・・・出てくれ・・・
翔は、そう願った。自分の番号を見た途端に、出るのをやめるとか、まさかとは、思うが、メールフィルターするとか、そんな事を一瞬考えてしまった。情けない程、自分は、凛を、好きになっている。翔は、凛が出るまでの、時間が、途方にも、なく長く感じた。
「はい・・。」
少しだけ、疑問型の感じで、凛がでた。
「凛?」
ほんの、何日か無視していた間、辛かった。本当は、凛の声が聴きたかった。自分が、無視していた癖に、自分から、電話してしまったのを、瞬間あやまってしまった。
「ごめん・・。」
「翔?」
翔の声を、聴いた途端、凛の両目から、涙が、どっと、あふれ出ていった。
「どうしたの・・・?」
尋常でない凛の様子に、翔は戸惑った。自分が、無視していたから、凛が、泣いているのではない事が、わかる。声にならない嗚咽をあげて、携帯の向こうで、凛は、泣いていた。
「凛・・。」
しばらく、凛は、泣き続けていた。翔は、黙って、凛が、落ち着くのを、待っていた。
「待ってるから・・・。」
今、凛の傍にいない自分が、うらめしい。
「泣いてていいよ。待ってるから・・。」
「ごめんなさい・・。誰にも、言えなくて・・。ごめん」
何度も、凛は、繰り返した。
「どうしたら・・・。いいか・・。」
翔には、夫の事は、言いたくない。それでも、何かあったかは、翔には、判ってしまうだろう。
「話せるなら、聴くけど・・。」
翔は、言った。だが、何となく、自分には、言えない事が、理由のような気がした。
「ごめんなさい」
また、凛が、謝った。
「言えないの。」
「いいよ。話したくないなら」
たぶん。夫の事だろう。
「今、何処に、いるの?」
翔は、凛の自宅の場所を聞いていた。バカだ・・。自分を、翔は笑った。絶対、深入りしない。そう、決めていたのに、今、自分は、凛の自宅に行こうとしている。行ったら、どうなるか、判っている。それでも、自分は、今、すぐ、傍に行きたいと思っていた。
「すぐ、行くから。」
凛も、拒否は、しなかった。翔が、来てしまう。ここへ・・。それが、どおいう事か、凛も判っていた。・・・が、今、自分が、逢いたいのは、翔だけだった。
「ママ?」
ようやく、泣き止んだ母親の様子に、優奈が、安堵の表情を、見せていた。




